「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第394話 経営者が獲りに行く!と決意した時に必要なことは?
「そういえばお客さんからこんなこと聞かれました。」
PJに着手をして2年目に入った経営者の言葉です。
人時生産性向上は製販一体で取り組みます。外と内、販売と製造は一体でないと儲からないのです。車の両輪と言えます。先の経営者は一昨年、両輪の整備に着手しました。
内ではリードタイム短縮活動の環境整備です。右腕役が仕組みをつくり、現場のベクトルを揃えています。
一方、外では販売戦略です。ここは経営者です。移動累計やABC分析で現状整理した後、販売計画立案の手順を決めました。
いよいよ付加価値額上乗せモードに切り替えます。獲りに行くモードです。「シェア」に着目します。「シェア」について議論していた時、その経営者は、あるお客様から投げかけられた言葉を紹介してくれました。
冒頭の言葉です。
先の経営者の事業は印刷関連消費財です。主なチャネルは2つ。印刷メーカーおよび商社・卸業です。先々代がユニークな事業モデルを構築しました。現在も事業は安定しています。
ただ、数年来、年商が横ばいです。横ばいでは、その体質が現場に染み付きます。いざというとき、現場の馬鹿力を発揮できません。年商にガラスの天井ができるのです。
ヒタヒタでも成長モードにないと中小製造企業は生き残れません。技術は進化し競合は必死に追い上げてくるからです。成長モードに切り替えたいと考えた経営者はPJに着手しました。
ユニークな事業モデルです。差別化商品と既存お客様との厚い信頼関係。先の経営者は特定製品について、既存お客様からこのように声をかけられました。
「おたくのこの製品は業界でもシェアがトップではないですか?」
なかなか、鋭い質問をしてくるお客様です。それで、どんな返事をしましたか?と先の経営者に尋ねました。残念ながら、先の経営者は明確な返事ができなかったとのこと。
トップか、そのあたりに立ち位置があるのは感じていますが、それはあくまでも肌感覚。データに裏付けされていません。
そもそも、それまで「シェア」を考えたことはなかったのです。お客様には、お茶を濁すしかありませんでした。
人時生産性向上の要点のひとつは、詰めて、空けて、取り込むことにあります。現場で改善活動ばかりしていても儲かりません。
・取り込むこと
・詰めて空けること
この2つを連動させるのです。取り込むことで、分子の付加価値額を積み上げられ、生産性は高まります。つまり、計画的に生産性を高めたかったら、取り込むこと、つまり、経営者の意志と意図を持って外から獲ってくることをやらないとダメだということです。
そして、経営者が「獲りに行く」と決意した時点で必要なことがあります。
標的です。
獲りに行くとは能動的な行動です。ターゲットを設定しないと獲りに行けません。電話を待っているだけでは、獲りに行っているとは言えないのです。
標的があるから、能動的に獲りに行けます。
そして、ターゲットの選択肢は2つです。
・既存お客様
・新規お客様
標的でまず頭に浮かぶのは既存お客様です。多くの経営者は、既存お客様に、追加の既存商品・製品・サービスを提供するところから考えます。既存お客様の深掘りです。
セミナーなので事例をお伝えしていますが、ここで成果を上げている経営者が少なからずいらっしゃいます。顔が見えるお客様ですので獲りにいきやすいです。
ただ闇雲に深掘りすればいいというわけではありません。ここは大事です。
そのお客様の業界は成長モードにあるのか?衰退モードにあるのか?そして、そのお客様の業界での立ち位置はトップ企業なのか?競合先の後塵を拝する限界企業なのか?
さらには、我が社はそのお客様のサプライヤの中で主要パートナーなのか?その他大勢パートナーなのか?
この問いかけは大事です。
つまり、深掘りするにも、その既存お客様の業界は既に衰退モードにあり、加えてそのお客様はその業界で競合先の後塵を拝する限界企業であり、さらには、我が社はそのお客様のサプライヤの中で、その他大勢パートナーだったらどうでしょう。
何か下振れ要因や業界変化があれば、我が社は真っ先に切られます。そもそも、このようなお客様では市場から消えてしまうかもしれないのです。
経営者がそこに時間を割くのは、将来投資になるでしょうか?
