「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第167話 作業完了時刻

小日程計画を活用していますか?

 

「先生、やっぱり、数字で示したからではないでしょうか?」

100人規模、電子部品メーカー組み立て工程GLの言葉です。

 

その企業の経営者はリードタイムに問題があると考えています。リードタイムを短縮し、製品の手離れを良くしなければならないと・・・。現場で滞留している仕掛品が目に付くからです。

仕掛品を含めた3大在庫の増減を把握できてはいます。しかし、それらを圧縮するまでには至っていません。

見える化はできているが、コントロールはできていないと言うわけです。生産性を高める具体策の個別相談をいただき、現場での実務に着手しました。

 

まずは小さなPDCAを回します。初めて現場活動をやるとき、「小さなPDCA」の観点は欠かせません。

その現場でも、ある機種に絞って、取り組みを小さく始めました。目標はリードタイムを短縮と付加価値額人時生産性の向上です。

 

現状と標準を整理してから目標を立てました。そして、(ここからが大切なのですが)リードタイムを短縮する具体策の導入の検討です。課長、GL、主任が知恵を絞って考えました。

その中のひとつが小日程計画をホワイトボードで示すことでした。それまで、納期のみで動いていた現場へ、各工程の着手と完了の日時を提示すことにしたのです。

 

その結果・・・・、現状の平均所要工数36人時に対して、29人時、20%の工数削減となりました。調べてみると過去最小工数です。

小日程計画の導入だけではなく、いろいろ手を打った結果でした。

 

その中でも最も効果があったのは何だと思いますか?とGLに尋ねた際、返ってきたのが冒頭の言葉です。

数値で現場を動かす重要性を理解した上司チームは、ホワイトボードでの表記の仕方に腐心していました。試行錯誤の成果でもあります。

 

 

 

 

 

日程計画は生産管理、工程管理体系のひとつです。

大日程計画、中日程計画、小日程計画。3つありますが、中小製造現場で活用すべきは小日程計画であると考えています。なぜか?

中小の現場で、当初計画がその通りに実行されることはほとんどなく、突発、特急の案件がしばしばだからです。皆さんの現場でも、生産性計画を変更、調整することが日常茶飯事ではないでしょうか。

 

ですから、突発、特急の案件が届いたとき、何を、どのように変更するか、判断できるようにしておかなければなりません。今、誰が、何をやっているのかの見える化が必要です。

小日程計画は、チームで的確な変更、調整をするのに欠かせません。これがないと、人に仕事がつき、特定の人に負荷が集中します。伊藤が多くの中小現場で目にする業務属人化問題です。現場にストレスや不満が蓄積します。

小日程計画の使いこなしには製販一体や工程間連携、シフト間連携が必要です。その意味で、小日程計画はチーム力を鍛える道具にもなります。チームで仕事をしたいのです。

 

 

 

 

 

先の現場でも、今回の取り組みを機会に、小日程計画を現場へ導入することにしました。従来まで、各工程の日程を組み立てていたのは作業者です。

管理者が発行した作業指示書に記載されている納期に合わせて、作業者が、自分が担当する工程の工数を、”ぼんやりと”算出していました。

 

ただし、このやり方で、生産性が高まることはありません。生産性を高めるには、従来対比で工数を減らす、あるいはリードタイムを短縮する”行動”が必要になってきます。偶然にそうなるものではありません。

つまり、そうしたいという”意思”が現場になければ高まらないのが生産性です。先のGLは、今回の取り組みで、そうした”意思”を現場に持ってもらいたいと考えました。

 

すると、上司チームがやらなければならないことも出てきます。そうです、各工程所要時間の把握です。当然のことですが、これを知らなければ、小日程計画表で現場へ指示を出せません。小日程計画では、各工程の着手時刻と完了時刻を表示する必要があるからです。

 

付加価値額をより一層積み上げようと、ある工程の工数削減20%を考えたとします。従来工数が5人時であったとすると、4人時が目標です。

したがって、(例えばひとり作業なら)表示する計画は、着手時刻7時、完了時刻11時となります。

 

つまり、対象工程の「工数」を把握していないと、的確な小日程計画を表示できず、生産性向上活動もあいまいに成らざるを得ません。生産性向上活動が頓挫する原因には、そもそも現状工数把握ができていないということがあげられます。

皆さんの現場ではどうでしょうか?

