「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第115話 ロジカルな品質管理
現場の理性に働きかけていますか?
「数が多いので、全数検査をすると間に合わなくなります。」
金属加工メーカー、現場リーダーの言葉です。
その現場では、今、不良品流出防止体制を構築しています。
「それでも全数検査はやらないとダメです。どうしたらやれるかを考えましょう。」
伊藤はこのように返事をしました。
不良品の流出を防止できる体制をつくりたいとの経営者の要望を受けてのご指導です。
この企業では数か月前、品質クレームが発生しました。
納入先の現場へ出向き、全品再検査、必要に応じて手直しをする事態になったのです。
現場リーダーと数名の従業員が、1週間、そこで選別、手直しをすることになりました。
宿泊も伴った対応で計画外の支出となり収益面でもダメージを受けましたが、それ以上に顧客との信頼関係を修復することが喫緊の課題となっています。
成長路線を描いているこの企業の経営者にとって、避けなければならないリスクのなかでも上位に位置付けられるのはこの品質クレーム、品質問題です。
現場に顧客の立場に立つ意識、顧客目線を持ってもらいたいとの考えもあって、経営者は不良品流出防止体制の強化・構築を決断しました。
不良品を流出させない体制づくりの論点は2つです。
1)その名の通り、不良品を場内から外へ出さない仕組みづくり
2)そもそも、不良品を造らない仕組みづくり
当コラムをお読みの皆さんはもうお判りであろう2つの論点です。
そして、弊社では特に後者を重視していることもご理解いただいていることでしょう。
セミナーやご指導の中でお話ししていますが、いわゆる品質原価の考え方を導入し、そこから導き出される「事を起こさない」仕事のやり方に力点を入れるのが中小現場の進む道です。
中小製造企業では、”少数精鋭で筋肉質の現場”が自発的に仕組みを回す必要があるので、「事を起こさない」ことに焦点を当てます。
技術が進化するスピードが速くなり、モノづくりが高度化、複雑化している中、大手も「事を起こさない」ことに軸足を置くべきであり、そもそも”少数”で戦に挑まなければならない中小製造現場であるならなおさらです。
ですから、後者の”そもそも、不良品を造らない仕組みづくり”に力点を置くわけですが、だからと言いて、前者の取り組みを疎かにしていいというロジックにはなりません。
後者が成立するには、現場である程度、前者が機能していなければならないからです。
ですから、どちらもない場合は両者を並行して進めます。
先の企業の最終工程は「検査」工程であり、前者の取り組みはゼロからの出発ではないのですが、先のようなクレームが散発している現状を踏まえると仕事のやり方を変える必要がありそうです。
そこで、まず、前者の観点でやるべきこと、検証すべきことを考えました。
それが「全数検査」です。
受注生産であろうが見込み生産であろうが、また、個別生産であろうが連続生産であろうが、生産形態にかかわらず品質管理の初手は全数検査。
品質管理の基本中の基本、これがないと始まりません。
さらに、全数検査は不要であると考えるなら、その根拠を明らかにすること。
この全数検査へ対処するロジックを持つことが初手というわけです。
この徹底度合いが現場力のひとつを表しており、言い換えると、経営者の品質に対する想いの度合いをも反映しています。
つまり、全数検査のような品質管理の基本中の基本が”あいまい”に扱われている現場に、経営者の想いが浸透しているとは、到底思えないのです。
2007年、食品業界で内容物や賞味期限の偽装問題が頻発したことを憶えている皆さんも多いのではないでしょうか?