これは全て、シェアの考え方によります。いろいろな意見はあると思いますが、自動車業界ならトヨタ自動車との取引を目指したくなるわけです。
新規お客様を標的にするなら、まずはどの業界か?どの地域か?など、標的要因の決定からです。絞らないと獲りに行けません。経営資源と時間は有限です。
新規お客様でも既存お客様の時と同じように考えご縁を探ることになります。ただ、最初はご縁を大切にするので、上記の具体検討はご縁を持った後で、ずっと先です。
ただし、上記の具体検討は新規お客様と出会った時点でも忘れてはなりません。「将来の」主要お客様と出会うのは現経営者の大事な仕事です。
「もしかしたら、このお客様は、将来の我が社の事業を支えてくれる主要お客様になってくれるかも?」
獲りに行く経営者はこう考えます。一見さんのお客様も大事にしなければなりませんが、少数精鋭の中小製造経営者なら、どこに時間とエネルギーを費やすべきか、明らかです。
貴社のある特定商品(群)、製品(群)の年商が1億円とします。その商品(群)、製品(群)の市場規模が1,000億円の場合と100億円の場合では、市場における貴社の存在感は全く違います。
市場における0.1%の存在感と1%の存在感。
中小なので規模は追いません。その市場の隙間を狙います。差別化です。
ただし、だからと言って、規模が小さすぎるのも問題があります。市場変化があったら、その隙間は一瞬にして雲散霧消する懸念があるからです。一定規模があればその隙間市場の耐力は高まります。貴社も生き残れるのです。
少数精鋭ですから、大きすぎてもダメ、だからと言いて小さすぎてもダメ。経営者が外に身を置き、肌で感じ、お客様に教えてもらいながら判断するしかありません。
経営者が自ら試行錯誤しながらつかみ取るものです。ここはいかに外部の情報に触れるかによります。我流よりも、周囲と議論しながらやるのがいいようです。
先の経営者も業界の市場規模を調べて、自社の立ち位置を明らかにしようとしています。
市場規模を調べる手段はいろいろです。弊社も事業を展開するときに調べています。標的市場を明らかにしておけば、現在の立ち位置と将来に獲れる金額規模が分かるのです。
今、先の経営者の頭に浮かんでいる構想があります。「〇○○で日本一」。
標的市場が分かれば、この構想が言語化、数値化されます。ここまでくれば工場でやる改革の進め方が自然と決まるのです。
設備投資と多能工化が課題であると先の経営者は考えています。5年のロードマップ。まずは、現在の人員と設備でMAX更新に取り組むのです。
この考え方は、「電話が掛かってきたら仕事を受けて、それをこなせばいい」という主導権のない下請けモデルにはありません。能動的に獲りに行きたかったら市場を調べなければならないのです。
大手の経営計画を見てください。最初に取り上げられているのは市場です。大手のイイところは見習います。
「お宅のこの製品は業界でもシェアトップではないですか?」とのお客様からの問いかけに「はい、そうです。ウチはトップです。」と言えるようになれば、お客様は安心します。
これからも、先の経営者に製造をお願いするでしょう。シェアの力です。
例えば、お客様内でのシェアが50%以上のパートナーと5%程度のパートナー、濃い存在と透明人間のような存在、お客様はどちらに目をかけてくれるでしょう?
そのお客様が、万が一の状況になったときも、50%以上のパートナーには事前の情報を届けてくれるはずです。これまでのダメージを最小化できます。
一方、5%程度のパートナーにはどうでしょう?多数あるその他大勢のパートナーのことまで配慮するゆとりはないかもしれません。お客様は「せめて世話になった主要なパートナーにだけでも」と考えるかもしれないのです。
シェアトップになって、「はい、そうで、ウチはトップです。」、そう答えるようになりたいと先の経営者も考えています。それが「〇○○で日本一」の構想です。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、市場でのシェアを理解し人時生産性向上に向けた現場側の課題に取り組む
衰退する現場は、掛かってきた電話の仕事をこなすだけで現場に課題はないと考える