 

 

 

 

 

工程A+工程B+工程Cの全体工数とともに、工程A、工程B、工程C、個別の工数把握も欠かせないということです。

このあたりを現場へ丸投げしていると、上司チームは工程ごとの作業完了時刻を提示できません。提示しても大雑把な数値となります。皆さんの現場での作業指示では、作業完了時刻も明らかにされているでしょうか?

 

生産性向上活動は科学的、論理的です。生産性を高めたければ、まずは工数の把握であり、具体的には作業完了時刻の提示となります。仮説と検証です。

現場が持っているのは時間軸ですから、それに沿った目標値の提示が最も響きます。時刻という具体的な数値で、意思を現場へ伝えます。

 

 

 

 

 

具体的な数値で目標を示す重要性は今さら言うまでもありません。目標を数値で示してこそ、現場は仕事のやり方に工夫を入れてみたくなるものです。

ただ「早くやるように、がんばれ!」では、現場も”ふ~ん”という程度に留まるでしょう。現場をその気にさせるのには、具体的な数値で目標を示すことが必要です。

 

また、目標を具体的に数値で示す意義は、管理者側にもあります。ビフォーとアフターが明確です。フォローと評価ができます。

つまり、「具体的に」褒めることが可能です。「具体的に」褒めるというのは、やる気を引き出す重要な論点であるのは、お分かりでしょう。

 

経営コンサルタントの第一人者、一倉定氏は、目標設定の効力を次のように語っています。

人間というものは、目標があると、それに向かって努力をするという不思議な動物である。(中略)社員を動機づけているものは、社長自らの決意と責任から生まれる会社の未来像であり、その中に示された目標なのである。

一倉氏は、目標がなければ社員の動機づけられないと喝破しています。

 

 

 

 

 

先の現場では、初めての試みでしたが、各工程の着手時刻と完了時刻を提示することで、現場の頑張りを促せました。

目標を数値で見せただけで、20%の工数削減につながったのです。こうしたした人間の”不思議さ”を、儲かる工場経営に生かさない手はありません。

それには、管理者も学び、工程毎の所要工数を把握する必要があります。現場を掌握するための眼目はこうした地道な仕事です

 

工数把握をせず、仕事は流れに任せっきりで、小日程計画を生かす意思も全くない経営者は、届いた注文を、ただ、来た順にこなせばいいと考えます。

先入れ先出し体制が構築できているならば、意思ある言葉となりますが、工数把握もせずに、ただ来た順にやればいいというのでは、経営者の仕事を放棄したことと同じです。

 

なぜなら、付加価値額人時生産性を高める活動を放棄したことに他ならないからです。現場へ仕事を丸投げ、現場の混乱は不可避です。

工数把握の観点を持たず、小日程計画の重要性も理解しようとせず、従来通り、注文が届いて、それをこなすだけでいいと考えているようでは、生き残れません。

 

 

 

 

 

人間は不思議な動物なのです。現場は経営者が示した数値目標に向かって努力します。

「大きな」数値目標の代表は経営計画となりますが、まずは「小さな」数値目標から。生産性向上活動では、まず、工数把握です。作業完了時刻を提示することからです。

 

多くの経営者が生産性を高める活動に挑戦されています。

貴社の取り組みは順調ですか?

 

ホワイトボードへ作業完了時刻を示すやり方にこだわりを持って下さい。現場目線を忘れなければ定着します。生産性向上に生き残りをかけた経営者のこだわりです。

終わりよければすべてよし。

 

・成長する現場は、小日程計画で作業完了時刻を表示し生産性を高める

・停滞する現場は、届いた受注を来た順にこなすだけでいつも混乱している

小日程計画を現場へ導入しませんか?