「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第194話 持続的差別化の源泉を磨いていますか?

「先生、前後工程の連動を考えるレベルに、ようやくたどりつきました。」

電子機器メーカー幹部の言葉です。

その企業は、手離れの良い現場を目指して生産改革に着手しました。ただ、今まで、工程間の連動を意識したモノづくりはしてこなかったので、生産の流れが不明確です。

 

現場は部品製造工程と組立工程の2工程で構成されています。そして、後工程の組立て工程は前工程から部品が届き次第、納期に合わせて作業するという仕事のやり方です。

また、前工程の部品製造工程も、納期を踏まえて、暗黙知となっている判断基準で後工程へ届ける日程を決めています。

このように、判断基準が「納期だけ」という現場です。

 

こうした現場で、必ず直面する問題があります。納期への安全率を高めようと、中間製品の作り置きが’自然’に増えるということです。

仕掛品が悪いと言っているのではありません。無管理の仕掛品の存在が問題なのです。そこで、経営者は仕事のやり方を変えて、手離れの良い現場をつくろうと決心しました。

 

部分最適化優先を全体最適化優先の考え方へ変えることが求められます。ただし、思考回路というのは、そう簡単に変わるものではありません。

そこで、小さく取り組むことにしました。後工程のみで生産改革活動に着手したのです。

なぜか?

後工程が「前工程と連動しないとイイ仕事ができない」と感じさせることをきっかけに、全社一気通貫の流れをつくろうと考えたからです。

 

その企業の幹部とは、現場へ「こうした方がイイ」と答えを教えるより、現場から自主的に「こうしたい」と言わせるようにしましょうと決めていました。取り組みを軌道に乗せやすくするためです。組立工程に絞って、従来とは違う仕事のやり方に挑戦をしました。

 

もともと、一体感の水準が高い職場です。2ヶ月程度の活動を通じて、リードタイム短縮の成果をドンドン積み重ねるようになりました。

工程内、つまり部分最適化を極めて成果が出てくると、良い意味での欲が出てきます。現場管理者も活動の成果を全社へ波及させたくなってきました。

 

これまで、前工程から部品が届いたら納期に間に合うように仕事をしていたのですが、今はもう違います。生産改革水準の仕事のやり方に変えるとこんなにも手離れが良くなることを知りました。

従来とは逆に、前工程が後工程に合わせて部品を製造して、届けてくれると全体として最適な生産の流れができると感じています。

 

前後工程を連動させたいという思考回路を持つに至りました。いよいよ、工程内に留まっている組織力を全社へ向けて発揮させる段階です。チームで仕事をする醍醐味を味わうのはこれからです。

 

 

 

 

 

儲かる工場経営の要諦は「顧客に選ばれる製品を効率良くつくること」であり、その成果は付加価値額人時生産性で計測できます。

そして、顧客に選ばれるにしても、価格基準でそうされても儲かりません。もはやコスト削減だけでは儲からないのです。機会の開拓に焦点を当てることになります。

繰り返し申し上げていることですが、付加価値額を積み上げることを目指した製販一体となった活動です。組織力・チーム力が問われます。

 

 

 

 

 

製造業における持続的差別化の源泉は2つです。

・製品力

・組織力

 

前者はどれだけ独自の価値提供ができているかどうかに関わります。貴社は顧客にとって余人をもって代え難い存在かどうかということです。

顧客の心をわしづかみできてこそ、そうした存在になれるわけで、できるならば価格以外の観点でそうなりたい・・・・。

全ては現場から生み出される「製品」次第です。製品力の大切さは今更、言うまでもありません。多くの経営者は新製品、新商品、新サービスの開発に企業の命運をかけています。

 

企業活動で新たな付加価値額を積み上げようと考えるなら必ず直面する論点です。「どんな新製品、新商品、新サービスを開発すればいいだろうか?」

経営者は頭の中で自問します。

 

経営者ご自身の経験と知恵を振り絞り、自ら生み出そうと艱難辛苦されている事例は少なくないです。それだけ前者は重要だということです。

と言うことは・・・。

後者はもっと大切であることに気付きます。後者は、独自の価値提供を実現する仕組みがあるかどうかに関わります。つまり、後者は前者の土台です。

 

