「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第166話 納期遵守以外の論点

目標売上高や目標利益で経営者の想いが伝わっていますか?

 

「先生、現場の作業者に達成感を感じてもらうにはビジュアルがいいですね!」

生産性向上活動を実践モードに切り替えた機械部品メーカー経営幹部の言葉です。先月から準備に着手、いよいよ今月から、現場で展開し始めました。

 

その経営幹部は、現場、ひとりひとりの自主性を促して、生産性を高めたいと考えています。毎年、目標に掲げているのは売上高と経常利益。部門ごとのアクションプランも明らかにしています。

そうした仕組みを持っていますが、ここ数年、収益は水面下に沈みがちです。従来の仕事のやり方を続けていても儲からないと考えて、個別相談をいただきました。

 

現場の状況を確認する中で、気が付いたことがあります。生産活動の判断基準が”納期”のみだった、ということです。

ただ、これは、この企業特有というわけではありません。たまたま気が付かないでいる多くの現場に共通する問題です。

 

納期遵守の重要性は、今も、これからも不変ではあります。しかし、競合から一歩抜きん出て、豊かな成長路線を歩みたいと考えるなら、納期のみを判断基準とした生産活動から卒業したいのです。

この現場も同じでした。経営者層から、経営目標やアクションプランが提示されているものの、生産現場の判断基準は納期しかなかったのです。生産性向上とは納期遵守以外の論点に気づくことでもあります。

 

そこで、日々、現場で積み上げている製品の儲けに焦点を当てることにしました。

いわゆる、固定費vs付加価値額です。

生産活動と親和性が高く、儲けを図表に表しやすくなります。こうした儲けの見える化で、現場の達成感も実感できます。

 

図表を活用すると、直感的な理解が促され、その情報が浸透しやすくなるのは明らかです。経営者の願望は儲けの積み上げスピードUPに他なりません。これが生産性向上です。

 

先の経営幹部は、付加価値額による儲けの見える化で経営者の想いを現場に浸透させられそうだと感じています。経営者層と現場に存在していた見えない溝のようなものの原因がわかって、腹落ちしたのか、次の言葉もありました。

「これまで、上と下をつなぐ共通用語がありませんでした。」納期遵守以外の重要な論点を見つけたようです。

 

 

 

 

 

プレゼンテーションで重要なのは最初の7秒と30秒。

聞く人は最初の7秒で第一印象を感じ取り、話が始まってから30秒で「この人の話はオモシロイのだろうか?」と判断するそうです。

つまり、しくじるプレゼンターは7秒ですべってしまう・・・。

7秒間で聞き手の心を鷲づかみにして、30秒以内にもっと聞きたいと思わせるテーマを展開することが魅力的なプレゼンテーションのキモとなります。

話の入りで聞き手の興味を引くことが肝要と言うことです。ですから、「まずは私の自己紹介から・・・」というお決まりやり方ではウケないということに気が付きます。

これはもうかる工場経営でも同じです。

 

 

 

 

 

工場経営の本質は経営者の想いを他人を通じて実現させることにあります。大手から中小へ転職し、中途の管理者として現場を導かなければならなかった伊藤にはこれしかありませんでした。

儲けを具現化するのは現場です。現場の主役はリーダーや作業者ひとりひとりなので、経営者の想いを伝えたいのなら、対象者の興味を引かなければなりません。

 

モノづくりで商売をしている私達が市場と向き合う際、何を考えるでしょうか?考えることはただ一つ、顧客に選ばれること。つまり顧客の興味を引くことです。顧客を動かさなければ話になりません。

それと全く同じでした。

中途入社の管理者として赤字から黒字へ転換させる戦略を練りましたが、戦術の実践は現場です。現場の興味を引き、動かさなければ、結局、戦略も絵にかいた餅、机上の空論、砂上の楼閣に終わります。納期遵守以外の論点を理解してもらえない恐れがあったのです。

 

