「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第363話 設計、開発部門が必要な事業モデルになっているか?

「いよいよ設計・開発の守備範囲を広げようと思います。」

ご支援して3年目になる機械メーカー経営者の言葉です。

 

特定のコア技術をお客様に提供している企業です。お客様にヒアリングし、設備を設計、製造し、現合で立ち上げています。

自社開発の独自設備を提供できています。部品だけ、切削だけ、塗るだけという単品、単体の事業モデルより付加価値額を積み上げやすいです。

その企業が提供している機能は具体的なので、刺さるお客様に刺さります。

 

ただし、ここからさらに人時を高めるには、事業モデルの深耕を図る必要があるのです。ご支援当初から、経営者とそのアイデアを温めてきました。

お客様は、そのうちに設備だけでなく、設備周辺の搬送や自動化も含め、製造ラインとして立ち上げて欲しいと要望してくると予測されたからです。

お客様である中堅メーカーも人手不足です。自社で設備まで面倒をみられないことも多々あります。

 

先日、先の経営者が主要なお客様と新規受注で打ち合わせをしていたときのこと。お客様から要望がありました。

「設備だけではなく、周辺設備も含めてお願いできないか?」との要望です。温めてきたアイデアを実践する時が来ました。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

儲かる事業モデルを考えるヒントはスマイルカーブにあります。

横軸に商品を企画してから上市、製造、発送、営業、メンテ、各種取り組みを時系列に並べ、縦軸に各種取り組みが生み出す付加価値の多寡を模式的に現わしたものです。

 

商品企画、開発、設計はお客様に価値を提供できるプロセスと言われています。デザインインでは、お客様の懐に飛び込で価値を生み出します。

製造は先の開発、設計と比べてお客様に届けられる付加価値は小さいです。大手の製造現場でやられている機械化、設備化、自動化、無人化を考えれば腹落ちすることです。

ここでの課題は製造品質となります。コスト削減が主たる課題です。

そして、その後はお客様へのフォロー、アフターサービスやメンテンナンスとなります。ここも価値を生み出すプロセスです。

 

企画、開発、設計、設計、製造、アフターサービスの順に生み出す価値の多寡をプロットすると、ニコニコマークの口元ラインになります。

製造を中央にして、上流と下流に儲けのネタがあるのです。

スマイルカーブで考察すれば、儲からない下請けモデルが分ります。汎用設備を並べて、お客様からもらった図面のとおり、納期までにつくる、造るだけの事業です。

圧倒的な製造量で他社を凌駕すれば儲かります。TSMC台湾半導体は有名です。

ただし、物量が中途半端だと、儲けが限られます。製造プロセスに独自性があるなら、そこでの差別化も考えられますが、汎用設備では、並べさえすれば誰でもできるというわけです。

 

 

 

 

 

上流側の設計・開発部門が必要とされる事業モデルは自ら価値を生み出す機会があります。本当の意味での「メーカー」になりたいのなら設計・開発部門が必要です。

値決めをコスト基準だけでやっているうちは儲かりません。お客様に届ける価値を基準に値決めができるようになって初めて「メーカー」と言えます。

「伊藤君、ウチもメーカーを目指したいね。」とは中小現場の管理者時代、その企業の役員がしばしば言っていたことです。その企業は設計・開発が不要な事業モデルでした。

貴社には設計部門がありますか?

 

製造企業経営者は、設計・開発部門が必要な事業モデルの構築を目指します。今はそうでなくてもいいのです。これから目指せばイイのです。その方が生き残る確度を高められます。

値決めは経営と言われます。価値に見合った価格を自ら決められるようにすることは生殺与奪の権を自ら握る上でのマスト事項です。

 

経営者が手にしたい価格を設定するには、それに見合った、あるいはそれ以上の価値をお客様に提供できなければなりません。設計・開発部門が価値を生み出す役割を果たします。

設計・開発部門が不要な事業モデルでは、お客様に言われた価値を言われるまま提供するだけです。値決めの決定権を手にできません。

 

 

 

 

 

設計・開発力の対象は2つです。

・商品の設計・開発

・設備の設計・開発

商品設計はお客様に届ける価値の直接的設計です。お客様は商品それ自体からメリットを享受します。お客様の期待以上の価値を生み出せれば、かなりの頻度でお客様に選ばれます。

