「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第18話 経営者の強い想いこそが未来の姿

先を読む訓練を積み重ね、感性や感覚も磨きながら、経営者自らが”強い想い”を持って技術開発や製品開発のストーリーを描く、という話です。

イノベーションにつながる技術開発や製品開発に想いが反映されていますか?

自社の未来の姿に対する”強い想い”がありますか?

 

 

「新しい技術を開発する時、技術者としての自分の想いがなければだめだ。世の中を変えたいとか、人に喜んでもらいたいとか、そうした大きな夢を持つべきだ。上司にいわれたら、はい、やりますでは、ツマランものしかできない。」

現場の技術スタッフとして汗をかいていた20代の頃のことです。

生産設備部門の部門長にこのように声を掛けてもらい、しばしばカツ!を入れてもらったことを覚えています。人情味あふれる方で大いにモチベーションを上げてもらいました。

 

 

研究開発の方向性として、ニーズ指向とシーズ指向、マーケットインとプロダクトアウトという考え方があります。

前者は顧客の声に耳を傾けること、後者は新たな価値を提案することに関連します。

これらは、どちらがイイか?という相互排他的な関係ではなく、現実には、研究開発の対象に応じて両者のバランスが決まるものです。

ただし、今後のの技術開発や製品開発では後者の要素、つまり新たな価値を提案する技術開発や製品開発が重視されると考えています。

技術開発や製品開発には開発者の想いがおもいっきり入っていることが必要であり、想いがこもった技術のイノベーションを通じて新たな付加価値が創出されるのです。

 

 

しばしば事例と挙げられるiPhone。市場に登場したのは2007年。今から10年ほど前です。国内ではいわゆるガラ携全盛の時でした。

その時点で、こうした形態のスマートフォンが、今日にみられる程に普及すると予想した人がいたでしょうか?

結局、先のことは誰も分からず、想いを持って、先に造った者が勝つというケースが増えていくのではないでしょうか。

 

 

新たな付加価値の創出では「差別化」の視点が欠かせません。数ある製品やサービスの中から顧客に選んでもらわないといけないからです。

同じような製品やサービスが集まる市場の行きつくところは毎度決まっています。中小モノづくり企業は絶対にそこへ参戦してはいけません。

ですから、常に自社製品やサービスの市場における独自性を確認する必要があります。

外部環境は変化します、これまでの外部環境変化に対して自社はどう対応してきたでしょうか?

5年前、10年前の自社設備、現場、自社製品、競合先、市場と現在のそれらとを比較するといかがでしょうか?

変化を実感しませんか?

 

 

もしここで、自社設備や現場、自社製品に変化を実感できない場合、これまでは特別に恵まれていた、と考えるべきです。

それは、たまたま、競合先、市場の変化が小さく、経営課題として顕在化しなかっただけのことです。

これから先も同じ状況が継続するとは、誰も言い切れません。

 

以前にも申し上げましたが(第1話)、先輩技術者に「現場を変えているか?現場の見た目が3年変わらなかったら、それは技術屋の怠慢だ。」としばしば発破をかけられました。

30年近くも前ですらそうです。

外部環境は変化するのだ、ということを前提に考えねばなりません。

ですから将来の変化を読んで、先手を打ちます。

つまり、技術開発や製品開発では将来の変化を先取りしなければ競争優位な状態を維持できないということです。

生き残るためには絶対です。

生き残りのキーワードに「先を読む」、「見通す」、「将来像を描く」があります。

未来を予測し潜在的なニーズを的確に先取りすれば、技術開発や製品開発の有効性を高められます。

 

 

技術開発や製品開発では、先を読む訓練を積み重ね、感性や感覚も磨きたいです。

先手を打つ動物的勘の鋭い経営者がいます。

ソフトバンクの孫正義社長はそうした経営者のひとりでしょう。

今年の夏、ソフトバンクは英アーム・ホールディングスという企業を3兆円を超える金額で買収しました。

金額の大きさに驚いた方も多かったのではないでしょうか。

英アーム・ホールディングスは半導体の設計に特化した会社。強みが省電力技術。90%を超えるスマートフォンにその技術が使われています。

ソフトバンクの本業は通信。つまりサービス業。

そこが、本業とは無関係な半導体設計企業を買収したわけです。

孫社長は、本業との相乗効果を問われるたびに次のように答えているそうです。

「囲碁でいえば50手先の一手。分かる人にしか分かりませんよ。」

さらに、すごいのは、この買収の話を聞いた中国アリババ集団会長のジャック・マー氏が
「そう来たか!すぐに会いたい。」ということで孫社長へすぐに電話をいれたという事実です。

(出典:日本経済新聞2016年9月1日)

 

 

このレベルの経営者が見ているのはどれくらい先のことなのでしょう。同じ嗅覚を持った者同士、話は合うのだと思います。

個性ある経営者に共通しているのは”強い想い”を持っていること。

未来を予測し、潜在的なニーズを読んでから、”強い想い”を持つのではなく、
”強い想い”を持ってから、市場をその方向へ動かしてやろうとしている。

そのように感じます。

結局、先のことは誰も分からないわけですから、強い想いを持って、動いた方が勝ち。

そして、新たに提案された価値について消費者は、先行者から”教育”を受ける。

そうするうちに新たな価値のファンになる・・・。

 

 

 

先を読む訓練を積み重ね、感性や感覚は磨きたいです。

ただし、それ以上に、自社製品やサービス、自社技術を”こうしたい”という強い想いを持つことが、技術開発や製品開発では大切になってくると考えられます。

あらゆることが不透明な時代です。

従来なら、一部の顧客の声に耳を傾けていれば、概ね大多数のニーズを把握できたかもしれません。

しかし今は多様性、個別性の時代。

顧客の声に耳を傾ける重要性は変わりませんが、それで全てのことが見通せるわけではないことに留意する必要があります。

 

 

では、どうするか?

あとは経営者の”想い”を反映させます。

創業者の想いがこもった経営理念も重要な役割を果たします。

目指すべきコトが示唆されているからです。

 

先を読む訓練を積み重ね、感性や感覚も磨きながら、経営者自らが”強い想い”を持って技術開発や製品開発のストーリーを描きます。

これが現場へ、明るい未来や夢を与えるのです。

経営者の強い想いこそが、自社の未来の姿です。

将来の姿は予測するものではなく、創るもの。

 

イノベーションにつながる技術開発や製品開発に想いが反映されていますか?

自社の未来の姿に対する”強い想い”がありますか?

 

 

まとめ:先を読む訓練を積み重ね、感性や感覚も磨きながら、経営者自らが”強い想い”を持って技術開発や製品開発のストーリーを描く。