「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第110話 工程会議

毎朝、工程会議をやっていますか?

 

「最近、意図したように、製品を流せるようになった感じがします。」

現在、生産リードタイム短縮に取組んでいるスタッフの言葉です。

 

そこは、一貫ライン形態で受注生産となっています。

毎朝、営業担当者から届く受注情報をもとに、現場が製品の流し方を決めていました。

そして、その現場では、製品の流し方に起因した問題が発生していたのです。

 

形態が一貫ラインであるため、製品の仕様によっては、工程スキップ、あるいは工程戻しが必要な受注品もあります。

全ての製品をラインの順方向へ流せばいいだけなら話は単純なのですが、多品種を扱う中小の現場は複雑です。

 

一筋縄でいかないのが中小の現場であり、こうした複雑性のため、営業担当者は生産工程を正確に把握できていない・・・・。

こうした状況は、この企業に特有のことではなく、中小製造企業ではしばしば見られます。

いきおい、生産工程を組立てる仕事は、現場へ”丸投げ”となってしまうのです。

 

一般的に、中小製造企業では。製造も営業も少数精鋭で仕事を回しています。

ですから、対外業務に軸足を置いている営業担当者が、複雑な製品の流れを理解するだけの余裕がない・・・。

 

しかし、営業担当者は、納期遵守の観点から、製品の流し方に関してリクエストをしたくなる場合もあります。

ただ、工程を設計するのは現場なので、もともと、製品の流し方が見えていません。

さらに、自らの知見不足もあり、自分が考えた製品の流し方自体が成立するのか否かの判断もできません。

 

その結果、実現性の可否に関係なく、営業担当者は、作業指示書を書くことだけを通じて、製品の流し方を製造側へ要望していました。

しかし、(これも問題ではあるのですが)納期を遵守するための道具として、その作業指示書は機能していなかったのです。

 

現場にとって、作業指示書は、本日、現場へ投入する受注品を把握するだけの道具でした。

最終的に、現場自身が判断して工程を組んでいたので、納期を遵守できないことも、ままあったのです。

 

 

 

 

 

製造現場には、視点の2重構造がありますから、現場に任せれば、現場は”流しやすい”ように工程を設計します。

顧客視点ではなく、作業者視点になりやすいのです。

 

したがって、ここで重要な役割を果たすのが、全体最適化の考え方です。

ですから、製造現場と営業が「全体最適化」を共有できれば、多くの問題が解決されます。

 

具体的には、営業担当者と現場リーダーおよび各工程のキーパーソンが、朝一番で一同に会して、流し方を議論し、営業担当者の要望を”現場の言葉”に翻訳して、工程設計に反映させればいいのです。

 

朝の時点で納期と工程設計の摺り合わせを行うわけですから、問題も未然に防げます。

が、それがなかなかできない・・・・。

なぜなら、朝一番で集まることが定着し難い状況にあったからです。

(その現場では、現場側のメンバーは6名です)

 

各工程のキーパーソンは、従来から、始業の合図とともに、現場へ出て、仕事を始めます。

各工程のキーパーソンには、始業の開始とともやるべき仕事があったのです。

 

ですから、朝一番での仕事のやり方を変える必要がありました。

従来、ここを現場任せにしていたので、定着しなかったというわけです。

 

そこで、各工程のキーパーソンたちが、始業時、時間を割ける状態をつくりました。

まず、この改善活動が必要だったのです。

 

現時点では、現場の主要メンバーが営業担当者と朝一番に顔をつきあわせ、製品の流し方を打ち合わせる場が定着しつつあります。

 

 

 

 

 

この打ち合わせは、いわゆる、”工程会議”です。

全体最適化の視点を養うには絶好の場であり、大手の製造現場では、やり方に差こそあれ、必ず毎朝、現場の主要メンバーとスタッフが集まり、その日の生産の流れを確認します。

大手の現場は、そもそも、こうした場がなければ機能しません。

 

一方、中小の現場では、その規模故、力業で現場を回そうと思えば、それでできてしまうこともあり、なんとなく、全体最適化の視点を持たず、自工程のみに焦点を当てて(つまり部分最適化で)、仕事をこなしてきた経緯があるものです。

 

ただ、多品種化でも生産性を維持しつつ、リードタイムを短縮しようと考えるなら、この全体最適化の視点は外せません。

先の企業でも、5年先の計画を成功させるには、この全体最適化の観点が必要でした。

 

先のスタッフは、”意図したように”と言う表現を使っていました。

納期を考慮した最適なモノの流し方ができるようになってきました。

いわゆる、”生産の流れ”が見えてきたということですね。

 

営業の要望を現場側が翻訳し、現場はそれをもとに工程を設計するようになったのです。

全体最適化の視点を現場と営業が共有しつつあります。

 

現場の主要メンバーと営業担当者が一堂に会することで、現場と事務所間のコミュニケーションも活発化しているようです。

「現場のメンバーは、事務所に呼び出されると、以前なら、何か叱られるのではないか?という態度でしたが、最近変わりました。積極的に意見交換する雰囲気ができています。」

経営者の言葉です。

 

その経営者は、小さいながらも機能している工程会議というコミュニケーションの場を通じて、全体最適化の意識が高まっていることを感じています。

先のスタッフも生産の流れができてきたのを感じていました。

 

全体最適化の共有が進むと、価値観が一致することによる一体感が生まれ、雰囲気が確実に変わります。

経営者とスタッフは、それを「感じた」わけです。

これは、肌感覚的なところもありますが、こうした雰囲気の有無は現場リーダーと話をすれば分かります。

 

 

 

 

 

現場を力業で回しているだけでいいのなら、従来の仕事のやり方を続けて下さい。

ただ、顧客に選ばれ続け、付加価値額を積み上げたいのならば、現場の基礎体力を鍛える必要があるのです。

 

その基礎体力を測る指標が生産性とリードタイムであり、生産性を高め、リードタイムを短縮するには、全体最適化の視点が求められます。

朝一番に現場の主要メンバーと営業が一堂に会する工程会議こそ、その視点を養うのに最適な場です。

また、生産の流れをつくるとは、工程と工程とを“繋ぐ”ことでもあり、そのための深いコミュニケーションが欠かせません。

 

作業指示書の様式や使い方の変更のように、道具の見直しだけで、成果は出ません。

やはり、フェイス ツゥ フェイスが先にあるのです。

 

まずは、ミニ工程会議の仕組みをつくりませんか?