「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第374話 お客様の要望を理解しているか?
「ウチが何で稼いでいるのか分かっていないのです。」
先日、プロジェクトに着手した30人規模部品メーカー経営者の言葉です。
売上の大部分を特定の大手部品メーカーに依存しています。先代が築いた収益基盤です。
2代目である先の経営者は2つの経営課題を認識しています。特定のお客様依存からの脱却と足元収益の基盤強化。
前者は新規お客様の開拓です。後者は製販一体体制構築による、売上高増です。特定顧客への依存度が高いことがリスクになるのは明らかです。新規お客様開拓の重要度は高まります。
ただ、並行してやらねばならないのが、足元収益の確保です。将来へ向けた取り組みと共に、今の収益確保も確実にやらないといけません。
今のお客様の要望事項に応えるため、製販一体体制をもっと強化しないと、経営者は安心して、新規お客様の開拓に専念できないようです。主要なお客様との取引を確実で強固なものにしたいと考えています。
そして、お客様は我が社にあることを期待しているのです。そうであるなら、製販一体体制でその期待に応えればいいのですが・・・。現場はそのことが理解できていません。経営者は現場の言動にそう感じています。冒頭の言葉です。
現場を変える前にまずは意識を変える必要があるようです。お客様に選ばれる理由、その理由で我が社は稼がせてもらっています。
お客様の要望に応えること。
これが下請け型モデルで稼ぐ要点です。そして、そのお客様が多くの中小製造企業に要望していることのひとつが、多品種少量、変種変量への対応です。
規模が大きな協力会社は手間暇かかって面倒でロットの小さい案件をいやがります。お客様にとっても小ロットをさばいてくれる協力会社は大切なパートナーです。
少数精鋭の中小製造企業の強みがここで発揮されます。小回り性、機動性、柔軟性。我が社はこれらでお客様から選ばれているのです。
現場はそのことを知っていますか?
そして、お客様から求められることは、我が社の生産形態にあらわれます。
製品別レイアウトで求められるのは効率性です。工程間の同期化が課題となります。機械化、無人化、設備化、自動化。規模で稼ぐ大手のプラントレイアウトコンセプトに必ず入ってくる課題です。
一方、機能別レイアウトは柔軟性です。お客様の多様性に対応します。小ロット生産です。突発、特急、変更も普通にあります。工程間の自由度を活かす生産形態です。
製品別レイアウト、機能別レイアウト、それぞれ目的があります。
現場は今のレイアウトになっている目的を理解していますか?
お客様から選ばれる理由が多品種小ロット生産にある下請け型モデルの現場が持っ思考回路が下記では問題です。
・小ロット生産に対して「まとめてたくさん造った方が楽だ。」と考えている。
・自分が担当している工程の仕事だけをこなせば十分と考えている。
どちらの言動もお客様から選ばれる理由とは真逆です。
手間暇かかって面倒でロットの小さい案件をスマートにこなすための主要な課題は段取りです。段取りをくるくる回して小ロット生産を実現させます。
柔軟性の高い現場では、作業者全員が段取りのプロになっていなければなりません。作業バラツキを減らし、全体の底上げを図ります。段取り改善のお作法です。
こうしたことが面倒くさいと、「まとめてたくさん造った方が楽だ」となります。先の経営者が嘆いていた現場の思考回路がこれです。
さらに柔軟性はチーム力の成果です。一人で柔軟性は発揮できません。メンバー同士で仕事を補完し合って初めて、小回り性や機動性の強みが活きるのです。
工程間業務負荷に偏りがあったとき、メンバー同士で仕事を補完し合う雰囲気が現場にあれば、一人当たり業務の平準化できます。
成果をドンドン出しているご支援先の現場に共通していることのひとつがこれです。その結果、外部環境の変化に関わらず工場全体のLTを維持できます。
多能工化が課題ということです。自分が担当している工程の仕事だけをこなせば十分と考えている現場に多能工化を期待しても時間だけが過ぎていきます。
お客様が我が社を選んでくれている理由を知らないからそうした思考回路になるのです。ついては我が社が何で稼いでいるのかも理解できていません。
例えば、品番に材料が紐付くくらいの多品種小ロット生産であるなら、それに対応する生産形態、思考回路になっていないと競合を凌駕する成果を手にできないのです。
お客様に選ばれる理由、その理由で我が社は稼がせてもらっているわけですから、現場の一人ひとりが、そのことを知っておかなければベクトルは揃いません。
自分のやりやすい方向に引っ張られる現場を正しい方向へ引っ張り戻さなければなりません。お客様の要望に対応するため、我が社がやり方を変えるのです。
多くの場合、ここで求められるのは「できないことをできるようにする」です。ただし、現場は、長年やっている自分たちの仕事のやり方を変えようとはしません。
これまでのやり方に慣れているので楽です。しかし、変えなければ生き残れないのです。そのやり方ではお客様に選ばれません。
現場のやり方がお客様の要望と合致していなければそのことに気付かせる必要があります。「我が社は手間暇かかる小ロット生産でお客様に選ばれているのに、今のやり方では単なる効率追求の大ロット生産のやり方になっている。大手と同じやり方をしても大手に勝てるわけもなく、そもそもお客様の我が社への要望はそこにはない。」
たくさん造って安く売ることは大手に任せればいいのです。
お客様の要望へ応え続けるためには、我が社も儲けなければなりません。お客様から手間暇かかる小ロット生産を要望されているなら、手間暇かかる小ロット生産であっても儲かることを考えることが経営者の仕事であり、指示導線の論点です。
そこでは、従業員一人ひとりの知恵を借ります。協力をお願いするのも経営者の仕事です。工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにあります。
「お客様は我々に何を期待しているのか?」
我が社はこの問いの答えで稼がせてもらっています。全ての判断軸はこれです。現場の思考回路に埋め込みます。
人時生産性を高める取り組みは改革です。現場と意識と構造を変えます。
改革の初手は意識改革です。積み上げる付加価値額の源泉は外にしかありません。内にあるのはコストだけです。したがって、お客様の要望に応えることが生き残りのカギであることを現場に教えます。製販一体体制はその延長線上にあるのです。
その意識がなければ、そうしたチームはできません。想いがなければ形あるものはできないのです。そこで右腕役や現場キーパーソンへのトレーニングが必要になります。実務を通じて思考訓練するのです。弊社がPJで支援をする所以がここにあります。
さらには、お客様に選ばれる理由について考える機会をつくることです。経営者はお客様が我が社に期待していることを知っています。一方で現場は知らないのです。
そうであるなら、従業員をお客様の現場へ足を運ばせることもイイでしょう。お客様と直接に話をする場を設けることも有効と思われます。なぜ経営者によるトップダウンが必要なのかも肌感覚で理解させられるはずです。
先の経営者は、現場に分かっていない何かをわからせるために何をやるとイイのか気付いたようです。人時生産性を8,000円台へ高める意欲的なロードマップを設定した経営者です。その想いをトップダウンで現場へ示しています。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、お客様が我が社に期待していことを知っているので仕事のやり方を変える
停滞する現場は、お客様の顔が見えていないので自分たちのやりやすさを優先して変えない