「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第32話 工程指標で社長の想いを浸透させる
客観的な判断基準は共通の言語や共通の思考プロセスを生み出します。経営者の想いを浸透させるためには欠かせない、という話です。
現場には客観的な判断基準が整備されているでしょうか?
各工程の工程指標、生産指標が共有化されているでしょうか?
仕組みづくりで最初にやるべきことはあらゆる活動を定量化することです。
数値にすることで客観的な判断基準が出来上がります。
これによって目で見る管理が可能です。
判断基準は客観的であることが必要です。
そうでなければ、主観的に判断をするしかありません。
そこでは各自の経験が判断基準となってしまいます。”その現場で”経験を重ねた人でなければ、判断ができない職場になってしまうのです。
入社間もない新人は当然のこと、中途で入社した外部からの仲間にとっても自律性を発揮しにくい組織風土となります。
経験のみが幅を利かせる職場では、新たな力が育ちにくい。
顧客要望が多様化し、外部環境が変化している昨今です。職場の創造性や柔軟性を高める必要があります。
客観的な判断基準を現場に定着させて、自律性を促すことは経営者の重要な仕事です。
企業に所属して働いていた頃、複数の中小製造企業の現場で勤務する機会がありました。
そうした現場で共通していたことがあります。
それは、生産管理のための工程指標が整備されていなかったことです。
それまで長年、所属していた大手の工場では、あらゆる仕事が数値化されていました。現場の各工程から事務所のスタッフに至るまで、仕事上の客観的な判断基準がありました。
工程指標の実績推移が、工程毎に全て張り出されてもいました。生産進捗をそれでもって確認することもしばしば。
そうしたことが当たり前の環境から、工程指標が設定されていない現場へ・・・・・。
かなり戸惑ったことを覚えています。
管理者として仕事をするには、最低でも生産能力を押さえていないと話になりません。さらに、工程毎、ライン全体の効率も把握する必要もあります。
現場にヒアリングし、日常業務を進める中で必要な数字を自分なりに整理していきました。
「工程指標が整理されていないのに、うまく仕事をすすめられるねぇ。」
現場リーダー役の若手にこのように話しかけたことがあります。仕事ができる若手の現場リーダーです。彼は右腕となって一生懸命に支えてくれていました。
「仕事をするのに必要な数字はおおむね自分の頭の中にあります。仕事をやる上で困りません。自分が把握していれば大体の仕事は進みますから。」
確かに現場の規模があるサイズ以下なら、工程指標がなくても仕事は回ります。体感したことから判断すると、100人規模の工場までならば、そうした対応が可能です。
規模が限定的であれば、日常のコミュニケーションを通じて、工程指標もある程度暗黙知的に現場に定着するからです。
私は”外部から”入ってきた管理者だったので、工程指標が整理されていないことに不便さを感じたとも言えます。
最初からそうした現場で仕事をしていれば、不便さを感じることもありません。
それまで所属していた大手の工場ではその規模故、生産管理を進める上で工程指標がなければ、そもそも、仕事が成り立たたなかったということでもあります。
先述したように現場の規模次第では、客観的な判断基準がなくても操業上の問題ありません。
お客様へ納期通り、製品を届けることだけに焦点を当てるならそれでも十分です。
しかし、今後、現場の質を高めようと考えるなら、これでは不十分です。現場で客観的な判断基準を共有し、自律性を高め、やる気を引き出します。
さらに加えて、客観的な判断基準が果たしてくれる大切なことがあります。
経営者の”想い”を浸透させるためには欠かせません。
それは、共通の言語や思考プロセスを共有するのを促すことです。工程指標という客観的な判断基準から、現場は共通の言葉や考え方を感じ取っていきます。
画一的になるということではありません。
ベクトル合わせです。価値観の共有とも言い換えられます。
中小の現場の新たな管理者として現場と向き合ったときに苦労したのは、この価値観の共有です。
現場に定着している工程指標は、その現場の価値観を語っています。
客観的な判断基準があれば、これらを通じて理解できることが意外とたくさんあるのです。
現場に掲げられた工程指標には、経営者の想いが含まれています。
例えば、稼働率。
生産数量から観た稼働率では、分母は生産能力、分子は生産実績。
「うちの社長は稼働率をえらく気にしている。生産能力と日々の生産実績の数字を気にしておかないと・・」
工程指標があって、目標を定めると現場はそれに向かって頑張ります。
経営者の考えを言葉に出して、頭で考えるのです。次第に現場に共通した言葉や考え方が広がります。自然と経営者の想いが現場の隅々にまで行きわたるのです。
客観的な判断基準は、共通の言葉や考え方を現場へ提供してくれます。現場にとっても、経営者の想いを理解し共有するためにはかかせないものなのです。
現場には客観的な判断基準が整備されているでしょうか?
各工程の工程指標、生産指標が共有化されているでしょうか?
まとめ:客観的な判断基準は共通の言語や共通の思考プロセスを生み出す。経営者の想いを浸透させるためには欠かせない。