「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第301話 人材育成に2つのしくみが組み込まれているか?

「ちょっと前に辞めてもらった従業員がいます。」

30人規模製造企業、経営者の言葉です。

 

新たなプロジェクトに着手したいと考えています。現場を変えたいのです。今のやり方のままでは競合に勝てないと感じています。

しかし、新たなプロジェクトをやろうとした際、抵抗勢力になりそうな特定のベテランが浮かびます。経営者の考え方を共有できていません。自分勝手な判断基準で仕事をしています。

残念ながら、改革の抵抗勢力になりそうです。プロジェクトリーダーに若手を抜擢して、幹部候補として育成したいと考えています。

しかし、若手ではそのベテランと対峙すると、くたびれてしまいそうです。これでは、いつまでたっても将来の幹部を育成できません。

経営者ご自身がいろいろな手を尽くした結果、冒頭の言葉になりました。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営の土台はワンチームです。全社のベクトルが揃っていないとプロジェクトは上手くいきません。経営改革はそれ自体が難しいのです。

多品種少量生産、突発特急、変更が日常的な現場では柔軟性が求められます。お客様の多様な(わがままな?)要望に応えられる機動性や小回り性が中小の強みです。

 

柔軟性を発揮しながら、製販一体、工程間連携、同期化、現場連動も機能させなければなりません。製造業は自ら付加価値を生み出し、それを販売するという他の業種にはない複雑な構造をしているからです。複雑な業務をこなすには規律性も求められます。

 

柔軟性を発揮しながら、規律性を保つこと。

 

この両立が難しいのです。自由でありながら、状況に応じて自らを律する力が必要になります。チーム力とはこのことです。厳しい環境を乗り越えるのに必要なのはこれです。

貴社の現場には自由でありながら、状況に応じて自らを律する力がありますか?

 

 

 

 

 

野球のキャッチャーはピッチャーの投球を受けているだけでいいわけではありません。内野ゴロでは一塁手のバックアップに走ります。

二塁手も自分のところに飛んできた球さばいているだけでいいわけではありません。自分以外のところのゴロでは、キャッチャーと同様に一塁手のバックアップをやっています。

 

サッカーも同様です。GKはゴールを守りだけが仕事ではありません。試合終了間際のアディショナルタイムで相手ゴール側でのCKやFKの場合、自らも相手ゴールエリアで得点を狙うことがあります。

仕事の分担が「守り」だからといって守っているだけのDFもいません。隙あればオーバーラップして得点を取りにいきます。

 

野球もサッカーもチームスポーツです。1人でやりません。チームでやります。ポジションの設定からです。1人で投げて、受けることはできません。

チームを機能させるためです。分担がないとチームは機能しないのです。専門性も求められます。

 

そして、選手一人ひとりは分担だけやっていればいいとは考えていません。分担をこなすことより重要なことがあるからです。勝つことです。わがチームが勝利すること。

「勝つために自分はどんな貢献ができるのだろうか?」プロならそう考えます。

 

選手の役割は勝利に貢献することです。分担をこなすのはそのひとつにしかすぎません。

 

プロスポーツでは結果が求められます。負け続けているチームの監督は仕事を続けさせてもらえません。プロの世界は時間がないのです。

全員攻撃だ!!との監督の指示に従わず、「私はDFなので、守備だけを頑張ればいいのです。」と訳のわからない主張をする選手は即刻チームを首になります。

勝つことよりも、分担を優先するメンバーが一人でもいると面倒くさいです。監督はおかしなところにエネルギーを費やします。時間がない監督には致命的です。

 

 

 

 

 

氏より育ちと言います。家柄や身分よりも、育った環境やしつけのほうが人間の形成に強い影響を与えることの例えです。これは工場での人材育成にも言えます。人は環境で育てられるのです。

少数精鋭の中小現場は製販一体、全社一丸となっていなければ生き残れません。ベクトルが揃わないと経営改革はやりきれないからです。製販一体、全社一丸の環境があれば、人材はそこで育ちます。製販一体、全社一丸が普通になるのです。

環境=人材育成

 

プロジェクトをやり切るには従業員の思考回路を経営者と同じにしなければなりません。判断基準を共有します。我が社の考え方、我が社の価値観をそろえることが人材育成の目的です。スキルの前にマインドであるということです。

 

