「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第171話 現場の多様性を混乱の原因とさせないためには?

 

「先生、それなら、最高実績を掲示するようにしたらイイですよね。」

80人規模企業、制御系部品製造ライン主任の言葉です。

 

生産性とリードタイムを指標に掲げて現場活動に着手し、数ヶ月が過ぎました。改善項目進捗リストを中心にしたPDCAが回り始めています。仕組み化の一歩目です。

 

・まずは、納期遵守以外の論点を現場と管理者が共有する。

・そして、問題点を見つけ、課題へ変換し、担当者と納期を決めて、改善に取り組む。

 

仕組み化の目的は、誰でもできるムリのない仕事の流れをつくることです。

その現場の主任は、PDCAを小さく回して、仕組み化の目的を体感できました。「習うより、慣れろ」は現場活動のための教えでもあります。

 

現場活動では、作業者から上がってきたアイデアを大切にすることが重要です。

現場に掲示されている改善項目進捗リストには、作業者が出したアイデアの実施計画が(簡単ながらも)記述されています。

 

作業者から出された知恵が「仕事」として「登録」されたわけです。

自分が提案したアイデアを上司は大切にしてくれている、本気で実現させようと一緒にやってくれている・・・。有能性はやる気を引き出す3要素のひとつです。

 

成果の見える化は、やる気を引き出す具体策のひとつとなります。

改善活動通じて、生産性やリードタイムがどう改善しているのか、進捗を見える化しよう・・・。現場管理者の打ち合わせで、そうした意見が出されました。

 

実績を加重平均し、過去実績と比べられるようにします。これは普通にやられる方法です。掲示される数値はジワジワと目標に近づきます。

生産ロットによっては、過去実績を下回ることもあるので、一気に目標クリアとはなりません。そこで、先の主任は、もっと、”強力に”現場へ働きかけたいと考えました。作業者のやる気を、もっと、もっと、”強力に”引き引き出したいと考えたのです。

 

それなら、最高実績に注目しよう。最高実績を示せば、現場へ「あの水準までできたのだから!」と積極的な働きかけができるはずだ・・・。

それが、冒頭の主任の言葉です。

そして、先のライン主任が、”強力に”現場へ働きかけたいと考えたのには理由があります。

 

 

 

 

 

先のライン主任は、現場との対話を欠かしません。積極的な意思疎通を実践しています。それでもなお、”強力に”、現場へ働きかけたいと考えたのです。

それはなぜか・・・・。

 

現場に配置されている作業者の立場がいろいろだからです。

8時間勤務の正社員、8時間勤務のパート、5時間勤務のパート、アルバイト、外国人実習生、採用したばかりのパート、アルバイト・・・。

 

上司としては、立場の違いがあっても、作業者ひとりひとりがそれぞれの役割を100%の力でやり切ってもらいたいと考えます。

ですから、「私はパートだから」とか「私はアルバイトだから」という思考回路を除去しなければなりません。

 

生産性を高め、リードタイムを短縮するには、ひとりひとりの頑張りも重要ですが、作業者同士の連携がカギになるからです。

立場がいろいろでも、連携力、チーム力が問われます。多様性を前提とした一体化です。

 

 

 

 

 

正社員だけで構成される製造現場が、今後、少なくなることは明らかです。国籍も多様化するでしょう。少子化高齢化、世界でも”最先端”の人口減少社会になりつつある国内で、製造現場を構成する作業者の多様性は広がる一方です。

多様性が広がっても、チームの一体化は強力に進めなければなりません。効果的な作業者ひとりひとりへのはたらきかけや対話が重要な役割を果たします。

 

だからこそ、先の主任は、より積極的に働きかける手段を得ようと、「最高実績」に注目しました。作業者の立場を超えて、心に響きやすいと考えたわけです。

「あなたには・・・」と励まされると特別感を感じるものです。「前、やれたじゃないですか!」と個別に促されたら頑張りたくもなります。

パートであっても、アルバイトであっても、縁があって一員となった職場です。お金のためという気持ちと同じくらい、せっかく働くなら、所属する職場で力一杯働きたいとも考える作業者は少なくありません。マズローの欲求5段階説を出すまでもないでしょう。

