「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第165話 ボトムアップ

現場に問いかけたら、作業者はどんな反応を示しますか?

 

「こんなに意見が出てくるとは思っていませんでした。」

20人余りの製造現場を取りまとめているGLの言葉です。

 

その企業の経営者は安定した利益確保に頭を悩ましています。既存顧客、既存業界の事業がけでは早晩、行き詰まるとの判断で弊社にご相談がありました。

新たな成長路線にのるため、新たな業界への進出に挑戦し始めたところです。

それと並行して、現場の生産性を高める活動にも着手しなければならないと考えています。自発的な「継続的改善」を実現させるためです。

 

まずは、儲けの見える化で改善活動の対象製品を選択します。対象製品の”特長”を把握した後、現状を整理し、目標を立てました。

管理者が知るべきビフォーとアフターは付加価値額人時生産性。一方、管理者が現場へ伝えるべきビフォーとアフターは時間(時刻)。工数削減であり、リードタイム短縮です。

 

そこで、管理者は現場へ時間の目標値を提示します。作業者への働きかけはここからです。

目標値を達成するのにどうするか?

 

「何か工夫するところはないだろうか?」と管理者は現場へ問いかけます。

さて、作業者はどんな反応を示すか・・・・・。

 

対象製品を担当する5人のグループでしたが、GLの予想を、いい意味で覆し、10数個の改善項目が出されました。

10数個の改善項目を記述したリストを眺めながら、GLが語ったのが冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

生産性向上の活動は、トップダウンとボトムアップの両方向からのアプローチが必要です。そもそも、現場活動は経営課題を解決するためにやります。

ですから、どんな経営課題を解決するのか?そのためにどうすべきなのか?その結果、付加価値額人時生産性がどれほど向上するのか?

これ抜きに現場活動をやっても儲かりません。

 

現場活動の成果が部分最適に留まるからです。現場の困りごとだけに焦点を当てることになります。当然のことですが、これは現場のせいではありません。

経営者が全体最適化、つまり経営課題を解決するために現場活動をやるのだ~との意思表示をしないからです。したがって、トップダウンの指示は欠かせません。

先の現場では、目標の付加価値額人時生産性から導き出された時間がトップダウンの指示に該当します。ただ、トップダウンの指示だけでも、成果は得られないものです。

 

現場のことは現場が一番わかっています。知恵を働かせて、形にするのは現場ですから、具体策は、作業者の自律性や有能性に任せるのが一番です。ボトムアップも欠かせません。

ですから、管理者は現場へ問いかけるのです。「何か工夫するところはないだろうか?」

 

当初、先のGLには懸念がありました。「作業者からの反応がイマイチではないだろうか?」

それまで、そうした問いかけをしたことは無い上に、GL自身も作業者から意見をうまく引き出せるとは考えていなかったからです。

 

でもそれは、嬉しいことに、杞憂に終わりました。

確かに、GLが問いかけた(こうした形式の打ち合わせ自体が初めて)とき、すんなりと、意見が出てきたわけではありません。ただ、ある瞬間から場の雰囲気が変わったようです。

 

技量の高い作業者が口火を切ったのきっかけに、全員がなんらかの意見を出すまでに至りました。そうして、10数個の改善項目が出てきたのです。

「私の気が付かなかった改善項目もあります。」とはリストを手にした課長の言葉。

現場活動にボトムアップが欠かせないゆえんです。

 

 

 

 

 

言われたモノを言われた納期で造って商売になる時代は終わりました。今後はどうなるか・・・・、経営者の皆さんはそれを知っています。

ですから、これからは、現場活動を定着させたいのです。付加価値額人時生産性向上の活動をボトムからも進めるのに、そうしなければなりません。現場の作業者へ問いかける機会が増えます。

 

皆さんの現場の作業者へ問いかけたとき、作業者はどのような反応を示すでしょうか・・。

 

それは、経営者と管理者やリーダーとの関係性から予測できます。管理者と作業者との関係性は、経営者と管理者との関係性に通じる。これは多くの現場を見てきて感じる伊藤の経験則です。現場は経営者の鏡とも言われます。

 

 

 

 

 

下記の問いへの答えを思い浮かべて下さい。

・経営者が管理者やリーダーへ問いかけたとき、どんな反応が返ってくるでしょうか?