振れば現場が動いてくれる「打ち出の小づち」があれば助かります。が、そんな便利なモノはどこにも売っていはいません。呻吟しながら、問題を乗り越えるしかありませんでした。

 

一方的な、上から目線の意思伝達にたよっていても、現場は全く動きません。

リーダーや作業者ひとりひとりの興味を引くこと、それもグダグダ説明しなければ伝わらないようなことは、そもそも理解されないので、感覚的に理解できること。伝わる言葉、キラーメッセージを届けること。

 

こうした観点で想いを伝えなければ、浸透しないと痛感したのです。想いを浸透させるために、経営者は一流のプレゼンターでなければなりません。経営者の想いを現場へ伝わるように翻訳し、それを感覚的に理解させる観点が欠かせないのです。

 

現場は、売上高や利益に無関心というわけではないのですが、日々の生産活動で実感できるのは、ひとつひとつの製品という現物と時間軸。納期遵守以外の重要な論点をこれらで気づかせる必要があります。

したがって、売上高や利益では響きにくいのです。そうすると、成果を固定費VS付加価値額で考えたくなります。これは伊藤の中小現場の管理者時代に至った結論です。

詳しい説明は省きますが、納期遵守以外の重要な論点、つまり生産性向上を理解させるには、直接原価計算の考え方の方がしっくりくるという話につながります。

 

会計に詳しい方はご存じですが、損益計算書のベースとなるのは全部原価計算であり、それとは”ちょっぴり”違うということです。

全部原価計算がダメということではなく、リーダーや作業者ひとりひとりの興味を引こうと考えたら、直接原価計算の考え方の方がしっくりきたということで、これは道具選びにほかなりません。

”7秒間で現場の心を鷲づかみにして、30秒以内にもっと聞きたいと思わせるテーマを展開する”道具として、固定費VS付加価値額が製造現場には適しているようだということです。

 

 

 

 

 

伊藤の専門はIEや生産管理、品質管理などでモノづくりの”流れ”を作り上げることであり、生産性向上で儲かる体質に変えることです。これは大手メーカーで徹底的に鍛えられたスキルです。

ただし、こうしたスキルだけをたよりに、中小現場の生産性向上活動を展開しようとするとヤケドをします。実際、伊藤は中小現場の管理者時代にヤケドをしました。

 

工程設計してリードタイムを・・・、品質造りこみ体制で未然防止策を・・・等々という専門スキルを中小現場へ導入するには、お膳立て必要なのです。

想いを届けるキラーメッセージや指標について、事前に考え抜かなければなりません。現場のやる気を引き出す有能性に直結する論点であり、絶対に外せないのです。

これを省くと活動は路頭に迷います。

 

 

 

 

 

先の現場では、付加価値額の考え方を新たに導入し、上と下をつなぐ共通用語を見つけ、それをビジュアルに示しながら経営者の想いを浸透させようとしています。

そうして、現納期遵守以外の重要な論点を共有し、生産性向上活動を現場に定着させるのです。「納期遵守以外にもやらなければならないことがあるのだっ~」と現場へ訴えます。

まさに、7秒間で現場の心を鷲づかみにして、30秒以内にもっと聞きたいと思わせるテーマの模索に踏み出しました。このように、生産性向上活動をやり切るには段階を踏む必要があります。

これから、しばらくは試行錯誤も避けられませんが、経営幹部、現場と一緒に最適解を見つけていく予定です。

 

納期遵守以外の重要な論点が売上高や利益で伝わっているなら問題ありません。その活動を継続させて下さい。

ただ、そこに疑問を感じるなら、リーダーや作業者ひとりひとりの興味を引くための道具選びからです。

経営者の願望は儲けの積み上げスピードUPに他なりません。生産性向上活動とは経営者の願望を実現させる手段でもあります。納期遵守のみの思考回路からは生まれてこない利益拡大の手段です。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、現物と時間軸を通じて経営者の願望を理解する。

・停滞する現場は、経営者の願望を聞いても疑問が浮かぶだけ。

リーダーや作業者ひとりひとりの興味を引くための道具選びをしませんか?