「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第169話 議事録文化

「先生、こんな様式でやってみようと思います。」

現場キーパーソンと定期的なミーティングをやろうと決めた生産ライン課長の言葉です。

 

経営者から全社生産性を20%アップさせたいとの経営方針が出されました。その現場でも具体策を立案したところです。商品別儲けの見える化で目標値を明らかにしました。

いよいよ今月から現場での実践です。課長の頭にはやりたいことがいろいろと浮かびました。

 

現場活動をこれから本格化させますが、平行してやらなければならないことがあります。

そうです、ベクトル合せです。部下に自分の考え方を伝え、現場を主導するリーダー達のベクトルを揃えることです。

焦って、ここを抜きに、力ずくでプロジェクトを進めても、頓挫します。

 

生産性を高めるために、知恵を絞って仕事のやり方を変えよう!と考えることが”普通”の現場なら、生産活動以外の活動も”普通”に行われます。

しかし、そうでない現場にとって、生産活動以外の活動は、”やっても意味の無い余計な仕事”です。

 

なぜなら、納期に合わせて仕事をこなせば問題ないだろうと考える現場は、プラスアルファの活動を余分な仕事と考えます。

そもそも、”余分な仕事”をやる必然性を感じていません。

 

これは、その現場がイイとかワルイとかいうのではなく、現場に根付いた思考回路に基づいた言動ですからどうしようもないのです。

あえて言うなら、そうした思考回路を根付かせたことがワルイわけです。

 

したがって、生産活動以外の現場活動を定着させるには、その思考回路を少しずつでも変えるところからです。

なぜ、それをするのか、現場キーパーソンに活動の狙いや目的を理解させなければなりません。「何をやるのか」の前に必要なのは、「なぜそれをやるのか」です。

 

繰り返し、繰り返し、しつこく、しつこく語ります。ここに王道はありません。現場キーパンソンとの密なコミュニケーションです。「一体化」の王道です。

部下に自分の考え方を伝え、現場を主導するリーダー達のベクトルを揃えるためにやること・・・。

定期的なミーティングです。立ち話や声掛けだけではなく、膝を詰め、顔と顔を突き合せる打ち合わせの場です。

 

ミーティングは定期的に開催してこそ意味があると先の課長へ伝えました。考え方を変え、共通用語を持ちたいので、継続性が問われます。

時間を味方にして、思考回路を変えるためです。言うは易く行うは難しですが、先の課長には強い想いがありました。

 

そして、さらに留意すべきことがあります。集まって議論した後です。「議事録」です。

 

慌ただしい現場だからこそ、議事録で情報を共有することが効果的ですと伝えました。あれもこれもいりませんよ、「明日」に焦点を当てれば十分ですよとポイントも示しました。

なるほど、ということで、早速、課長は議事録の様式を決めて、次週から始める定期的なミーティングで活用しようとしています。

 

 

 

 

 

伊藤は25年にわたり、大手と中小、両方の現場に身を置いて仕事をしてきました。

それぞれの強いところ、弱いところを比べてきた経験があり、中小で強化したいと考える複数の論点があります。

 

そのひとつが”議事録”です。

中小の現場では、打ち合わせ結果をその場で整理し、”議事録”にすることが少ないと感じています。これは管理者として勤務していた現場でもそうでしたが、ご指導先の多くの現場でもそうです。現場で議事録を活用することはまれ。

ここは中小の強みでもあり、弱みとなっています。

 

中小現場の規模では、声を掛ければ、直ぐに声が届き、人を集めることが可能です。議事録にするまでもなく、決まったことは早速やるから問題ナシ!という機動力の高さの反映でもありますが・・・。

その一方で、すったもんだの原因になっている現状もあります。

・記憶違いによる混乱

・言った、言わないの不毛なやりとり

・結局、誰がいつまでにやるのか不明

こうしたことが、現場で起きていませんか?

 

現場へ投入する固定費で評価したマンレートを5千円/人時と仮定します。(この数値、大きいと感じるかもしれません。固定費分を現場へ投入すると考えたとき水準です。)

作業者4人が集まって1時間ミーティングをやったとします。ミーティングにかけたコストは、5千円/人時×4人×1時間=2万円です。

いろいろな意見が出たのに、決めたことを、結局、誰もやらずじまい・・・・。せっかく建設的な意見が出たのに、2万円をドブに捨てるようなものでもったいことです。

 

「集まって議論したら、結論を導き実行することを明らかにして、担当者と納期を決める。」これが、自主性が求められる現場活動に欠かせない議論をするスキルであり、次回の議論につなげる役割を担っているのが議事録です。

議事録を機能させ、決定事項をひとつひとつ、地道に、確実にこなしていかなければ、議論した効果を現場へ波及させられません。

 

 

 

 

 

議論のしっぱなし、決定事項の放置を、もはや、見過ごせないのです。同じ問題を繰り返す余裕は、もう、ありません。それまで通用していた、あうんの呼吸が、もはや通用しなくなってきました。

モノづくりも高度化、複雑化しています。スピードを早くなってきました。多品種少量化です。これまでの、声を掛け合う仕事のやり方だけでは追いつかなくなってきています。

そもそも、人の記憶はかなりいいかげんです。1日経過すると半分以上は忘れられると言われています。

 

そこで、中小の現場でも、現場の思考回路へ議事録文化を定着させ、強みである機動力を強化したいのです。現場で議論をしたら、”普通に”議事録残して、経営者や上司へ報告、さらに決定事項進捗のチェックに活かしたいのです。

現場のホワイトボードに、さりげなく議事録が掲示され、進捗状況が手書きで記入されるようになれば、すったもんだは減り、生産性も高まります。

 

業務効率化では、各種システムをはじめ、RPAなどITを活用する手法がありますが、アナログでもなんでも、大手を見習い、仕組みとして取り入れたいことが、まだまだあります。

中小だからやらなくてもいいという考えから、会社の規模にかかわらず、いいモノは取り入れると考えていただきたい。

 

中小の現場でも定着させたいのが議事録文化。

大手と中小の現場を比べて感じることです。

 

 

 

ただし、闇雲に”議事録文化”を定着させようとしても失敗します。

議事録文化の前提として、議論のスキルが求められます。さらに、付加価値額人時生産性を高めて、皆で豊かに成長しよう!という目標が共有されていなければなりません。

つまり議事録文化は、共通の目標が掲げられ、一丸となって達成しようという動機付けがなければ、意味を持ちません。

 

こうした仕組みがあってこその議事録文化であることにも留意して下さい。仕組みがあれ、議論のスキルや議事録文化は訓練次第で確実に質を高められます。現場でそうした事例を目にしてきました。

 

・成長する現場は、議事録で決定事項を地道にひとつひとつ確実にこなし問題を解決する。

・停滞する現場は、あうんの呼吸で決定事項が忘れられ問題が繰り返される。

議事録文化を定着させませんか?

次は貴社の番です!