「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第111話 脳科学的な「やる気」
現場をワクワクさせる道具がありますか?
「ロードマップを見て、社長の考えをはっきり理解できました。」
経営者が想いをこめてつくった生産性ロードマップを目にしたとき、中堅の製造企業、現場リーダーが口にした言葉です。
現場改革は、文字通り、現場から改革の狼煙を上げます。
儲かる工場経営の本質は、経営者の想いを、他人を通じて実現することですから、主役はあくまで現場リーダー、作業者であることは言うまでもありません。
弊社がご指導している現場改革の最終形は自発的に回す現場活動の定着です。
改革は人に言われてやるものではありません。
自律性、主体性、自発性がなければ、改革は起きないのです。
当然のことですが、”ヤラサレ感たっぷりの改革”というのは存在しません。
ですから、経営者が、改革を起こして、現場を変えたいと考えるなら、自律性を高める環境づくりが求められます。
その成果物が自発的に回す現場活動であり、継続的、計画的な生産性向上の取り組みが可能となるのです。
今のことは現場へ任せて、経営者は将来の仕事に専念したいですよね。
経営者が描く将来の姿と現状のギャップを埋めるために、継続的、計画的な生産性向上に取り組むのであって、それには自走する現場活動が絶対に必要となってきます。
あくまで、本質は”他人を通じて”ですから。
現場改革の最終形は自発的に回す現場活動の定着であると考えている所以です。
では、自走する現場活動を定着させるにはどうするか・・・・・。
そこで、経営者が考えている5年先、10年先の見通しを生産性ロードマップで示し、現場と共有するのです。
経営者の考えを時間軸とともに共有することで、共感が生まれ、ベクトルが揃います。
見通しを示され、目指すべき状態を知った現場はどのような行動を取りますか?
自ら動いてみようかという気持ちが湧き出てくるのではないでしょうか。
継続的な現場活動が必要だと考える状態に至ります。
先の現場リーダーも同様でした。
その現場リーダーは日頃から経営者とのコミュニケーションを頻繁に取り交わしており、経営者が考えていることをある程度は理解しています。
ただ、いつまでに、何を、どこまで目指すのか、はっきりし示されていなかったことに、少々、不安を感じていました。
それが、ロードマップという形で明確に言語化、数値化され、やるべきことがはっきりしたのです。
明確な将来の夢や希望を示されれば、誰でも頑張りたくなりませんか?
実現性の有無にこだわらず、まずは、経営者の考える将来へ向けた夢や希望を現場へ示すことです。
それは、他の誰のものでもない、自職場のことであり、経営者の夢や希望を繰り返し知らされることで、当事者意識が徐々に高まり、改革の狼煙に繋がる”火種”が生まれます。
先の企業の現場では、早速、現場リーダーを先頭にした現場活動が開始されました。
活動の状況を見ていると、経営者が現場リーダーへ、訥々と語ったように、今度は、現場リーダーが自分の言葉で経営者の考えを、作業者へ説明している姿がありました。
ロードマップという時間軸とともにやるべきことを明示した”形”ある道具を手にした現場リーダーは確信を持って説明ができます。
こうして経営者の想いが現場へ浸透していくのです。
弊社では、生産性ロードマップを活用しています。
現場のやる気を引き出すツールとしてです。
ロードマップとは文字通り、ゴールへ至るまでの「行程」を示したものであり、ゴールにたどり着くために使う道具です。
まずは、目標や成果に焦点を当てます。
ゴールが設定されなければ、行程を立てようがないですから。
そして、達成される目標や成果こそが、経営者の考える”見通し”であり、これが現場のやる気を引き出す役割を担ってくれるのです。
自分の人生を豊かにしたいと考えない人はいません。
自分の職場が5年先、10年先どうなるのだろうか?という現場の疑問へはっきりした答えを示すことは、職務満足度を高めます。
ですから、日々の現場活動で生産性を高めながら我々はどこへ行くのだろうか?という漠然とした不安に、生産ロードマップで経営者の意思を示すことは一体化へつながるのです。
現状対比で、何を、どこまで、いつまでに目指すのか?
経営者は、現在の立ち位置をはっきりとさせてから、ゴールを設定するのです。
現在の立ち位置が見える化されていることも欠かせません。
見通しを明らかにすれば、現場から持続的なやる気を引き出せます。
脳科学的な「やる気」は次のように説明されます。
・ある行動をとろうとするときに、その行動の先に快感(いい気分)が予測されること
そして、”行動”と”快感を”結びつける働きをするのが、左右の大脳半球の奥にある「線条体」という神経核であり、「いい気分」をもたらしているのはドーパミンという物質です。
中脳にある「黒質」という器官と「線条体」をつないでいるドーパミン神経から快楽物質のドーパミンが分泌されます。
ここで、ドーパミンや線条体が持っている面白い性質に注目です。
やる気にかかわらず、ドーパミンも線条体も、外的要因にとてもだまされやすく、根拠がなくても、「頑張れる」「いける」と思い込むだけで線条体が機能してやる気が高まるというのです。
脳科学者の藤原菊紀氏は次のように語っています。
「線条体は、言葉にもだまされるし、その場の雰囲気にもだまされる。自分でしゃべったことや人に言われたことにも、暗示にかかりやすいのです。」(出典:アエラ 2018年3月26日)
将来の夢や希望を現場へ伝え、頑張れば先々いいことが起きそうだというワクワク感を感じる環境整備は、現場のやる気を引き出すのに繋がりそうです。
皆さんの現場には、ご自身、あるいは創業者が考えた理念やビジョンが掲げられていることでしょう。
これらは「経営者の想い」そのものであり、企業の存在意義を表現した事業の原点です。
新たなことに挑戦しようとするとき、行き詰ったとき、経営者はここへ戻ってきます。
そして、現場とこの原点を共有したいわけですが、理念やビジョンを、”ワクワク感”と共に伝える道具こそが、見通しへの行程を示した生産性ロードマップなのです。
時間軸と共に、行程を示すので、将来が見えやすいです。
「大きな目的」を感じることとなり、やる気を引き出す誘因となります。
経営者には、羅針盤のようにロードマップを使ってもらい、繰り返し、繰り返し、繰り返し、5年先、10年先の見通しを語って欲しいのです。
実現の有無よりも、そうした”夢”や”希望”があること自体に焦点が当たっていくので、現場は、行動の先にいいことがある、いい気分になれると感じることでしょう。
私たちも、言葉やその場の雰囲気で、”線条体”をだましてみませんか?
やる気を引き出すためなら、”罪”にはならないでしょう。
ロードマップがあれば、現場リーダーも作業者へ具体的に説明できるようになります。
ワクワク感が組織全体へ波及するのです。
見通しをロードマップで見える化させませんか?