・管理者やリーダー同士の会議でどのような議論がなされているでしょうか?

 

A.こんな問題点があるのでなんとか解決したい。

B.こんな問題点があるからやってられない。

管理者やリーダー同士の会議に立ち会ったとき、雰囲気として感じるのは、どちらかです。

 

似ていますが、観点が全く異なります。前者は、チームでイイ仕事をしたい、イイ職場を作りたい、会社の豊かな成長のためにはどうするべきか、という想いに立脚しています。

一方、後者は、チームとは無関係に、個人的な気持ちを優先しています。後者の行きつくところは、不平や不満、代案もないただの反発。

 

前者と後者、どちらがプロフェッショナルであるかは言うまでもありません。

後者の管理者やリーダーに導かれている現場へ問いかけたら、どうなるか・・・・もう、明らかです。

 

 

 

 

 

管理者やリーダーには、重要な仕事があります。現場の活性化です。活性化の3要素は度々、ご紹介しています。

・共通の目標

・貢献意欲

・コミュニケーション

 

管理者やリーダーは、経営者の想いを受けて、目指す方向(共通の目標)を示し、チームのために頑張るよう現場へ働きかけ、チームの凝集性、一体化を高めるのです。そこでは公式、非公式のコミュニケーションが重要な役割を果たします。

 

こうしてチームは活性化され、そうした土壌の下で初めて、作業者のやる気が引き出されるわけですから、チーム活性化の先導役となるべき管理者やリーダーの振る舞いが、不平・不満に立脚しては、現場活動を展開する以前の問題であり、論外です。

 

先の現場の課長はこうも語っています。

「私自身、現場との接し方で気を付けなければならないと感じています。現場に指示を出しても、出しっぱなしで、その後、何もしないままにすることがあるからです。それに、現場からの頼まれごとも忘れてそのままということも多いです。」

 

この課長の下で働いている作業者なら頑張るはずです。上司自身、自分の至らないところを認め、自分に問題があるのではないだろうか?と考えています。

チームでイイ仕事をしたい、イイ職場を作りたい、会社の豊かな成長のためにはどうするべきかという想いに立脚しており、現場も同じような思考回路を持つに至るからです。

それが証拠の10数個の改善項目です。

 

その現場に身を置いて、改めて、コミュニケーションの大切さを感じます。とにかく、課長やGL、主任と作業者との会話が心地よく響くのです。冗談を交えた会話も聞こえてきます。

さらには、経営者層と管理者やリーダーとの間でも気軽な会話が飛び交っており、コミュニケーションという点から見えてくるのは、全社のゆるやかな一体感。

コミュニケーションは現場活性化3要素のひとつです。その現場は十分に活性化されていました。

 

 

 

 

 

 

現場活動を始めるにあたって、確認したいのは、管理者やリーダーとの関係性です。管理者やリーダーへ問いかけて下さい。どんな言動が返ってくるでしょうか?

それと同じ反応が作業者から返ってくるのです。

 

ですから、経営者は、管理者やリーダーとのコミュニケーションを通じて思考回路の共有を図ります。

チームでイイ仕事をしたい、イイ職場を作りたい、会社の豊かな成長のためにはどうするべきかという想いを抱くよう導くのは経営者しかいません。

 

現場の活性化を図る役割を担っているも管理者やリーダーです。管理者やリーダーとのコミュニケーションがカギを握ります。ここがうまくいっていれば、現場活動の有無は本質的な問題ではありません。

 

あらゆる判断基準が「会社の豊かな成長のために」という思考回路を持った管理者やリーダーに導かれた作業者です。

そうした作業者チームは、現場活動を自主的に回すポテンシャルを持っているので、その気なればすぐに成果を出してくれます。

 

まずは、管理者やリーダーとのコミュニケーションで思考回路の共有化です。現場を動かす、ボトムアップのキモもこのあたりにあります。

「こんなに意見が出るとは思わなかった」という嬉しい誤算も起きます。経営者の想いが管理者やリーダーを通じて、作業者に浸透している証左です。

 

・成長する現場は、こんな問題点があるのでなんとか解決したいと考える。

・停滞する現場は、こんな問題点があるからやってられないと考える。

管理者やリーダーとのコミュニケーションを見直して、思考回路の共有を図りませんか?