設備設計はお客様に届ける価値の間接的設計です。その設備で製造すればお客様へ期待以上の価値(QCD)を持つ商品が出来上がります。

我が社独自の製造設備を自ら設計するのです。

市販設備でも独自設計、開発の強みは発揮できます。特色ある治工具類の活用や独自加工プログラミングの考案、巧みな製造条件の追求。これらは全て価値の間接的設計です。

 

自動車部品工場時代、所属部門には自動車部品設計部隊と製造設備設計部隊がありました。

工場の開発担当として、新たな付加価値額を積み上げるために、技術開発、製品開発、設備開発、生産ライン設計のPJを担ったとき、独立した2つの設計・開発部門があったので連携により大きな成果を出せました。

スマイルカーブ上流側の取り組みと言えます。

 

 

 

 

 

先の企業の課題は商品設計力強化です。従来は設備単体での受注が多かったのですが、昨今、周辺設備自動化も含めた受注が増えつつあります。

逆に、周辺設備自動化に対応できなければ、受注自体がなくなる懸念があるほどです。

 

先の企業では人手の関係もあり、設計業務の一部を外注化しています。これまでも周辺設備自動化設計を外注にお願いすることがありました。

外の力も活用しながら、周辺設備自動化設計のノウハウも積み上げようとしてきたのです。

 

少数精鋭の中小製造企業です。大手のように「余力人材」はいません。当面は外部の力を借りながらで構いません。

ただ、設計業務は価値を生み出す重要プロセスです。中長期では、我が社のキーパーソンが担う体制にします。生殺与奪の権を自ら握るためです。

設備単独だけではなく、エンジニアリング業務ですそ野を広げます。製販一体、全社一体で取り組む設計力強化の中長期方針です。

お客様のところに足を運んだら、宿題を持ち帰ってから回答することなく、商品設計の是非や納期をその場で判断できるようにしたいと経営者は考えています。

お客様は利便性が高いサービスに対して価格以外の観点で我が社を選んでくれるからです。

 

 

 

 

 

経営者の冒頭の言葉を受けて、

「いよいよエンジニアリングを取り込む時期に来ましたね。」との言葉を返しました。

ただし、少数精鋭の中小製造企業です。設備単独だけではなく、エンジニアリング業務ですそ野を広げたくても、その業務へ当てる従業員はいません。

当面、外部の力を借ります。ただし、タイミングを見計らって、我が社でもやってみなければなりません。

 

「まずは私自身がやってみます。」

経営者自ら周辺設備自動化設計に挑戦しようとしています。要点を理解していないと的確な指示ができないからとのこと。

この経営者の姿勢には賛成です。経営者が先頭に立って新たな業務に取り組む姿勢は従業員を奮い立たせます。

 

少数精鋭の中小製造企業では、設計・開発部門を持っていないところもあります。そこまでの余力がないのです。

そうであるなら、設計・開発のキーパーソンは経営者となります。

市場と向き合っているのは経営者です。会社の中でお客様のことを一番知っているのが経営者なので、その経営者が自ら設計・開発の先頭に立つことは理にかなっているのです。

 

「社長、自ら設計・開発をやると言っても、社長業が本業ですよ。」

「分かっています。教えてもらった進め方でやりますから。」

全てを理解して、自ら周辺設備自動化設計に挑戦しようとしている経営者です。

 

経営者のそうした姿を目にすれば若手は奮発します。経営者自身が要点を把握できたら、白羽の矢を立てた若手にやらせてみるのです。

周辺設備自動化設計に挑戦させるのは下記従業員を考えています。

・従来の設備設計をやっていた従業員

・製造部門の従業員

志ある若手従業員なら、後者でも上手くいくことが多いです。

 

先の企業はスマイルカーブの上流で儲けよう歩みを始めました。ここからの試行錯誤はブラックボックス化されます。競合が真似できない模倣困難な差別化要因です。

 

「先生、自社製品を持っていてもエンジニアリングができないと、結局、大手の下請けになってしまう懸念もありますね。」儲かる事業モデルの本質を理解している経営者です。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、スマイルカーブの上流で儲けようと試行錯誤し値決めの決定権を手にする

衰退する現場は、製造だけに焦点が当たっているのでコスト削減しかできず儲からない