「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第187話 仲間に関心を寄せる現場
「先生、実績のフィードバックでばらつきを小さくできそうです。」
組み立て系製造ラインの現場リーダーの言葉です。
生産性を高める目的で「工数削減活動」を現場の作業者へ働きかけようとしたときのことです。現場リーダーはあることが気になりました。
それは、「工数削減イコール、作業が辛くなる」というイメージだけは持たせたくないということです。そうした相談を受け、工数削減の前に、注目したいことがあるとアドバイスしました。
それがバラツキです。技能の個人差です。
労働集約的な組み立て作業が主となる職場の多くで当てはまります。工数を削減して生産性を高めようとするなら、まずはバラツキに注目です。
管理幅は上限と下限で定義されますが、平均値を上げるために、上限を引き上げるのではなく、その前に、下限を上限へ近づけるというイメージです。
技能の上限はそのままで、まずは、技能の上限に仕事のやり方を学び、技能のバラツキを最小化することで、平均所要工数を小さくします。
「工数を削減せよ!」よりも「まずは、バラツキをなくそう!」と伝えられた方が現場も受け入れやすいでしょう。
そこで、各工程で下限を引き上げることに挑戦してもらうのです。チームでの取り組みとなります。
先の現場では所要工数実績を見える化しました。それを見れば、各作業者は自分の実績がチームへ貢献しているのか、あるいは足を引っ張っているのかがわかります。
チームとして、平均を上げにはどうするべきかを考えるきっかけとなりました。チームで取り組んだ仕事の成果を語ったのが冒頭の言葉です。
儲かる工場経営の3つの改革、現場改革、意識改革、構造改革の成果は儲けの人時生産性で計測します。経営者が手にしたいのは儲かる”体質”ですから当然のことです。
全社の付加価値額人時生産性を高めることが生き残りのカギであり、あらゆる現場活動の成果はここに集約されます。
具体的には、工程間の連携を強化しながら、仕事の手離れを良くすること、つまりリードタイム短縮が現場のテーマです。
そして、それを現場活動へ落とし込むとき、着手すべきは製品別所要工数の削減です。リードタイム短縮と生産性向上の構造を理解していれば、そうした考え方へ至ります。
そうしたこと理解している先の現場リーダーは主要製品の所要工数削減活動に着手をしました。そのとき、現場へ伝えたのは、「各工程で最も上手に仕事を進める仲間の仕事のやり方を学んで、バラツキをなくそう」ということでした。
その現場には4つのチームがあり、その現場リーダーはチーム主体で一体感を持ちながら成果を出したいと考えたのです。
そこで、受注オーダーごとの所要工数実績を各チームへフィードバックする仕組みを作りました。テストを受ければ気になるのは採点です。
そして、成績上位の人をさらに伸ばすのではなく、成績が振るわない人にひと踏ん張りしてもらいます。成績上位者が放課後に、成績が今一つの仲間に勉強を教えるような、そんな雰囲気です。
生産性向上活動も最終的には現場のスキルアップ活動に至ります。そして、スキルアップの原動力が主体性にあるとするなら、現場のやる気を引き出す環境づくりも重要です。
先回のコラムで、導く人と学ぶ人との間で生まれる、学ぶ絶好の機会を生かす状況を表す言葉、啐啄同時(そったくどうじ)を取り上げました。
これはスキルアップに必要な環境のひとつです。師匠と弟子との関係に言及しています。ここでもうひとつ考えたいことがあります。それは自分と仲間との関係です。
「鏡映自己」という概念があります。他者という鏡を通じて自分を知る、つまり、人からどう見られているかで自己のイメージがつくられるという考え方です。
技能の水準にバラツキがある現場を想定します。スキル水準が低い作業者は、ばらつきの幅を狭くできれば、チームの生産性を高めることに貢献できると考えるでしょう。
目標が明らかになれば頑張ろうとするのが現場です。誰でも評価されれば気になるものです。スキル水準が低い作業者はは試行錯誤しながら挑戦してスキルを高めようと奮闘します。そして周りも、支援して、成果を出してもらおうと励ますことでしょう。
その結果、成果が出れば、その作業者は「頑張った成果だ!やればできるね!その調子!」という評価を受けることになります。他者という鏡を通じて、自分もやればできるではないかとの気持ちになるのです。
それはさらなるスキルアップへの欲求につながります。承認欲求はだれでもが持つ欲求です。スキルアップを促す原動力として、現場のひとりひとりが仲間のことに関心を寄せることが大切だということです。
人に教わりたくない、自分がやれればいいだろ言うという考え方は「我、関知せず」という相互作用に欠ける発想しか生まれません。良い影響を及ぼしあうことを期待しても無理であることは火を見るよりもあきらか。
ですから、経営者は、「スキルを高めたい」という考えたくなる環境を整備する必要があるのです。仲間のことに関心を持てる、持ちたくなる、そんなチームづくりです。スキルアップは一人でやるものではなく、チームで果たすものであることを考えれば当然のことなのかもしれません。
先の組み立て系製造ラインでは現場リーダーが作業者への声掛けを頻繁にやっています。仕事上でのやり取りは当然のこと、いわゆる非公式のコミュニケーションも大切にしています。
気にかけられて嫌になる人はいないわけで、そうした現場リーダーの姿勢を反映させた雰囲気が現場にはあります。仲間のことに関心を寄せるチームということです。
「鏡面自己」を通じて、実績のフィードバックが上手く機能し、スキルアップに貢献しています。仲間のことに関心を寄せるチームでは、実績のフィードバックが所要工数のバラツキを小さくするのです。
次は貴社の番です!
・成長する現場は、仲間のことに関心を寄せながらスキルを高めバラツキをなくす。
・停滞する現場は、自分ができればいいとしか考えないのでバラツキを気にしない。