「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第161話 生産性向上と「アレッ?」
生産性向上のための生産性向上活動になっていませんか?
「ちょっとした”アレッ?”と思わせることを加えたいです。」
機械部品組み立てを事業の柱としている役員の言葉です。その企業では、ここ5年程、売上高が減少傾向にあります。
経営者層は何らかの手を打たなければならないと考えており、今月から現場の生産性向上活動に着手したところです。
儲かる工場経営の公式に当てはめれば、経営者のミッションのひとつは”単価を上げること”。「儲かる価格」を設定することです。
そのためには・・・とアイデアを膨らませると現場の役割も見えてきました。納得したうえでの生産性向上活動です。
現場も、生産性向上が儲かる価格に繋がっていると知りました。まだまだ手探りですが、現場活動がスタートです。
その一方で、経営者層の重要な仕事は、儲かる価格を設定することであり、それを実現させる具体戦略を明らかにしなければなりません。
儲かる価格を設定できる製品やサービスに欠かせない観点とは?に知恵を絞ります。ブレーンストーミングで経営幹部が発したのが、冒頭のことばです。
電子産業の収益構造を表すモデルとして有名な「スマイルカーブ」をご存じでしょうか?バリューチェーンの上流工程と下流工程で生み出す付加価値は高く、中間工程で生み出せる付加価値は低いという考え方です。
バリューチェーンに沿って、生み出す付加価値を結ぶと、両端が上がり、中央部が下がった図となります。「スマイルカーブ」と呼ばれる所以です。
上流工程は、商品企画や設計、開発、部品製造であり、下流工程は物流や保守サービスに該当します。
一方、中間工程は加工、組み立てであり、これらは相対的に付加価値を生み出しにくい工程とされているのです。
また、ペティ=クラークの法則という産業構造の高度化を示す法則があります。
経済社会・産業社会の発展につれて、第1次産業から第2次産業、第2次から第3次産業へと就業人口の比率および国民所得に占める比率の重点がシフトしていくという法則です。(出典:Wikipedia)
社会が成熟してくると主役が製造業からサービス業へ移行するというわけです。
多くの中小製造現場はスマイルカーブの下がった部分を担っていることが多いうえに、人口減少という社会問題に直面した日本はまさに、成熟も成熟、「超成熟」社会へ突き進んでいます。
したがって、だまっていても受注がドンドン舞い込んできた・・・というかっての状況を期待することはできません。
顧客の願望に焦点を当てて、それを実現させるにはどうするか?と考えることが求められています。
従来の下請け型ビジネスモデルに依存して、言われたモノを言われたとおりに言われた納期で造っていれば儲かる業界は今やありません。顧客も厳しい状況にあります。
下請けにとっての売値が顧客にとっての原価そのものですから、薄利にならざるを得ません。それも、小ロットでしか依頼がこないとなれば・・・・、儲かるはずがないのです。
下請け型のビジネスモデルがダメだ言っているわけではありません。顧客におんぶにだっこされた、”従来の”下請け型ビジネスモデルがダメだと言っているのです。
価格の決定権は顧客にありますが、儲かる価格を設定できれば、顧客と交渉する余地が生まれませんか?
儲かる価格を設定し、顧客と向き合います。丸腰では、生殺与奪権を100%顧客に握られた状況になるからです。
そこで必要なのが、貴社製品やサービスを選んでもらえる理由、動機、根拠、必然性・・。
これは「創り出す」ものであり、付加価値額を積み上げる原動力となる顧客に届ける「価値」そのものです。
たくさんある競合の中から選んでもらうには、「そう言えば、〇〇にお願いすればやってくれる」と、貴社のことを憶えてもらわないといけません。
「アレッ」です。
貴社の仕事のやり方を、儲かる下請け型ビジネスモデルに変えます。
下記、すぐに、何か浮かびますね。
・会いに行けるアイドル
・吸引力の変わらないただひとつの掃除機
顧客に届ける価値、すなわち「アレッ」を抽出し、全社で共有し、磨き上げるのです。そうして顧客の願望に応えます。
顧客の願望と貴社の強みを結びつける手掛かりは2つです。
1)QCDのC以外
2)スマイルカーブの両端
先の企業では「短納期+α」を狙います。重要なのは短納期とαを組み合わせているところです。「アレッ」と感じて、憶えてもらうためには、中小ならではのキラリと光るものも欲しくなります。
柔軟性、機動性、小回り性を身上としている中小現場です。大手にはない、「ならでは」があるはずです。
ウチはこのサイズにこだわっています、ということで、製品「幅」にこだわっている経営者がいらっしゃいます。業界の標準設備サイズを外れた特殊性が憶えられる理由です。
こうして考えれば、「アレッ」と感じて、憶えてもらうため、製造現場にもやるべきことがあることに気付くでしょう。
短納期や設備サイズの強み化は、現場がカギを握っているからです。儲かる価格を設定するには現場活動も大切なのだ・・・。現場も納得したうえでの生産性向上活動が展開されます。
生産性向上のために生産性向上活動をやるのではなく、「アレッ」と感じて、憶えてもらうためにやるのです。
これがお金を生み出す生産性向上活動の本質となります。
AKB48やダイソンの掃除機では、「会いに行ける」「吸引力が変わらない」が顧客に届ける価値です。「アレッ」と感じてもらうところがはっきりしています。こうなれば、生産性向上の論点も共有され、頑張る動機付けも生まれるのではないでしょうか?
とにかく、生産性向上活動を絵にかいた餅、机上の空論、砂上の楼閣、座上の空論とは絶対にしたくないのです。
弊社の生産性向上活動では、なぜ、生産性向上活動を展開するのか、現場活動と付加価値額との結び付け方を重視します。儲からない現場活動を散々見てきたからです。現場の動機付にも関わる重要な論点になります。
ここが疎かになると「自分の現場には問題がない」と考えるリーダーも出てくることになり、いざ活動に着手しようとしても立ち上がるまでに時間を要することが多いです。モッタイナイことです。
そう考えるリーダーが悪いのではありません。問題は、そのように考えるリーダーを生んでしまった仕事のやり方の方にあります。
生産性向上活動ファーストではなく、顧客に「アレッ」と感じて、憶えてもらうように・・という目的を伝えていないからです。
現場は顧客と直接に触れる機会が少ないので致し方がない側面もあります。が、今後は顧客と向き合える現場のみが生き残ることを考えれば、製販一体の重要性も理解できるのではないでしょうか?
結局、我々の給料の源泉となる付加価値額を支払ってくれるのは顧客です。
その顧客の願望に応えられなければ、選ばれなくなるわけですから、では、我々はどうするべきかと製販一体で考えてほしいのです。
特に、顧客に「アレッ」と感じて、憶えてもらうに、現場は何をしなければならないのか・・・ということを。
製造現場が、顧客と向き合える、顧客のことに思いが至る仕掛けを考えてください。
弊社は、セミナーなどで経験した事例をご紹介しながら、製販一体の重要性をお伝えしています。儲かる生産性向上活動の本質がそこにあるからです。
・成長する現場は、顧客に向き合おうと考え、生産性向上に取り組む。
・停滞する現場は、従来の下請け型を継続して、顧客から見放される。
生産性向上活動と顧客に「アレッ」と感じて、憶えてもらう取り組みを結び付けませんか?