 

 

 

 

「新製品、新商品、新サービス」は差別化のために重要な役割を果たします。しかし、「新製品、新商品、新サービス」それ自体は、リバースエンジニアリングやテアダウンによって分析可能で、持続的な差別化が難しいのです。

 

一方、「新製品、新商品、新サービスを生み出す人材や仕組み、組織力」は中長期的な差別化を実現できます。組織やチームの強みは競合からは見えません。

いわゆるノウハウ、知恵、一体感が組織やチームの強みとなり、こうした無形の資源は知られないのです。製品開発や技術開発もそれを担える人材やチームがあってこそ。

したがって、経営者は、組織力やチーム力を磨きあげる仕組みづくりに力を入れるべきなのです。組織力やチーム力を構築し、それを磨き上げる力が問われます。

 

 

 

 

 

組織力やチーム力は製品や商品とは違って、簡単にマネされません。長年の繰り返しや積み重ねの結果だからです。

また、組織力やチーム力は一旦構築できると多様な場面で生かされます。製品開発や技術開発だけでなく、営業活動、現場活動などで広く応用できる力です。

 

それに、経営者にとって、もっと嬉しいのは、人、物、金などの資源とは異なり、いろいろな場面で使っても追加のコストが発生しないことです。

そして、組織力やチーム力は上手に使い続ければ強化、洗練され、自然と蓄積されます。

 

先の現場(組立工程)でも、自工程だけで頑張るよりも、前後工程が連動すればもっと大きな成果を獲得できると考えました。組織力の芽生えです。

チームで仕事してより大きな成果を出そうという気持ちになります。それにチームで仕事をすれば、試行錯誤も楽しいものです。モノづくりの醍醐味はこうしたところにもあります。

 

 

 

 

 

「自分の仕事をしっかりやっているから問題ないだろう」という部分最適化の考え方に囚われている現場は生き残れません。

技術の進化で設備精度が向上し、自動化やロボット化が「普通」になってくると、たかだか人ひとり分の技能では、従来の優位性を保てなくなるのは明らかです。

技術進化を踏まえ、ベテランの仕事のやり方も変えるように指導しなければ、言いたいことしか言わない似非職人が現場にはびこります。

 

21世紀は積み上げの時代、新たな付加価値額を積み上げ方を模索しなければなりません。

・マスカスタマイゼーションやマスラピッドのように中小製造現場が持っている柔軟性や機動性、小回り性を発揮したモノづくり。

・狭い場所で少人数でそして既存の設備で知恵を使ったモノづくり。

・生産量が減ってもなお生産性を高められるモノづくり。

FMSに代表される21世紀型のモノづくりは、組織力やチーム力を生かした全体最適化の観点抜きには絶対に実現できないことです。本質は組織力やチーム力にあります。

 

 

 

 

 

見えない強みである組織力やチーム力で新たな付加価値額を積み上げる仕事のやり方を構築します。こうした能力を持った組織やチームが、顧客視点の「新製品、新商品、新サービス」を生み出すのです。

なぜなら、全体最適化とは顧客視点に他ならないからです。

乱気流の時代、混迷の時代、先が見通せない今、生き残りをかけた経営者が最も手にしたいのはこうした顧客視点を持った現場ではないでしょうか?

 

貴社の現場はどうですか?

持続的差別化の源泉となる組織力やチーム力を構築しそれを磨き上げていますか?

 

付加価値額人時生産性を高めるプロジェクトの成果は、150%へアップさせた人時生産性そのものですが、それとともに(こちらのほうがもっと大切なのですが)組織力やチーム力を構築することにもあるのです。

 

先の現場ではその一歩を踏み出しました。

緊急度が低いけれども重要度の高い課題、つまり中長期的視点の課題です。

 

思い立ったら、即、着手しないと、機会を失ってしまいます。

気が付いたときには・・・・という状況は絶対になりたくありません。

次は貴社の番です!

 

・成長する現場は、組織力を生かし顧客視点のやり方に変えようと試行錯誤する。

・停滞する現場は、自分のやり方が一番だと思い込んだまま時間がドンドン過ぎる。