「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第164話 頓挫させない
現場活動に着手しても、直ぐに頓挫しませんか?
「なんのためにやらなければならないのか、分かりやすく説明する必要があります。」
生産性向上活動に着手した、あるい中規模電器部品メーカー現場主任の言葉です。
プロジェクトの段取りが進み、具体的な活動に着手する段階で、現場の主要メンバーとベクトル合わせをします。
プロジェクトを推進するのは作業者一人一人。課長、GL、主任だけが気合を入れればいいというものではありません。
工場経営の本質は経営者の想いを、他人を通じて・・・云々は、現場における上司と部下との間にも成り立ちます。
部下に活躍してもらわないこと、成果は出ません。現場を引っ張る主要メンバーも、部下へどのような働きかけをするべきか意思統一する必要があるのです。
20人規模の現場を引っ張る主要メンバー同士の議論のなかで、いろいろな意見が出されましたが、そのひとつが冒頭の言葉です。
多くの中小現場は請負型のビジネスモデルで事業を展開させています。付加価値額人時生産性を高める具体策は、それほど多くはありません。
だからこそ、儲けの公式を組み立てて、その考え方を共有し、限られた具体策へ経営資源を集中させたいのです。少数精鋭の中小は、大手のような絨毯爆撃をやってはダメです。
具体策が明らかになれば、5SやIEのやり方も浮かびます。赤札作戦が有効なのか?手順計画や工数計画がポイントなのか?小日程計画がキモとなるのか?
儲けるために5SやIEをやっているのですから当然のことです。5Sのための5SやIEのためのIEではありません。
こうして、戦略が明らかになった後、いよいよ、プロジェクトを推進させます。具体的な活動に着手するわけです。
ただ、闇雲に、経営者の号令一下でプロジェクトをスタートさせても、あっという間に壁にぶち当たって・・・、ということも少なくありません。
なぜでしょう?
具体的な活動に着手する段階で、多くの現場が失敗をしています。経営者が立案した戦略を現場へ落とし込む段階でうまく行かないのです。
こうした場を伊藤はたくさん見てきました。自分が所属していた中小製造企業の現場やご指導先での現場で、です。
現場へ落とし込む上での重要な観点が抜けているのが原因なのですが、これは現場でそうした体験をしていなければ理解できない肌感覚的なことでもあります。
ここはブラックボックス化されていて、見えにくいところです。
ですから、弊社がご支援している企業先でプロジェクトに着手するにあたり、その点をご指導するために、先のような形で、主要メンバーと意見交換することがあります。
こうしたことを抜きに現場活動を定着させようとしても、”やけど”をするのがオチです。
経営者が書籍等の知識をもって、ご自身でやろうとした場合、そうなってしまうのは、ブラックボックス化のところをそのままにしているからです。伊藤も大手から転職した中小の管理者時代、散々苦労をしました。
諦めずに試行錯誤を重ねれば、見えてくるものですが、こうした遠回りは、時間を失い、浪費するモッタイナイ状況と言わざるを得ません。
生産性向上活動は戦略的な取り組みですが、それを成功させる戦術も当然ながらセットです。プロジェクトの主人公は現場ですから、現場がその気になって動きたくなる場を作り出す戦術が欠かせません。
儲かる工場経営の本質は経営者の想いを他人を通じて実現することにある。
繰り返し申し上げることですが、プロジェクトが頓挫するケースに共通しているのは、この観点の欠落にあると感じます。
言い換えると、現場の作業者は経営者ご自身が考えることと同じように考えてくれるはずだと思い込み過ぎていませんか?ということです。
現場で「ブラックボックス化」された部分が解消されており、思考回路の共有ができているなら問題はありません。取り組みはGO!です。
そうでなければ、やることがあります。
皆さんはいかがでしょうか?
