「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第105話 「納期遵守」を卒業する
現場では納期を守るのにすったもんだしていませんか?
「小日程計画はそこそこ機能しているようです。中日程計画を充実させて納期遵守を強化しなければならないようです。」
食品材料メーカー工場幹部の言葉です。
そのメーカーでは、多くの中小製造企業と同様、品種が増えつつあります。
受注生産の特注品を軸足に事業を展開している中小現場では、可能な限り、顧客要望へ対応しようと日々頑張っていて、品種が数年前と比べて3割、5割増えていたということも珍しくはありません。
精度の高い日程計画を立てるためには、受注品をグルーピングした上で、グループ毎、工程毎の基準日程を設定する必要があります。
ただ、品種が多くなると、この基準日程を設定する仕事をやり切るために注がなければならないエネルギー量が増すのは火を見るよりも明らかです。
その結果、経験と勘に依存した日程計画にならざるを得ません。
そうした日程計画の精度は低いので、現場混乱の原因になる事も少なくないでしょう。
多品種の現場では、適切な日程計画を共有できず、それがために混乱状態が常態化することも多いです。
この幹部からのご相談も、「現場の混乱を回避する日程計画」でした。
納期をすったもんだしながらでも守っているけれども・・・、これでは、現場も辛い。
納期遵守のための仕事のやり方を変えたい、これが個別相談の趣旨です。
この幹部の言葉にもありますが、このメーカーの課題は納期遵守の”強化”です。
納期遵守、そのものではありません。
規格品では、概ね、顧客から要望された納期を遵守することはできているのです。
さらに、特注品でも過去実績があるなら、それほど問題なく納期は守られています。
一方、特注品で、現場にとっての新規品は混乱を引き起こす原因になることがあります。
予想していないトラブルがしばしば起きるからです。
さらに、蓋を開けてみると、納期遵守できないことが判明したりします。
こうなると、力づくでも、力任せでも、なんででも、もう力技で納期を遵守しなければなりません。
ただ、力業であろうがなかろうが、一丸となって動けば、火事場の馬鹿力が発揮される現場は強いです。
そうした意味で、このメーカーの現場はポテンシャルを持っている言えます。
しかしながら、火事場の馬鹿力が日常的になってしまっては、現場は疲弊します。
先の幹部はここを問題視していました。
納期遵守ができない現場ではなく、多品種化に伴って増えてきた”新規品”へ対応するときの納期遵守の仕方に問題があるのです。
そこで、工程管理のなかの「段取り」を担う「日程計画」について議論しました。
大日程、中日程、小日程の役割を確認、現状を踏まえて、どこを強化すれば、新規品への対応力を高められるか・・・。
その幹部との議論の結果が最初の言葉です。
中日程の役割は「余力の見える化」なので、その精度を週→日→半日→時間単位で高めるのが課題であると整理できました。
ご相談いただく経営者、幹部の方々が目指している水準は高いと常々感じています。
外部の力を使ってでも、現場を豊かに成長させたいとの強烈な想いをお持ちの方々です。
少しでも前進させたいと、ご相談いただくわけですから、当然かもしれません。
そもそも、そうした強烈な願いと想いをお持ちの方でなければ、わざわざ、外部へ相談をすることはお考えにはならないでしょう。
その意味で、弊社は、強烈な想いをお持ちの経営者、幹部の方々の期待へ、150%くらいのリターンでお返しできるよう日々精進しなければと肝に銘じております。
そこで、経営者、幹部の方の課題を解決することに加えて、5年先、10年先を見据えた持続的な活動の仕組み作りもご提案している次第です。
5年先、10年先を見据えた持続的な活動の仕組み作りとは、生産性ロードマップの戦略を立て、持続的、自発的な現場活動を実現させることです。
皆さんの現場での活動はいかがでしょうか?
