「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第377話 人材を見極める前にやることをやったか?

「現場が今のままでは、社長になりたいとは言わないでしょう。」

先日、個別相談をいただいた40人規模素材メーカー経営者の言葉です。

 

サプライチェーンの上流にある企業です。付加価値を加えにくいポジションにいます。そうした中でも生き残り、人時を高めたいと考えている同族企業3代目の経営者です。

これまでのことを伺い、今後の課題を整理したところで、話題がちょっと横道にそれました。次世代経営者のことです。

10年ほど経過したら、今は他企業に所属している身内に次を託したいと考えています。本人もそのことを、うすうす気付いているようです。まだ、はっきりとは伝えていません。

 

そこで、先の経営者に尋ねました。

「その身内の方に次世代経営者就任の打診をしたら快諾してくれますか?」

意外な言葉が返ってきました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

経営者はトップに立ったその瞬間から考えなければならないことがあると言われます。

「次の社長を誰にするか?」

右腕役、側近役としての仕事ぶりを見ながら候補者を絞り最終決断する大手企業での話をしばしば耳にします。経営者は早い時期から、次期社長候補を考えているはずです。

人の見極めには時間がかかります。これは会社の規模に関係なく同じです。大手における見極めの判断基準は「事業を成長させる改革をトップダウンでやり切る構想と胆力の有無」あたりでしょうか。

 

大手の現場は、その規模故、長い間で培った仕事の回し方があります。100人以下なら、力技で回せても、規模が200人、300人、500人、1,000人と増えたら力技では無理です。

ここに仕組み、ルールが生まれます。

ルールで指示導線を機能させることを知っているのです。

大手なので仕組みがあるのか?仕組みがあるから大手なのか?ニワトリと卵の話の話でもありますが、結果としてそうなっています。

400人規模の工場と転職先の40人規模の現場に実務で身を置き、比べて知ったことです。

 

 

 

 

 

・売上が計画値に足りていない。不足分の仕事を獲りにいくぞ。

・競合が新たな技術で新規開拓の攻勢をかけている。それを上回る技術を開発するぞ。

・圧倒的な短納期で収益力を高めたい。製販一体で競合を凌駕するLTを極めるぞ。

できないことをできるようにする思考回路、無理を承知で出されたトップからの課題に挑戦する姿勢。仕組みがある現場にはこうした思考回路や姿勢があります。

 

当然、次期経営者に現場改革が求められることもあるでしょう。非常事態ではそうです。

ただ、経営者の仕事場は外である以上、構造改革という大きな枠組変革ができる手腕が重要視されます。市場と向き合うわないと儲からないのは大手も同じです。

大手の新しい経営者が将来へ向けた成長路線を意欲的に描けるのは、足元(現場)がしっかりしているからです。

 

 

 

 

 

中小製造経営者の仕事も儲かる構造に会社を作り替えることにあります。ただ、その前に課題に着面する場合もあるのです。

・指示導線を機能させる現場改革をやらなければならない。

 

先のご相談をいただいた経営者の企業がそうです。個々の力量に依存した現場はそうなります。一人親方寄せ集め現場、チーム力を発揮しにくい個力に頼った現場です。

・納期までに造る。

・自分ができることをやる。

作業者(ベテラン)の多くはこうした思考回路に基づいて仕事をやっています。売上規模3億、5億の力技で回せる現場故、これまでこのやり方でも結果を出せました。指示導線を機能させなくても、個力でやれたのです。

しかし、技術が進化し、モノづくりが複雑化、高度化して、さらにはお客様の要望も変わっています。外に合わせて内も変えなければ生き残れません。現場の思考回路、頭の中のOSを入れ替えるのです。

・指示導線を機能させる現場改革をやらなければならない。

そうした現場が悪いとか、劣っているということではありません。内のことしか知らないからです。現場に外のことを知らせて、変わるように促します。

 

ただし、簡単なことではありません。改革に着手すればわかります。組織には262の傾向があるからです。

変化に抵抗する、変化に対応できない従業員には何らかの手を打たなければ改革は進みません。この問題を放置していると、将来の次期経営者はここから始めることになります。

 

 

 

 

 

「ファミリービジネス白書」2022年版によると同族企業は上場企業のうち約半分です。非上場の中小企業を含めると90%になっています。

弊社のご支援先企業も全てが同族企業です。先代、先々代が創業者、現経営者は2代目、3代目の同族経営者というケースが多いです。

創業者は圧倒的なカリスマで従業員を引っ張ってきました。

ゼロイチの迫力です。荒野を切り開いてお金を生み出す仕組みを創り上げました。創業者はその存在自体に意味があります。

販売から製造まで全てひとりでやってきました。背中で従業員を導いてきたのです。ここに理屈はありません。仕組みの有無も無関係です。ゼロイチはそれだけでオーラを出します。

