「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第22話 カイゼンは因果関係を明確にする訓練でもある
カイゼンは工学的な因果関係を明確にする訓練でもある。現場が工学的な因果関係の思考を多様に展開できれば、イノベーションの成果を豊かに使いこなせるようになる、という話しです。
機械加工の受注生産を柱とする現場の管理者を担っていた頃のことです。
製品寸法違いのクレームを発生させたことがあります。
幸いにしてお客様へ直接的なご迷惑をおかけしなかったものの、製品が社外へ出て、お客様の手元で誤りが見つかったのは事実。再発防止策をお客様へ報告しました。
報告書を作成するにあたって、現場の関係者と原因の抽出を行いましたが、その時、強く感じたことがあります。
原因を抽出するにしても、それらをまとめるにしても、現場で思考手法を習得しておくことが欠かせません。
原因究明の場では多様な意見が出ました。
「図面の数値を見落とした本人の落ち度が大きい。」「そもそも、図面上の数値が見えづらい。」「加工後の寸法検査のルールがはっきりしていない。」「その寸法の公差表示がわかりにくい。」等々。
現場はよく見ているなぁと感じたものですが、原因を究明するのに複数の要因を整理する段になってから、現場は苦労していました。
この時、現場に必要だったのは、”因果関係”を明確にする思考方法です。
カイゼンは議論の能力を高める絶好の機会でもある。そのために”知らせること”は絶対に必要である、ということを以前、申し上げました。(カイゼンは議論の能力を高める絶好の機会でもある)
手がかりを与え、関係者で議論する機会を増やせば、やるべきことを決定する能力、議論する能力が高まります。”知らされて”、考えるための”情報”を手にするところがポイントです。
議論をする能力とは、多くの仲間と情報を上手に処理する能力とも言い換えられます。
そうでなければ、自分たちの思い込みや言いたいことだけが飛び交うだけの場になってしまいます。そして、議論をする能力をさらに強化する思考方法があります。
それが、”因果関係”を明確にする思考方法です。
因果関係を意識した見方が現場に定着すると、カイゼンが強化されます。カイゼンとは”工学的な因果関係”を明確にして手を打つ活動だからです。
儲かる工場経営においてカイゼンとイノベーションはセットです。一方のみではダメです。新たな付加価値を創出するという観点では、イノベーションにのみ焦点が当たりがちですが、カイゼンあってのイノベーション、イノベーションあってのカイゼンです。
たしかに、最終的にはイノベーションで成果が生まれないと、現場は大きく発展成長しません。ですから、長期計画を含めたあらゆる取り組みの究極の目標はイノベーションです。
しかし、イノベーションはそれ単独に実現されるものではありません。足腰の強い”現場力”があって、初めてイノベーションの成果を享受できることに気付く必要があります。
イノベーションでは、新たな技術やノウハウ、新たな考え方を獲得できます。すると現場は新たなステージでカイゼンを展開します。
技術的、技能的に、従来より水準の高い思考訓練の舞台が整います。そこで訓練された現場はさらに足腰が強くなり・・・。
イノベーションの成果を使いこなすのは現場です。現場がイノベーションを使いこなさなければ儲かりません。さらには、次のイノベーションへつながる芽も出てきません。
ですからカイゼンはイノベーションとセットなのです。
カイゼンは現場の思考訓練の場を提供し、単なる知識の多寡ではなく、地頭を強くするのに貢献してくれます。
技術の世界は今後、ますます、複雑化、高度化します。イノベーションにつながるブレークスルーを起こすためにも、現場に地頭を鍛えてもらいます。
カイゼンで現場は因果関係を明確にする訓練を重ねます。鍛えた地頭はイノベーションの土台となります。
さて、カイゼンの進め方は、その会社、その工場、その現場、独自のものです。一通りのやり方はありません。様々な手法が解説されています。やり方も多様です。
しかしながら、結局、問われているのは「工学的な因果関係」です。これを展開できる能力を現場で鍛えます。
現場にも高度化、複雑化する技術を理解してもらいます。そして、さらに高度な「工学的な因果関係」を明らかにする訓練を積んでもらいます。
トヨタ生産方式のなぜなぜ分析はシンプルですが、現象の本質へ迫るには最適な思考方法です。なぜを5回繰り返すというアレです。
なぜ、機械が停止した? ヒューズが切れたから。
なぜヒューズが切れた? モーターが過負荷になったから。
なぜモーターーが過負荷になった? 軸受部の潤滑が不十分だったから。
なぜ潤滑が不十分だった? 潤滑油ポンプが潤滑油を十分に汲み上げていなかったから。
なぜガタガタになった? ポンプの軸が摩耗してガタガタになっていたから。
なぜ摩耗したのか? 切粉が入っていたから。
なぜ切粉が入っていたのか? 濾過器がついていなかったから。
なぜなぜ分析であきらかになるのは、因果関係の連鎖です。カイゼンの王道はこうした因果関係を見極める作業に他なりません。
また、技術開発や商品開発のように高度な工学的知識が求められる業務であっても同じです。結局は因果関係を極める仕事です。
技術的な水準の難易度は、因果関係の連鎖の長短、あるいは多重度合い次第です。
日常的なカイゼンであれば連鎖は短く因果関係も見極めやすいです。一方で、研究開発のレベルになるとそう簡単に見極められません。複線、多重の因果関係を見極めながらゴールを目指します。
原因と結果の連鎖をどれだけ多く思い浮かべることができるか、そのための知識と経験を現場がどれだけ多数持っているか。これが、イノベーションを起こし、その成果を現場で享受するための要諦です。
特定の担当者がひとりで汗をかいて成果を出す時代ではありません。ひとりで頑張るには技術が複雑化、高度化になりすぎている昨今です。チームワークでイノベーションを起こします。
儲かる工場経営を考えた時、常にカイゼンとイノベーションのバランスに配慮します。カイゼンとイノベーションを連携させます。イノベーションのためにカイゼンを機能させます。
カイゼンで培われる因果関係の思考がイノベーションの土台です。現場が工学的な因果関係の思考を多様に展開できれば、イノベーションの成果を豊かに使いこなすことにつながります。
因果関係の思考を訓練した現場に支えられたカイゼンは分厚くイノベーションのための経営資源を供給し続けるのです。
イノベーションをチームワークで起こせるよう、工学的な因果関係の知識や経験を現場に蓄積できる体制になっていますか?
カイゼンが工学的な因果関係を明確にする訓練につながっていますか?
まとめ:カイゼンは工学的な因果関係を明確にする訓練でもある。現場が工学的な因果関係の思考を多様に展開できれば、イノベーションの成果を豊かに使いこなせるようになる。