5年先、10年先を見据え、持続的な現場活動の仕組み作りを決断された経営者へ、それを実現させる複数の観点をお伝えしています。
経営者の想いに共感した活気あふれる職場で、やる気まんまんの若手が活動を引っ張り、ベテラン勢がそれを後押ししている、こんな雰囲気の活動を目指すのです。
詳細は弊社主催のセミナーでお話ししていますが、その中の一つに、「納期遵守の卒業」があります。
生産3条件がQCDで表現されるように、そのひとつを占めている「納期遵守」は製造現場の基本中の基本です。
なぜ、基本中の基本なのか?
顧客は、この「納期」を基準にして、自社の日程計画を立てるのからです。
つまり、中小現場が顧客へ提示している納期の延長線上で、顧客は自社の日程計画を立てています。
ですから、その納期を守れないというのは何を意味しているかは、言うまでもないことでしょう。
納期は力業でも、なんででも、守らないとなりません。
しかし、現場のポテンシャルを高め、パフォーマンスの質を高めようと考えるならば、納期のみに焦点を当てることをやめたいのです。
生産性やリードタイムを現場と共有して高みを目指したいからです。
納期のみに視点が当たっている現場では、当然のように、納期を最重要課題と考えます。
「納期」に合わせて仕事を組み立てることになるでしょう。
短納期と判断された案件へは、ベテランが先頭になって、ノウハウを駆使しながら製品を流動させます。
一方、余裕をもって対応できると判断された案件へは、それなりのペースで製品を流動させます。
この「納期」に合わせた仕事のやり方をやっている現場は、常にそれなりに忙しいです。
現場としては空きをつくらないようにしているからであり、これは現場の能力とは別であることに留意するする必要があります。
したがって、納期とは別に、現場のパフォーマンスを計測できる基準、つまり現場の頑張りを測る指標が必要となるのです。
納期遵守は当然として、その納期をどのようなパフォーマンスで実現させたかに注目するよう現場を導きます。
そのパフォーマンスを測る指標が生産性であり、リードタイムです。
顧客が要望している納期よりも「圧倒的な短納期」でのモノづくりを目指します。
納期に合わせたモノづくりではなく。
自らのパフォーマンスを高めるモノづくりを目指すのです。
ですから、現場改革を進める手順は次のようになり、この順に現場の目線が高まります。
「納期遵守」→「リードタイム・管理生産性管理」→「リードタイム短縮」「生産性向上」
ご相談いただく企業の経営者、幹部の目線は高い状態であることが多いので、水準に応じて、「納期遵守」を卒業してはいかがですか?とお話ししています。
決断された経営者は、事業のステージを高めるべく5年先、10年先を見据え、次のステップへ進まれるのです。
そうした意味で、皆さんの現場で、納期遵守の水準自体はまだまだ低いと認識されるなら、やるべきことは、当然、「納期遵守」となります。
力業であろうと、なんだろうと、まずは、納期を守る現場づくりからです。
この段階で、仕事のやり方とか、ルールだ、仕組みだ、と言っても始まりません。
まずは、現場が一丸となり、無理やりでも、納期を守る仕事のやり方を経験していないと、構築したルールや仕組みが絵に描いた餅になる懸念が大きいからです。
身体が覚えていない仕事の手順を決めても勘所がわかりません。
畳の上でいくら理論的に説明しても、水泳は習得できないのと同じです。
無理やりプールで(少々乱暴ですが)溺れそうになりながらも、25mを泳ぎ切った子供にアドバイスする方が飲み込みは早いです。
ですから、納期を遵守する水準自体が低いと感じるなら、まずは、理屈抜きでもなんも、力づくで納期を守ることへ挑戦し続けて下さい。
仕組み作りは、その後でも、全く遅くはないです。
納期を現場一丸となって、力尽くでも実現できる状況に至ったら、納期にかかわらず、自らのパフォーマンスを高めるモノづくりの仕組みを作って参りましょう。
「納期遵守」を卒業して、パフォーマンスを高めるモノづくりの仕組みを作りませんか?