「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第406話 設備投資の振り返りをやっているか?
「レイアウト変更を収益向上つなげることですね。」
先月、相談をいただいた30人規模消費財メーカー経営者の言葉です。
工場に隣接した土地の購入を決断した経営者です。購入した土地を活用してモノの流れを良くしたいと考えています。工場レイアウト変更です。このプロジェクトでは目標設定が大事になってきます。
モノの流れを良くするとは、作業をやりやすくすることに他なりません。働く環境を整備することにもなるのです。安全衛生につながる大事な取り組みとも言えます。
ただし、これは目標ではなく、目標達成時に付随して得られる成果のひとつと考えたいのです。なぜなら、レイアウト変更のために、少なくないお金を投じるからです。
土地の購入、レイアウト変更、全て将来投資です。お金を投じる以上、目標として設定しなければならないことがあります。冒頭の言葉です。
働く環境の整備は大事です。ただし、私達は利益を獲得する集団ですから、全ての行動を収益獲得へ繋げます。ベクトルを揃えるためにもそうするのです。
納得感のある「共通の目標」はチームを機能させます。
お金を投じるとなればなおさらです。
製造業は技術の世界で戦っています。戦いには勝たないと生き残れません。
技術は進化します。競合も必死に追い上げてきているのです。現状維持は相対的な遅れ、置いてけぼり喰うことを意味します。
経営者は、技術は当然のこと、市場や業界、競合先の動向を知らなければ、強者にやられるのです。外に身を置き、情報を集め、勝つための武器を手にしなければなりません。
将来投資です。
製造業では原材料を「加工」して付加価値を生み出します。この「加工」で競合先を突き放すのです。お客様の顕在化した要望、潜在化したままの要望、これらに応える技術開発や商品開発が人時生産性向上に欠かせません。
コスト削減ではなく、付加価値額積み上げて人時生産性を高めるのです。少数精鋭の中小現場では、少々のムダは無視しても構いません。それ以上に積み上げます。
そして、我が社独自の「加工」を手にするためにやることがあります。
将来投資です。
工場経営の本質は他人の力を借りて経営者の想いを実現することにある以上、人への投資は欠かせません。さらにはファブレスではなく現物を扱うのなら、それを生み出す設備への投資も必要となるのです。
人への投資、設備への投資、全て付加価値額を積み上げるためです。
「今使っている設備が古くなってガタが来たから、そろそろ設備を買い替えるか。」
経営者がこのような思考をしているようでは、人時生産性は高まりません。付加価値額を積み上げる将来投資になっていないからです。
中小製造企業の設備投資は2つあります。
①付加価値額を積み上げるのに直接貢献する設備投資
②付加価値額を積み上げるのに間接貢献する設備投資
トイレや詰所を新しくすること、工場内のエアコンを増設すること、安全柵を強化することなどは、製造に直接関係していません。しかし、従業員が仕事に打ち込む環境をつくるには必要なことです。②の投資は安全衛生や福利厚生のためにやられます。
そして、①の投資でしっかり稼いでいないと、この②の投資はやりにくくなるのです。従業員のためにやりたいのだけれど、今はちょっと厳しいので、工場休憩室のリニューアルは来年に延ばそうか・・・と意志とは反する決断をする経営者もいます。
それだけに経営者は、①の投資で付加価値額を積み上げたいのです。積み上げないと②の投資をやる余力が生まれません。①の投資をしたのに運転資金を確保するのがやっとだ、では成長できないのです。
設備が古くなったから買い替える更新投資の思考回路では、成り行き経営に留まります。人時生産性は高まりません。
①で積み上げ、②で環境整備をし、仕事に一層打ち込んでくれる従業員のお陰でさらに①が効果を生み出し、そこでさらに②で・・・儲かる工場経営の良好な設備投資スパイラルです。
ツボにはまった将来投資は経営者の意志と意図にかかっています。
先述の、いわゆる「更新投信」の目的は「更新」です。設備を入れ替えた時点で目的を果たしています。現場も「新しい設備がやってきてラッキー!」としか考えません。
設備は新しくなっても仕事ぶりは変わらないので人時生産性も変わらないのです。モッタイナイことです。
中小現場では投入できる経営資源に制約があります。
そうであるなら、数少ない設備投資を積み上げの機会としたいのです。単なる更新ではなく、製販一体で付加価値額を一層積み上げる機会とします。ベクトルが揃います。
付加価値額を積み上げる設備投資では、進捗管理がキモとなります。付加価値額を「現状対比で」積み上げることが目的だからです。
積み上げの進捗管理は2段階でやります。
1.投資したお金を設定した期間で回収すること(キャッシュフロー)
2.目論見の付加価値額を積み上げること(P/L)
付加価値額を現状対比で積み上げるなら、既存の深掘りや新商品や新製品の上市、あるいは新規顧客開拓が課題です。それを後押しするために設備投資をやります。
ただし、設備を立ち上げた当初、期待した受注を確保できるとは限りません。また、受注を確保出来ていても、目論見通りに製造できないかもしれません。
新しい挑戦にはトラブルがつきものです。
そうであっても、製販一体でなんとか乗り切らなければならないのです。設備投資では現金が投じられます。まずは、投じた現金を回収しなければなりません。それもなるべく早期に。
借入金で設備投資する場合もあるでしょう。借金の存在それ自体で会社がつぶれることはないですが、借りたものは早期に返せるだけの地力はつけておきたいです。
5年で投資したお金を回収するのだ・・・。
まずは、こうした回収方針を製販一体メンバーへ訴えます。そして、その後、目論見の規模の付加価値額を積み上げ、収益で貢献する水準を目指すのです。
投資後、しばらく水面下かもしれませんが、それを水面上へ引上げ、さらには人時生産性を高めます。損益分岐点比率や利益率なども収益への貢献度を計る指標です。
1.投資したお金を設定した期間で回収すること(キャッシュフロー)
2.目論見の付加価値額を積み上げること(P/L)
管理をやるには計画が必要です。経営者の意志と意図を計画に込めます。設備投資は計画に沿ってやるものです。だから管理ができます。更新投資にはない思考回路です。
設備投資を成長の機会にするために、経営者はキャッシュフローとP/Lの2段階で進捗管理をやります。経営者の構想が、目論見通りになっているかどうかをチェックするのです。
政府や自治体と異なり、私たちは市場と向き合って事業を展開しています。企業にはフィードバックが必要です。お金を投じて、それっきりはあり得ません。
自ら稼いだお金を市場に投じるのです。経営者自身でフォローと評価をやります。お金を投じるスキルを高める唯一の手段が振り返り、フォローと評価です。
また、設備投資の進捗管理は製販一体メンバーへ大事なメッセージを送ってくれます。
付加価値額を現行対比で積み上げるために設備投資をやっているわけです。新たな受注を獲得しなければなりません。さらには、今いるメンバーで、新設備を動かしたいのです。
製販一体メンバーには分母一定で分子を増やす仕事が加わります。だからこそ、設備投資は右腕役と現場キーパーソンを訓練する機会になるのです。プロジェクトで実践します。
先の経営者は、レイアウト変更を収益向上に繋げる作戦を考え始めました。
「そのためには、新たな受注の獲得ですね。」
人時生産性項の本質を理解した経営者です。
「現場の課題も設定します。」
意欲的な先の経営者は、早速、軸足を外に置きながら、右腕役と現場キーパーソンへの訓練にも着手しました。
次は貴社の番です!!
成長する現場は、設備投資を人時生産性向上の機会にするため計画を立ててPJを推進する。
衰退する現場は、設備投資を設備の更新と考えているので設備を導入したらそれで終わる。