経営者の姿勢が強く問われました。
・ミートホープによる豚肉・鶏肉等の混入挽肉販売問題
・石屋製菓による「白い恋人」の賞味期限偽装
・赤福餅の消費期限偽装
・船場吉兆の産地偽装や賞味期限偽装に加え、食べ残しの再提供問題
品質を重視すると、どうしても目先の収益的にはマイナス方向へ振れるだけに、経営者の想いが重要なのです。
(余談ですが、上記4番目”船場吉兆”での会見における親子のやりとりは失笑ものでした。記憶している皆さんもいらっしゃるのでは?これではねぇ、お客さんの足も遠のくのでは?と伊藤も感じた次第。)
さらに、上記の事例だけでなく、昨今、大手製造企業の品質不祥事が頻発しています。
背景に経営者層と現場との間にみられる意識の乖離があげられているようです。
品質問題を解決するには、一も二もなく経営者の想い次第であることを思い出したいです。
繰り返し、繰り返し、繰り返し、語ることで浸透するのが”想い”ですから、経営者は現場の耳にタコができるほど品質重視を語る必要があります。
もし、品質に対する意識が希薄であると感じたら、まず、ここからです。
今や、品質問題はコンプライアンス問題でもあります。
先の現場では幸いに、この全数検査体制はありました。
しかし、そのやり方に問題があったので、改めて、仕切り直して体制を作り直そうと現場リーダーと着手しています。
ただ、やるべき工数の多さに対して出てきたコメントが最初の言葉です。
徹底してやるには、必要な工数をかけなければならないこと、しかし、それって、客先選別と比べて、全く問題にならないほどコスト的には有利であること。
こうしたことを説明すると、現場リーダーも腹落ちしたような表情になりました。
他でもない、その現場リーダー自身が客先へで選別をしてきたわけですから、当然です。
そして、品質管理を進めるうえで欠かせないのはロジックです。
なぜその検査をやるのか?なぜその検査をやらなくてもいいのか?こうした疑問にひとつひとつ丁寧に答えを見つけながら仕組みを築くのが品質管理の要点でもあります。
モノづくりの現場は当然のように”納期”に囚われます。
ですから、現場が、納期を守るためなら、他のことなら少々目をつぶってやりすごそう・・・・・ということに直面することってないでしょうか?
目をつぶってやりすごす事が内向きのこと、つまりコストにかかわることなら、顧客へ迷惑をかけることはありません。
しかし、目をつぶってやりすごす事が外向きのこと、つまり仕様、品質にかかわることなら、顧客へ迷惑をかける恐れが大であり、コンプライアンス問題にもなり兼ねないのです。
ですから、その検査をやらなければならない背景を、ロジカルに現場へ説明することは、”あいまいさ”を払しょくする最良の方法です。
ついつい、そうやってしまう現場の”揺らぎ”を”理性”で引き留めるのです。
理屈がはっきりして、やらねばならない手順を、正面切って省くのは気が引けるものではないでしょうか?
例えば、先に挙げた全数検査に関してもそうですね。
全数検査が必要なのだろうか・・、抜き取り検査でもいいのだろうか・・。
明確な判断基準を持つことが要点です。
皆さんの現場では、品質検査の有無、頻度の判断基準がはっきりしていますか?
全数検査と抜き取り検査の判断基準として工程能力指数があります。
詳細な解説は省きますが、公差と工程能力の比から算出される数字です。
品質特性の分布が正規分布であるとみなされるとき(製造現場は基本的にこれを前提で考えます)、工程能力を6σ(両側規格)あるいは3σ(片側規格)と表します。
先の企業の全数検査の対象は”外観”です。
外観検査はある意味で感応検査でもありますが、外観の良し悪しを、ある程度、定量化することは可能です。
キスが幅1mm以下、長さが10mm以下であればOK。
小さなシミが10c㎡当たりに3個以下であればOK。
こうした判定基準で〇×をつけられます。
この場合、NG判定基準(下側規格S(下))のみで合否を決められますから、工程能力は片側規格の3σです。
したがって、工程能力指数は|母平均-下側規格S(下)|÷3σで算出されます。
そして、算出された工程能力指数から推測されるのが不良率です。
●工程能力指数と不良率の関係
・工程能力指数が1.33のとき、10万個に3~4個程度の不良が発生する水準
・工程能力指数が1.00のとき、1,000個に1~2個程度の不良が発生する水準
これらから、工程能力を下記のように評価するのが一般的です。
・工程能力指数が1.33以上では工程能力が十分にある。
・工程能力が1.00以上1.33未満では工程能力が不十分である。
したがって、工程能力指数が1.33以上なら、抜き取り検査でもよしと判断します。
ただ、これは一律ではありません。
検査にはコストが伴いますから、いわゆる”コスパ”を考えたいです。
継続的に品質のバラツキを採取し、顧客クレームとの相関を取れば、独自の判断基準ができあがるであろうことは皆さんもイメージできるのではないでしょうか。
地道な活動ですが、経営者に品質への強いこだわりがあって、その想いが現場に浸透していれば継続できます。
品質問題はロジカルに進めます。
こうやって、現場の”あいまいさ”を払しょくし、理性的に判断できる環境を作るのです。
それにしても、そうした活動を継続させるには経営者の強い想いがなければダメであることは言うまでもありません。
「いつもウチの社長は、”まず品質だ。何があっても顧客の立場でまず考えろ。”って言っているからなぁ。」ということが現場に浸透していたらどうでしょう。
先の現場も地道にデータを積み上げ始めました。
これから、5年後、10年後が楽しみです。
品質活動をロジカルに進める仕組みをつくりませんか?