「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第188話 付加価値額、つまり「儲け」とは?

「製品の儲けってそういう意味だったんですね。」

付加価値額の意味を理解した、ある素材加工企業、幹部の言葉です。

 

中小製造企業の生き残りのカギは付加価値額人時生産性を高めることにあります。したがって、全ての現場活動はここへ狙いを定めなければなりません。儲けるために現場活動を展開するわけですから当然のことです。

・付加価値額を積み上げるにはどうする?

・それも効率良く積み上げるにはどうする?

儲かる工場では経営者も現場も、製販一体となって、このことを考え続けます。こうした思考回路を共有できているのが「儲かる体質」の企業というわけです。

 

したがって、積み上げる対象を理解しておく必要があります。それが付加価値額です。売上高でもなければ、利益でもありません。

 

売上高を増やし、利益を獲得することが経営者の仕事である以上、売上高や利益は重要です。先の幹部も、これまで「儲け」=「利益」と考えていました。

間違っていませんが、売上高や利益で現場活動の成果を計測するのは難しいのです。そこで、新たに「儲け」という考え方を導入してはどうでしょうか?ということになりました。

それが付加価値額です。

 

現場活動の成果は付加価値額、つまり「儲け」で計測したいのです。生産活動と密接な関係がある数値でもあります。

「経営者が投入した経営資源を回収する原資である」、この考え方を加えることで、先の幹部の理解が深まったようです。

 

 

 

 

 

小売りの現場で「粗利は3割なければ・・・・」と言うのと同様に、製造現場でも利益確保の考え方をしっかり持ちたいものです。

 ① 売上高  -費用 =利益

 ② 付加価値額-固定費=利益

どちらも利益を定義した重要な式ですが、製造現場では②で考えます。詳細はセミナーやご指導のなかでお伝えしていますが、利益を確保するやり方が見えるからです。

 

製造現場では先行投資されているものがたくさんあります。

技術や製品・商品を磨き上げるための開発費、自動化や性能upのための設備投資などなど。それと・・・・、忘れてならないのは人件費です。

給料には昇給分も含みます。人件費というのは、成果への報酬という位置づけよりも、どちらかと言えば、経営者が従業員達の今後の活躍に期待をかけた投資ではないでしょうか?

 

固定費とは経営者の将来投資であり、それを付加価値額で回収し、それを上回った分が利益として確保される・・・。したがって、利益を確保するには、固定費vs付加価値額という考え方に至ります。

 

①では、日々、売上高も費用も変動しますが、②では、固定費は文字通り固定です。現場の仕事は経営者の将来投資である固定費を目指して、毎月、付加価値額を積み上げることであると分かります。

 

上司は「給料分は働け!」と部下に喝を入ることがありますが、それというのは、まさにこの固定費分くらいは回収せよということに他ならないでしょう。ある意味、言い得て妙です。

付加価値額は経営者が投入した経営資源を回収する原資であると考えれば、製造現場で利益を確保するためにやらなければならないことが見えてきます。例えば、損益分岐点やリードタイムという考え方もしっくりくるのではないでしょうか?

 

 

 

 

 

限界利益、粗利、スループット。

これらも付加価値額と同じような概念の数値です。実際、ご指導をしている経営者の方々には「粗利」という表現を使っている方もいますし、スループットがいいという方もいます。

実務的には厳密性を問いません。我々は現場で有益な数値を使いこなせればいいわけです。

 

そこで、これらを「儲け」と定義したいと思います。

「儲け」が固定費を回収する原動力であるなら、経営者と従業員の興味が一致するひとつの考え方が生まれることに気づくのではないでしょうか?