従業員は創業者に対して、得手不得手、様々な感情を抱くかもしれませんが、共通しているのは「この社長にはかなわない。」という思いです。荒野を切り開いたゼロイチの迫力がそうさせます。

 

 

 

 

 

創業経営者から事業を引き継ぐ2代目、3代目は下記の課題に直面することがあるのです。

・指示導線を機能させる現場改革をやらなければならない。

2代目、3代目は創業者と同じような仕事のやり方はできません。背中ではなく、仕組みで導きます。荒野を切り開くのと、土地を整備、拡大させるのとでは、やり方が違うのです。

背中で従業員を引っ張る組織はトップに一人ひとりの従業員が従うフラットなチームになっています。横の連携よりは経営者との1対1です。

創業期で混乱も少なくありません。規模も小さいのでそうしたやり方が効果的でした。従業員はひたすら個力を磨きます。

経営者に評価されたい、選ばれたい、好まれたい、そして叱られたくない。創業時、従業員はこんな気持ちで頑張ったはずです。

 

 

 

 

 

しかし、創業時から代替わりして2代目、3代目の時代になると、背中で導くやり方では無理が生じます。

規模が大きくなってきました。10人、20人から30人、40人、50人規模です。そもそも、技術が進化し、モノづくりが複雑化、高度化して、さらにはお客様の要望も変わってきました。

最早、個力ではなく、チーム力を活用しないと成果を出せなくなったのです。創業時代から頑張ってきた現場とそうした現場を引き継いだ現経営者との間にギャップが生じます。

個力を磨くことに頑張ってきたベテランとチーム力を生かしたい2代目、3代目。だから下記が課題となります。

・指示導線を機能させる現場改革をやらなければならない。

現状を放置していると、次世代経営者は現場改革からやらなければならなくなるのです。いきなりでは負荷も大きくなります。主導権を持てない苦労するのは明らかです。

この状況を知れば、候補者も二の足を踏むでしょう。分かっていて、率先して主導権を持てない苦労する人はいません。わざわざ、火中のクリを拾う人はいないのです。

 

 

 

 

 

「私の代で指示導線を機能させるチームを造るつもりです。」とは先の経営者の言葉。

この決断は大切です。時代は変わりました。個力ではなく製販一体のチーム力を生かした仕事のやり方を確立する必要があります。

 

2代目、3代目は次世代経営者になってもらいたい経営者の姿を体現するのです。次世代経営者が必要なのは学ぶためのお手本となります。

・創業者の真似はできないこと。

・ただし、引き継ぎたいDNAはあること。

・そして、これからは仕組みで導くこと。

・だからロードマップで経営者の想いを言語化、数値化すること。

 

想いを言語化、数値化するスキルの重要度が高まります。経営者の頭の中は誰も知りません。2代目、3代目は言葉と数字で人を動かすのです。

ロードマップが工場を不在にしている経営者に代わって現場を導きます。次世代経営はこうした新たな経営者の仕事のやり方を学ぶのです。

 

これは今の右腕役従業員にも言えることです。

今の右腕役には重要なミッションがあります。次世代経営者の支援チームをつくることです。次世代経営者の右腕役を見極め、指導します。そうであるなら、今の右腕役も手本にふさわしい仕事ぶりに変わってもらわなければなりません。

「なるほど、今の右腕役にもやり方を変えてもらいます。」とは先の経営者の言葉。

 

 

 

 

 

経営者の仕事は人時を高める事業構造改革です。

トップダウンによる指示導線が機能するチームづくりもあります。次世代へ引き続く環境を整備すること、次世代経営者の手本になることです。

右腕役の仕事ぶりも気にしなければなりません。

次世代経営者の右腕役を指導するのは今の右腕役です。こうした環境が整備されれば、身内の経営者候補は人生をかけた決断をしてくれるはずです。

 

次世代経営者を見極める場合も採用のために人材を見極める場合も、大事なのは受け入れ側となります。判断基準を持たずに決めた後、決めた事を後悔する事態に至った時、「これは想定外だった~」と問題の原因を外側に求めても何も変わりません。

人材を見極める前にやることがあるということです。

・見極める判断基準がはっきりしていなかったこと。

・そもそも受け入れ側が判断基準水準に至っていなかったこと。

我が社が至っていないこところを認識し、地道に取り組んでいくだけです。先の経営者はそのことに気付いていました。次世代経営者の支援チームをつくることも課題です。

次は貴社が挑戦する番です!

 

成長する現場は、トップダウンによる指示導線が機能するチームをつくり次世代へ繋ぐ

衰退する現場は、個力を優先した属人的なまま変わらないので次世代ですったもんだする