「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第162話 刺さる目標値

その目標値は現場に刺さっていますか?

 

「上と現場をつなぐことができるかもしれません。」

中規模企業経営幹部の言葉です。

 

その企業では毎期の経営計画を明らかにして、現場へ提示しています。ただ、その一方で、問題もあると感じていました。

提示している経営計画の目標値が現場へ浸透しない・・・。

経営計画と現場活動がつながっていない・・・。

経営者層と現場が乖離していると感じています。

 

そこで、今回、まず、製品別儲けの見える化に着手しました。付加価値額人時生産性を明らかにしていったのです。

付加価値額に着目すると、モノづくりで儲ける構造が見えてきます。その「構造」に着目したとき、その幹部はあるキーワードにピンときたようです。

これなら現場の作業者にも響きそうだ・・・。これまで提示していた目標値を現場の作業者に響くよう、”翻訳”することにしました。

 

 

 

 

 

目標値を設定する重要性は論を俟たないでしょう。目隠したマラソンはかなりきついです。

火事場の馬鹿力が発揮できるのも、「ゴールまで残り〇〇kmだ」と分かるときではないでしょうか?今、走っている地点や残りの距離がわからなければ踏ん張れないものです。

それと同じで、儲かる工場経営には目標、目標値が欠かせません。

 

繰り返し申し上げていますが、工場経営の本質は経営者の想いを他人を通じて実現することにあります。

どんな素晴らしい理念や想いを掲げていても、現場が動かないと、それらは画餅に帰してしまうのです。

 

ですから、目標値を掲げるとき、経営者が考えなければならないことは、現場に”刺さる”か否かです。刺さらなければ人は動きません。

この目標値は、他でもない”私が”、”俺が”、頑張らなければ達成できない・・・という考えが浮かぶよう導く必要があります。

 

このあたりを強制力に頼ると、”ヤラサレ感タップリ”となり、これまた、元の木阿弥です。心に響く目標値が現場に刺さり、引き出された自主性によって、現場が動き出す。

しばしば言われることですが、理性より先に、まずは感情に訴える・・・。儲かる工場経営の目標提示のやり方です。

 

多くの経営者が経営目標として思い浮かべるのは売上高であり、利益です。これに誤りはありません。

売上高があっての利益です。トントンを目指す「必要売上高」や経営者が思い描く利益の積み上げを実現させる「目標売上高」は重要な指標です。

 

ただ、こうした売上高や利益は、あくまで経営者視点視点の数値であり、現場の作業者にはピンときません。

 

目標は売上高〇〇、利益〇〇。売上高は昨年対比で〇%のアップなので、各工程は生産性を高めて欲しい・・・と伝えられてもね。

売上高をアップさせる大切さも分かるし、利益が重要なのも分かるけど、売上は営業は売ってなんぼのもの・・・、売上高アップのために何を期待されているのだろうか?

 

意欲的な現場もこんな感じになるのではないでしょうか?売上高をアップさせるのは営業と思い込んでいるかもしれません。

現場活動と売上高アップとの関連は当然にあるわけですが、現場には今ひとつ伝わらないわけです。

 

 

 

 

 

自動車組み立て工場で、いきなり完成車を見せられて、これを組立てて欲しいと言われると誰でも戸惑います。

自動車組み立て工場の使命は、魅力ある車を顧客へ届けることにある。ということは、現場も分かっていますが、いきなり全部を組立てろと言われても・・・となるはずです。

 

魅力ある車を組立てるために、あなたは”具体的に”何をすべきか?これを示す必要があります。エンジンの取り付けは・・・、塗装を上手に塗布するには・・・、ハンドルは遊びも考慮して・・・。

 

目標値が、現場作業に沿った表現に”翻訳”されれば作業者は、そこではじめて、”私が”、”俺が”、頑張らなければと感じることができます。現場作業に沿った表現に”翻訳”することがポイントです。

 

儲かる工場経営では、利益を売上高-費用ではなく、付加価値額ー固定費で表現します。

固定費VS付加価値額。

これは、伊藤自身がかって担った中小現場で黒字化させたときに痛感したことです。モノづくりで利益を出すこととはどんなことか?現場の行動を促すために、図で説明する必要がありました。

 

現場の生産活動は「付加価値額の積み上げ」と表現できます。儲けを「積み上げる」という考え方は現場の生産活動と親和性が高く、現場も実感を持ちやすいです。

製品別の付加価値額とは、その製品の「儲け」そのものであり、現場も知りたい数値ではないでしょうか。

 

先の中規模企業経営幹部も、「付加価値額を積み上げる」という考え方を使えば、売上高だけでは伝えきれない想いを、現場へ”グサリ”と刺さるように浸透させられるのではないかと感じました。

それで「上と現場がつながりそうだ」と考えたのです。

 

 

 

 

 

ドラッガーは、事業規模が成長すると、トップマネジメントの仕事は新しい時間次元に移行、つまり長い将来を考えて行動しなければならないと語っています。そこで、やらなければならないことは・・・、

・目標を達成することよりも、目標を設定することに時間をかける。

・上から下に加えて、下から上へのコミュニケーションを構築する

成長段階では、仕事のやり方を変える必要に迫られます。経営者が直接に現場を管理するやり方から、右腕役を通じて現場を管理するやり方へ。

 

なぜなら、経営者は「緊急性は低いけれども重要度の高い仕事」にも取り組まなければならないからです。

経営者は中長期的視野の仕事を意識する必要があります。緊急度の高い業務は可能な限り、工場長をはじめとする右腕役に任せなければなりません。

 

そうすると、業務の実行は右腕役、目標設定は経営者・・・という役割分担に至ります。経営者は現場を動かす目標値を設定することに時間をかけ、じっくりと知恵を絞るのです。

そして、刺さる目標値を提示された現場は考えるでしょう。この目標値であるなら、”私が”、”俺が”、頑張らなければと。

 

そうなれば、こうしたい、こうやって欲しい、こうできないだろうか、と現場からも声が上がってくるはずです。

下からの声を引き出し、それを大切にして、現場活動へ生かすことが儲かる工場経営でも欠かせません。下から上へのコミュニケーションを活性化させるのも、刺さる目標値があってこそです。

 

儲かる工場経営では、「他人」の力を生かさなければなりません。そのための刺さる目標値というわけです。

 

 

 

 

 

付加価値額に着目すると、モノづくりで儲ける構造が見えてきます。売上高と利益に加えて、モノづくりで儲ける構造に焦点を当てた目標設定で、現場のやる気を引き出したいです。

経営者がいなくても、経営者の想いを理解した右腕役と現場が儲かる生産活動を展開してくれます。

 

結局、刺さる目標値を上手く使った経営、つまり儲かる工場経営は、経営者の日頃のストレスを解放するためのものです。そうでないと、経営者は中長期的視野を手にできません。

 

・成長する現場は、刺さる目標値で、”私が”、”俺が”、頑張らなければならないと考える。

・停滞する現場は、従来の目標値を目にして、売上高をアップさせるのは営業の仕事だと考える。

モノづくりで儲ける構造に焦点を当てた目標設定で、現場のやる気を引き出す仕組みをつくりませんか?