我が社のために貢献したい。

仲間のために頑張りたい。

我々には役割があるのだ。

その一方で分担の専門性は高めるのだ。

ただ、それよりもやっぱり大切なのは一人ひとりが役割を果たすことだ。

分担はそれを果たす手段のひとつにすぎないのだ。

だから仕事は相互補完しながらやるものだ。

‥‥…等々

こう考えるのが普通である環境にします。

 

人には承認欲求や自己実現欲求があります。マズローが言うところの欲求段階説です。認められたい、自己実現したい。人間はもともとこのような欲求を持っています。

したがって、そうした欲求に訴える仕組みがあればおのずとそうなるということです。

 

我が社のために貢献し、仲間のために頑張りたいと考え、自分の役割を理解し、割り当てられた仕事の専門性を高めながら、仲間との応受援性にも富んだ仕事に汗をかいている従業員。

 

そうした従業員を大いに認め、称賛し、新たなことへの挑戦を奨励しながら機会を与える仕組みがあれば人はそう動きます。そうした仕組みや環境があれば人は勝手に育つのです。そうした先輩の背中を見て、若手は育ちます。これが人材再生産体制です。

 

経営者の思考回路と同じ人材が勝手に自然と育ちます。経営者は安心です。こうやって我が社の風土や分野、文化が出来上がります。

 

こうなると、役割を理解できない従業員の居場所がなくなります。我が社の思考回路を共有できない従業員には去ってもらう方が相互に幸せです。

 

 

 

 

 

以前、ご支援をしていた100人規模の素材メーカーでプロジェクトを着手して半年ほど経過したときのことです。「あのベテラン従業員が会社を辞めると言ってきました。」と報告を受けたことがあります。

経営者はそのベテラン従業員に少々手を焼いていました。いわゆる役割と分担を誤解し、経営者の判断基準に従わない人です。

そこで、若手をプロジェクトリーダーに抜擢して、新たな仕事のやり方に挑戦することにしたのです。現場改革です。全社でやり方を変え始めました。

プロジェクトが軌道に乗り始め、少しずつ変わってきた全社の雰囲気を感じ取ったのか、ベテラン従業員はその会社を去ったといことです。

 

鍵穴に合わない鍵の選択肢は2つです。

・鍵を削って鍵穴に合わせる

・鍵穴から去る

鍵穴の方が鍵に合わせてくれるという間違ったメッセージを鍵に発してはなりません。経営者も従業員も不幸になります。

 

人材育成の目的は経営者の判断基準を共有してもらうことにありますが、もう一つ重要なことがあるのです。

経営者の判断基準に合わない人には去ってもらうことです。したがって、人材育成の仕組みづくりの要点は2つあることになります。

 

・経営者の思考回路を共有し、役割と分担を理解できる従業員は頑張りたくなること

・経営者の思考回路を共有できず、役割と分担を理解できない従業員は去りたくなること

 

人材育成に2つのしくみが組み込まれている必要があるのです。片方だけではベクトルが揃いません。貴社には頑張りたい人を大いに評価し激励する一方、去るべき人には去ってもらう仕組みがありますか?

 

 

 

 

 

技術の進化と競合の追い上げの晒される中小製造企業での経営改革はそもそも難しいのです。私達には時間がありません。余分なところにエネルギーを費やしたくないのです。

だからと言って闇雲に研修やOFF-JTをやっての無駄です。人は言われても変わりませんし、変われません。実務を通じて、肌感覚で変化するのがマインドです。

弊社がプロジェクトを通じてご支援をする所以です。

 

先の経営者の覚悟は本物です。我慢強く会話を重ねた結果の決断です。ベテランが抜けることによる売上減よりも将来へ向けた行動を優先しました。時間がなかったので、環境ではなく、経営者自身の意思決定で結論を出したのです。

 

経営者の思考回路を共有できず、役割と分担を理解できない従業員に去ってもらいました。これでプロジェクトリーダーに抜擢された若手は迷うことなく実務に没頭できそうです。

概ねベクトル揃えが完了しています。これで余分なエネルギーを消費しなくてもよくなりました。将来へ向けた時間を手にした経営者です。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、頑張りたい人に機会を与え、頑張りたくない人には去るよう促す。

停滞する現場は、頑張りたくない人が幅を利かせて残り、頑張りたい人が去る。