「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第447話 製品毎のお金の匂いを嗅ぎ分けているか?

「製品をそのように分類することは考えていなかったです。」
先週、個別相談をいただいた経営者からこのような言葉がありました。30人規模、金属製品メーカーの経営者です。
売上の7割を自動車業界に依存しています。他の3割は自動車とは無関係の業界です。自動車関連のお客様が不振のとき、この3割に助けられたことがあります。一本足打法では、工場経営を安定させられないと感じている経営者です。
100年に一度の大変革時期の真っ只中にある自動車業界は、これまでとは違って、安定した将来が見通せていません。自動車業界以外で新たなお客様を開拓しなければならないと考えています。
標的お客様と標的製品。
新たなお客様を獲得するには。これらの設定が不可欠です。ただし、闇雲にやるものではありません。特に、後者の標的製品の設定では製品分類が大事です。儲ける論点がここに含まれます。先の経営者はそのことに気付きました。
●新たな受注を獲得する
儲かる工場経営での経営者の仕事は儲かる事業モデルをつくることです。経営者は構造改革によって、我が社を儲かりやすくします。
儲かりやすくするとは、人時生産性向を高めると同じことです。現場へ投じる工数当たりの儲けが大きくなれば、儲かりやすくなります。
「詰めて、空けて」と「取り込む」がセットです。前者だけでは人時生産性は高まりません。「取り込む」も大事です。人時生産性向上を目指す経営者は、新たな受注を獲得しに行きます。
●お客様を多角化する
新たな受注を獲りに行く場合、開拓方針は、市場と製品の組み合わせとなりますが、その中で、お客様の多角化は大事な論点です。外部環境が概ね安定していれば、一本足で立っていても問題ありません。
特定の業界とのお付き合いだけの場合、手慣れた業界相手に絞った事業なので、効率も高まります。ただ、昨今のように、市場の不確実性が高まってくると、2本足、3本足が好ましいです。椅子も3本足なら安定します。
ご支援先の経営者には、自動車部品工場時代の経験を踏まえて、3本足の話をしばしばお伝えしています。コア技術は絞りながら、お客様の業種はすそ野広く、お客様の多角化です。
持続的な成長を実現させたい経営者にとって、新たな業界のお客様を獲得することは優先度が高い経営課題です。
●既存製品を分類する
さらに、経営者は、標的製品の選択もしなければなりません。既存製品か?新規製品か?この選択に製品開発や技術開発が加わることもあります。
どちらにせよ、まずやることがあるのです。我が社の製品分類です。特に新規製品を考えるときはそうなります。
あえて、わざわざ、手間暇かけて新規製品を開発するのです。儲からないとやる意味がありません。新たに開発する製品と既存製品を比べる必要があります。
新たに開発する製品が儲かるか、儲からないかは、「比べる対象」があって、初めて分かるものです。価格の多寡だけで論じていると誤った判断をすることがあります。あくまで、「儲け」に焦点を当てるのです。
お客様にとって大事なのは価格ですが、経営者が知りたいのは「儲け」の多寡です。
・「儲け」に焦点を当てて、既存製品を分類する。
●儲かるモノと儲かりにくいモノに分類する
分類すれば、既存製品には儲かるモノと儲かりにくいモノがあることに気付きます。そして、新規製品は既存製品と比べて儲かる様にしたいのです。経営者は誰でもそう考えます。
既存製品の「儲け」に焦点を当てて比べます。比べる基準があれば儲かっているか、儲かっていないかがわかるからです。既存製品を儲かるモノと儲かりにくいモノに分類することからやります。
そこで、儲かりやすさを数値化しなければなりません。先述したように、儲かりやすくするとは、人時生産性向を高めると同じです。
儲かりやすいとは、投じる工数が少なくても、多くの付加価値額を積み上げられることとも言い替えられます。この考え方を踏まえれば、儲かりやすさを数値化できるのです。そこから、儲かるモノと儲かりにくいモノの分類ができます。
ただ、収益上の「儲け」は、率だけでなく規模も大事です。儲かりにくいモノでも一定水準以上の販売数量を確保できるなら、収益上の「儲け」を確保できます。値決めが市場価格に左右される業界であるなら、原則このやり方です。
一方、価値を認めて、値決めの相談に乗ってくれる業界なら、儲かるモノを基準にお客様の困りごとを解決する提案をします。そして、価値に見合った儲かる値決めをするのです。
既存製品を儲かるモノと儲かりにくいモノに分類すれば、既存製品を新規のお客様に提案するとき、あるいは新規商品を開発する時、経営者の頭の中に、次の構想が浮かびます。
・儲かるモノに分類された製品では、価値に見合った値決めで交渉する。
・儲かりにくいモノに分類された製品では、値引きもしょうがないけど、一定水準以上の販売数量を確保できるよう交渉する。
儲かるモノは数量を確保することは難しいかもしれません。ただ、我が社を選んでもらう機会をつくってくれることも多いのです。フラグシップ製品です。お客様に見つけてもらうための製品になります。こうした製品の有無は貴社の命脈を保つ上で欠かせません。
また、儲かりにくいモノであっても、その製品が存在する価値があるのです。儲かりにくいモノは赤字だから受注してもしょうがないという判断はあり得ません。製造業の収益構造から考えると、回収の役割があります。
このように分類できれば、製品毎の方針が明らかにもできるのです。
●製品毎のお金の匂いをかぎ分ける
経営者は、儲かるか儲からないかについて敏感です。経営者だからこそもっている嗅覚があります。儲かると分かれば、行動も早く、迅速な投資も厭いません。
多くの経営者は「タイム イズ マネー」を強く理解しています。ご支援先で感じることです。そうでないと、生き残れません。せっかくなら、経営者自身だけでなく、従業員にも豊かな生活を送って欲しいのです。
鋭い嗅覚をもつ経営者ならではの勘と経験にしたがって、最適な判断はできます。ただ、次世代の経営者のことも考えると、儲かるモノと儲かりにくいモノの判断基準を数値化することも大事です。
儲かるモノからは、お金の匂いがプンプン、一方、儲かりにくいモノからは、お金の匂いが香ってくるようにするのです。
結局、儲かるか儲からないかは、製品毎のお金の匂い次第ということです。次世代も儲かるように判断できるようになるためには、お金の匂いを裏付ける判断基準が必要になります。現場も製品毎のお金の匂いについて気にしています。自主性を引き出す機会になるのです。
お客様に選ばれる製品を効率よく造ることが儲かる工場経営の要諦です。このうち、「お客様に選ばれる」ために経営者がやらなければならないことがあります。
「お客様の要望に応える」ことです。ただ、これだけではダメです。「儲かる値決めができる」こともセットです。
事業として継続できなければ、価値を提供し続けられません。値決めは経営であるとは稲盛和夫氏の言葉です。
お金の匂いを気にせずに商売をしている経営者はいません。鋭い嗅覚を持った経営者は勘と経験でそれをやっています。それで十分です。ただ、次世代へはお金の匂いを裏付ける判断基準を残したいです。
先の経営者も「儲け」に焦点を当てて、既存製品を分類するやり方に気付いて、お客様多角化に向けた、具体的な次の一手が浮かんだようです。
次は貴社が挑戦する番です!
成長する現場は、儲かるモノと儲かりにくいモノを理解し生産性を高める工夫ができている
衰退する現場は、製品とお金を結び付けて理解していないので生産性を高める意欲に欠ける