「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第335話 開発業務が計画通り進まない理由とは?
「先生、開発業務が計画通り進みません。」
年商50億円規模が目前の工業部品メーカー経営者の言葉です。
足元の事業は順調です。しかし、将来を見据えると今のままではマズいと感じています。ひとつの業界に依存しているからです。業界は変化しています。
今が順調であっても、将来は保証されていません。
時代の流れを知ると、先手を打ちたくなります。技術を絞り、業界は広くする。これは、開発業務で成功の確度を高めるお作法です。
先の経営者は、ある幹部に開発業務を指示しました。しかし、期待に反して、結果がなかなか出てきません。冒頭の言葉です。
先の経営者は幹部に開発業務を指示しました。しかし、上手く進みません。なぜ、開発業務が進まないのか?
その幹部は工場の技術部門と兼務していました。
工場の技術部門は現場のサポーター役を担います。設備が故障したら修理です。できることなら、定期保全や予知保全のような予防保全の仕組みをつくりたくなります。起きる前に手を打ちたいのです。さらには、改善活動の支援をする設備改造や改良も欠かせません。
工場の技術部門は現場の事情に合わせなければなりません。目が回るほどに忙しくなります。現場が昼夜勤の連操ならなおのことです。
幹部は、経営者から兼務を指示された開発業務をないがしろにしていたわけではありません。腰を据えてやりたくでも、目前の仕事に引っ張られて、できないのです。
技術開発、商品・製品開発は日常業務と切り離す。
これは開発業務の鉄則です。両者の時間軸が異なります。
日常業務の時間軸は1日、1週間、1か月です。時間に追われます。納期遵守やクレーム対策、労災対応となれば時間単位です。重要度も緊急度も高くなります。すぐにやらなければならない仕事です。待っていられません。
一方、開発業務の時間軸は半年、1年、3年、5年です。場合によっては、「答えのない正解」を見つけに行かなければなりません。技術にしろ、製品・商品にしろ、開発業務には不確実性がともないます。
開発業務は、見通しを立て難いのです。加えて、難易度の高い工学的課題があると見通しはますます立ちません。「答えのない正解」を探る仕事は時間がかかります。
開発業務の重要度は高いですが、緊急度は低いです。今やらなくても、今はこまりません。ただし、将来のある時点で、やってこなかったことを後悔しても挽回はできないものです。
緊急度の高い仕事で発揮できた「現場の馬鹿力」も、開発業務では無力です。「答えのない正解」を探る業務は時間を味方につけなければなりません。時間が経過した後で気付いても、遅いのです。
「重要度は高いが、緊急度は低い業務」にはそうした性質があります。問題の先送りは真綿で首を絞められるような状況に陥るのです。じわじわきた後、どうしようもなくなります。
開発業務にはロードマップが欠かせません。時間を味方につけるからであるとともに、人は元来、怠け者だからです。尻を叩かれないと頑張れない習性もあります。計画表が必要です。
・時間軸の短い日常業務
・時間軸が長い開発業務
製造業は技術革新と競合の追い上げに晒されています。変化との競争です。外の変化に合わせて、内を変えなければ生き残れません。
経営者は時代の変化を読み、変化を先取りして、時間軸が長い開発業務を設定します。時間軸が短い「今」の仕事と時間軸が長い「将来」の仕事を平行して進めなければなりません。
そうして足元で稼ぎながら、将来も儲けるのです。
要点があります。
技術開発、商品・製品開発は日常業務と切り離す。
つまり、時間軸が長い仕事と時間軸が短い仕事を兼務させてはダメと言うことです。
少数精鋭の中小現場では一人何役という多能工化で腕を磨きます。時間軸が短い仕事での多能工化は大いにやるべきです。兼務も大いに結構!
しかし、時間軸が長い仕事と短い仕事を兼務させると担当者が困ってしまいます。開発業務を兼務でやらせてはいけないのです。
製造業務と開発業務を兼務した管理者は前者の仕事に引っ張られます。製造現場では、毎日、予期せぬことが起きるものです。緊急度を高くして、直ぐにやらないといけません。
そもそも、毎日、問題が起きているから、その仕事で「管理者」を任されているわけです。いきおい開発業務は後回しになります。
仕事を一生懸命にこなそうとする管理者ほど、開発業務は進みません。目前の仕事に引っ張られます。時間軸が長い仕事と時間軸が短い仕事は兼務できないのです。
自動車部品工場時代、技術開発、製品開発の業務を数年間、担ったことがあります。上司にはこう言われていました。
「製造現場のことは他のメンバーに任せろ。お前はこの仕事に専念して結果を出せ。」
そのときから現場業務を離れ、将来の飯の種を探る業務に没入しました。3年ほど先を見据えた仕事です。
ですから、今やらなくても困らないわけですが、3年後、そうなっていないと思いっきり困ります。
成功しなければ、我が工場の命脈を保てなくなるのです。社運を賭けたプロジェクト。将来を見据えるとはそう言うことです。
3年後から逆算して、今やらなければならないことをロードマップに整理したことを憶えています。
答えのない正解を探るのです。外へ答えを見つけに行きます。幸いに成果を出せました。日常業務と兼務していなかったからです。
中小製造企業は少数精鋭です。大手のように余力はありません。したがって、経営者は、特定の担当者に日常業務と兼務させ「合間でやって欲しい」と考えがちです。
時間をうまくやりくりしながらやってくれるだろうと期待します。
しかし、その期待は見事に打ち砕かれるのです。兼務をしても、担当者は日常業務を優先します。今やらないと、今困るからです。
そもそも、社運を賭けた開発業務を「兼務」でやらせるのも問題です。我が社の将来に影響を及ぼすプロジェクトがそのような扱いでは、何かが間違っています。
だから、少数精鋭の中小現場では経営者が自ら開発業務に携わることになるのです。
開発業務で探る「答えのない正解」の多くは外にあります。少なくとも内にはありません。
つまり、経営者が従業員の誰よりも正解から近いところにいるのです。当コラムでは、経営者の仕事場は外にあると申し上げています。
いきおいがあるご支援企業では、経営者が自ら技術開発や商品開発に挑戦され、市場の声に耳を傾け、お客様の懐深く入り込み、競合とは違う価値創出を実現しています。
工場のことを現場に任せることができていない経営者は内に時間を取られるので、外での時間を割けません。その結果、開発業務も進まなくなります。負のスパイラルです。
少数精鋭の中小現場では、多くの従業員は足元収益のために頑張っています。将来収益は経営者が踏ん張るしかありません。将来の事業を生み出すのは経営者の仕事です。
競合と同じことをやっていても儲かりません。目指すのはイノベーションです。したがって、闇雲に開発業務を進めればいいというわけではありません。
手順があります。答えを外で探ります。そうして逆算して、今やることを明らかにします。ロードマップです。ロードマップは経営者にしか設定できません。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、将来の仕事を担う人にそれだけに専念せよ励ますので開発業務が進む
衰退する現場は、将来の仕事を担う人に今の仕事も兼務させるから開発業務が進まない