経営者が願う「利益UP」と従業員が望む「給料UP」の両方を実現させるのが「儲け」であるということです。付加価値額をどんどん積み上げれば「利益UP」と「給料UP」を実現できます。

 

経営者は獲得できた「儲け」のうち、どれだけ人件費へ回すか、その割合をコントロールします。その比率が労働分配率であり、中小製造企業の労働分配率はおおよそ70%です。経営者は利益とともに従業員の給料を増やす機会も手にできます。

 

経営者も現場も製販一体となって取り組みたくなる対象がこの他にあるでしょうか?付加価値額で現場活動の成果を計測したいと考える根拠がここにあります。

現場のベクトルをそろえて一体化をするのに欠かせないのは共通の目標であり、付加価値額、すなわち「儲け」はその対象になり得るのです。

 

 

 

 

 

先の幹部も、しばしば例えとして取り上げる「金のダルマ」と「銅のダルマ」を製造・販売する会社の事例で付加価値額、つまり「儲け」への理解を深めました。

IEや5S、工程管理や品質管理など現場活動のスキルや手法はたくさんありますが、そもそも、利益を確保する考え方が曖昧な現場が多いように感じています。

 

安定した受注が約束されるならば、顧客から指定された納期にだけ焦点を当てて、現場も汗をかいていれば利益はついてくるでしょう。売上高の積み上げが結果として利益につながる感覚です。

しかし、こうした時代は過去のもの、おおむね90年代を最後にして、時代は変わったと考えなければなりません。

 

製造現場で儲ける仕事のやり方が変わりました。コスト削減の重要性は今も変わりませんが、それだけでは行き詰まります。削減の考え方とともに、付加価値額、つまり「儲け」を積み上げる考え方も求められるのです。

 

削減の時代から積み上げの時代へ、時代は変わりました。ですから生産性向上やリードタイム短縮に挑戦です。そうしないと、国全体の成長も危うくなります。

日本の名目GDPが1990年以降、伸び悩んでおり、500~550兆円のゾーンを行ったり来たりしている事実を知れば、納得するはずです。失われた20年、30年に歯止めをかけるには、「積み上げる」しかありません。

 

 

 

 

 

「納期遵守」は大切ですが、それは生き残る必要条件ですが、十分条件ではありません。「納期遵守」を超えた、「儲け」の積み上げ力が問われます。

 

豊かに成長をしたいのなら、生産計画では常に「詰めて」、「空ける」努力を絶やさないことです。固定費を回収する原動力は付加価値額、つまり「儲け」であることを知っていればそうなります。

 

したがって、「納期遵守」ができているから問題はないと思い込んでいる現場があったら、「儲け」について興味を持たせ、理解を促すことです。

現場活動は経営課題を解決するためのものであり、成果を付加価値額で計測する以上、付加価値額、つまり「儲け」とはどんなものか知る必要があります。

・会社に残るお金。

・社長の想いが込められた固定費を回収する原動力。

・給料の原資。

・経営者が願う「利益UP」と従業員が望む「給料UP」を実現させるもの。

これらを図示すれば、現場は興味を持ち、感覚的に付加価値額、つまり「儲け」のことを理解するのではないでしょうか?

 

儲けのイメージを共有し、経営者と現場が製販一体で次のことを考え続けた企業が生き残ります。

・付加価値額を積み上げるにはどうする?

・それも効率良く積み上げるにはどうする?

 

先の幹部の現場では製品別付加価値額人時生産性の見える化に着手をしました。儲けの本質を理解したので、人時生産性の重要性を現場へ教えているところです。

製品群別に儲けの人時生産性を整理して、現場活動の方向性を定めようとしています。

 

やみくもに現場活動に取り組むのと、儲かる原理原則を理解しながら現場活動に取り組むのとでは、どちらが望ましいかは言うまでもありません。

弊社では儲けの見える化でこの辺りの理解を深めてもらい、その後に現場活動へ移行するようご指導をしています。

成果物を理解しなければ活動に熱は入りません。中小製造現場の管理者時代に痛感したことのひとつです。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、「儲け」の本質を理解して、製販一体で人時生産性を高めようとする。

・停滞する現場は、納期遵守のみに満足し、儲けも理解せず、人時生産性に無頓着である。