やる気を引き出す3要素、活性化の3要素、3つの改革と3つの羅針盤、フォローと評価・・・。「ブラックボックス化」された部分を解消し、思考回路を共有したいのです。
詳細はセミナーやご支援の場でお伝えしていますが、例えば、次の2つは、当り前のようですが、重要な問いかけであると考えています。
1)上司は、プロジェクトについて、部下へどのように伝えるべきなのか?
2)上司は、プロジェクトをスタートさせた後、どのような点に留意して、部下とコミュケーションを交わすべきなのか?
前者は仕事の重要性と緊急性、後者は現場の当事者意識に関連しているからです。
動いてもらうのは、あくまで他人。
意のままに動いてもらえると安易に考えていると上手くいきません。
ですから、現場の主要メンバー間で、明確な方針を共有せずに、漫然とプロジェクトをスタートさせると失敗します。経営者はこうした問いを投げかけて、現場を動かす明確な方針を示すのです。
部下のやる気を引き出し、上司が期待する以上の成果を出したくなる場を醸成するのは上司の仕事だからです。
指示に対して、「それなら、一発やったるかぁ!」とノリよく、動きたくなる現場にするには?と問い続けなければなりません。
例えば、なぜ、1)の問いかけが重要なのか?
そのプロジェクトが、経営課題を解決するような重要性が高い仕事であっても、緊急性が低ければ、現場は「余計な仕事が回ってきた」と考える傾向があるからです。
現場は毎日、”納期”を基準に仕事をしており、作業者各人、自分は精一杯やっていると考えています。現場にとって、納期遵守は緊急性の高い業務の代表格です。ですから、納期遵守以外の仕事に意味があるのだろうか?との思考になります。
職場で「火事だ!」となれば、作業者は自ら仕事を放り投げて、消火にあたることでしょう。緊急性が高いからです。
一方、来週、取引先のVIPが現場訪問するので整理整頓をやっておくようにとの指示が出された現場はどうでしょうか?
俺(私)は、今、忙しいので、誰かがやってくれるだろうと考えるのではないでしょうか。(皆さんの現場では、率先して動く作業者が多いと信じていますが・・)重要なことだと分かっているけれど、緊急性が低いからです。
つまり、1)の問いは重要性は高いが、緊急性の低い仕事を現場へ浸透させるキモを探っています。
先の現場では、20名規模の現場を3つに分け、課長、GL、主任が、各チームへ伝達することから始めました。
いつものように全員を集めての伝達ではスルーするだろうとの配慮からです。大人数よりも少人数の方が、伝えやすいです。
なぜ、今、緊急性が低いけれども重要性の高い課題をやらなければならないのか、その狙いと目的を上司が小グループ単位で分かりやすく説明することにしました。さらに、「分かりやすく」を強化するために、図で説明する道具も用意しました。
5年先、10年先のことを考えるって、緊急性はないけれども、安心して働くには欠かせないよね?今やっておかないと、その時に気が付いても遅いよね?だから、やろう!
闇雲に、経営者の号令一下でプロジェクトをスタートさせても、上手く行かないのは、現場を動かすキモが「ブラックボックス化」されたままで、その結果、思考回路が共有されていないからです。
プロジェクトをやり切る重要な論点となります。
当然のことですが、生き残るためにやらなくてはならないことは、緊急性は低いけれども重要性の高いプロジェクトです。緊急性の高い仕事にのみ囚われていては基礎体力は高まりません。経営者の強い意思が前提にあることは言うまでもないことです。
プロジェクト頓挫という致命的な時間のムダを省いて下さい。
「こうして伝えれば、上手く進みそうです。」とは先の現場の課長の言葉。
現場のベクトルを合わせて、早く、活動に着手したくなってきます。
・成長する現場は、「それなら、一発やったるかぁ!」とノリよく、動き出す。
・停滞する現場は、忙しいから、手の空いた人がやってくれるだろうと考える。
現場活動を頓挫させない論点を整理してみませんか?
今度は貴社の番です!