 

 

 

 

 

多様性を前提とした一体化で求められるのは、首尾一貫した対話です。仕組みがあって、初めて、それは成立します。仕組みを前提とした対話でないとダメです。

思いつきや一貫性に欠けた問いかけや働きかけは、現場を失望させるだけです。現場への働きかけが上手くいかないとしたら、原因はここにあります。

先の現場では「改善項目進捗リスト」が掲げられていたことを思い浮かべて下さい。こうした仕組みがあるから、多様性に対応した対話も可能となるのです。客観的で伝わりやすく、目的を共有した対話ができます。

 

多様性に対応したければ、仕組みに基づいた対話です。仕組みとは仕事のやり方であり、その企業の思考回路です。仕事のやり方について対話を重ねれば、思考回路が共有されます。

ベクトルがそろった現場は、一糸乱れぬオールさばきを見せてくれているボートのようなものです。上司が一声かければ、方向転換も容易です。

また、ベクトルが揃った後の多様性は、有益な化学反応を引き起こしてくれるかもしれません。異質なもの同士の接触で生まれる新たな価値です。異質なモノを大切にする雰囲気も醸成されます。

 

作業者をその気にさせる仕掛けづくりに関心を持たず、ただ従来の仕事のやり方をしている経営者にとって、多様性は、リスクを高める要因でしかありません。

仕組みも対話もなく、ベクトルを揃える機会も乏しく、所属期間が長い人というだけで、その人が幅を効かせているような職場では、多様性が活かされることはないでしょう。異質な考えは混乱の原因だとの思考回路しかないからです。

 

そうした現場の判断基準は、自分で考えたこと、自分の価値観です。日本人の従業員でさえ、そうなるわけですから、仕組みも対話もない現場に、外国人が加わるとどうなるか?言うまでもないでしょう。

したがって、新たな力が活かされることがありません。可能性を秘めた新人の定着率も低迷します。生き残りをかけた中小現場にとって、これは致命的です。

 

多様性を活かすには、仕組みに基づいた対話が必要です。多様な価値観を持った現場のベクトルを揃えるのに王道はありません。仕組みに基づいた対話を地道に重ねるだけです。

 

 

 

 

 

以前、ご支援したことのある企業様で、60人程度の作業者のうち、80%以上が外国人というメーカーがありました。日本人の採用が難しいということで、経営者は、あえて、積極的に外国人を採用しています。

島国で同質性が高い日本で通じる「あうんの呼吸」が成立しません。言葉なしには、上司の意思は絶対に伝わりません。

 

こうした現場であっても生産性を高めることができました。

工場長が現場へ積極的に働きかけていたからです。

 

その工場長は、作業者の”業務評価”を通じて現場を掌握していました。掌握し、働きかけて、ベクトルを揃えたのです。

適切な”業務評価”のためには、仕事についての対話が欠かせません。

 

”業務評価”という仕組みに沿った対話を通じて、その工場長は、多様な価値観を持った現場のベクトルを揃えたのです。

その工場長は、定期的な個別面談もやっていました。

 

避けられない外部環境の変化によって、立場の異なる作業者が増え、現場の多様性が広がると予想されます。多様性を混乱の原因とせず、有益な化学反応のきっかけとしたいです。

カギは個別のはたらきかけ、対話です。それも仕組みを通じた対話です。仕組みがなければ、対話も雑談、あるいはつぶやきにしか聞こえません。

 

次は貴社の番です!

仕組みを通じた対話を重ねて多様性を活かして下さい。

 

・成長する現場は、仕組みを通じた対話で、多様性を有益な化学反応のきっかけとする。

・停滞する現場は、多様性を混乱のもとであるとしか考えられない。

多様性を活かす仕組みづくりをしませんか?