「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第195話 ベクトルが揃わない状態を放置してはいけない

「当社を好きになってくれるお客様を増やしたいと考えています。」

中堅部品メーカー経営者の言葉です。

 

弊社では、生産性UP体制構築のコンサルティングを始めるにあたり、経営者の皆様に想いを全て語っていただいています。

 

仕組みづくりのフレームワークは「具体的→抽象的→具体的」です。中間部分でのフレームは「抽象的」となっています。

ここに経営者の想い、理念、信念を含めるのです。そこで、プログラムに着手する際、想いの深いところをお聞きしています。

 

先日、お話しした先の経営者からは「当社を好きになってくれるお客様」というコンセプトが出てきました。生産性を高める必然性がここにあるのです。

そうした観点で仕組みを構築していくことになります。

 

 

 

 

 

「事業の目的は顧客の創造である」とはドラッガーの有名な言葉です。事業のスタートは外側、つまりお客様、顧客です。内側ではありません。

 

先の経営者も市場に向き合う想いを「当社を好きになってくれるお客様」と表現しました。モノづくりで内向きになりがちな私たちをいさめてくれる言葉です。

 

さらに、ドラッガーは「顧客」について、次のようにも語っています。「顧客」には2種類あるというのです。

 

「あなたの組織は、誰を満足させたとき成果をあげたと言えるか?」

この質問に答えるならば、その答えが、そのまま顧客は誰かを教える。

(中略)

組織には2種類の顧客がいる。

一方は、活動対象としての顧客(プライマリー・カスタマー、主たる顧客)、すなわち組織の活動によって生活と人生を変えられる人たちである。

(中略)

もう一方は、パートナーとしての顧客(サポーティング・カスタマー、支援者たる顧客)である。ボランティア、有給スタッフ、寄付者、委託先など、やはり組織の活動によって満足させるべき人たちである。

(出典:経営者に贈る5つの質問 P.F.ドラッガー)

 

価値を届けて満足させる対象は市場だけではないとドラッガーは説明しています。後者の顧客にも注目です。経営者にとっては従業員も満足させる対象です。

 

 

 

 

 

CS、つまり顧客満足度(Customer Satisfactionの略)が大切であることは言うまでもありません。

それに加えて、ES、つまり従業員満足度(Employee Satisfactionの略)も忘れてはならないとドラッガーは説いています。

 

儲かる工場経営の要諦は「顧客に選ばれる製品を効率よく造る」ことにありますが、ここでは後半部分に注目です。

「効率よく造る」です。

 

皆さんの現場でこれを実践するのは誰でしょうか?

 

 

 

安定した受注が期待できる時なら、設備投資で「効率よく造る」を実現できます。90年代から00年前半ごろがそうでした。

伊藤が学校を卒業して勤務した自動車部品の工場では、当時、世界トップ水準の生産性を誇る一貫生産ラインがガンガン稼働していました。設備投資による自動化、ロボット化、無人化で稼いでいたわけです。

 

こうした現場の作業者に求められるのは何か?標準を守ることです。日々の生産活動では、変化を起こさないことが大切でした。

作業者一人ひとりに求められていたのは、決められたように「作業」をして、異常がないか「監視」することです。

少品種多量生産でした。3種類ほどの部品で工場全体が埋まるようなこともしばしば、今では考えられない状況です。

 

時代が変わりました。

今は多品種少量です。

 

生産ロットも小さくなりました。

戦艦大和で勝とうという大鑑巨砲主義は時代錯誤です。

 

大手ですら、柔軟性、小回り性、機動性のある生産現場が必要となっています。

いわんや中小製造現場においておやです。

 

生産数量が1個、2個という特注品をこなしながら、一方で特急、突発、変更へも対応しなければ生き残れない時代となりました。変化しまくりです。現場の自律性がなければいい仕事はできません。現場力や組織力が問われます。

多品種少量生産現場を機能させる原動力は戦艦大和ではなく、小回りが利く駆逐艦です。

 

モノづくりのデジタル化が進む一方、複雑化、高度化した現場で成果を出すには現場の連帯感や知恵が欠かせなくなってきました。作業者一人ひとりのモチベーションが高くなければ機動性を発揮できません。

 

 

 

 

 

町工場から株式上場を果たしたエーワン精密の創業者である梅原勝彦氏も従業員のモチベーションの重要性に言及しています。

 

当社の短納期を可能にしている最大の要因は、人です。自慢じゃありませんが、当社の社員は仕事に対するモチベーションが非常に高い。

そうでなければ、いくら機械が空いているからといったって、午後5時に入った注文を「よし、今日中にやってやろう」という気にならないでしょう。

ただし、尻を叩いたり、馬の鼻先にニンジンをぶらさげたりするだけでは、社員のやる気は高まりません。

大切なのは、「これは自分の会社なのだ」という意識を、社員一人ひとりがもっているということです。

(出典:経常利益率35%超を37年続ける町工場の強さの理由 梅原勝彦)

 

いわゆる「ウチの会社感覚」です。プライベートと仕事は別だと切り分ける考え方が強調される昨今ですが、重視すべき観点ではないでしょうか?

 

 

 

 

 

伊藤が勤務した自動車部品工場で開発業務を担い、事業化を目指していたときのことをしばしばお話していますが、まさに「ウチの会社感覚」を部下と共有しながら仕事に没頭していました。

新しいことには試行錯誤がつきものです。

特に量産が立ち上がる時などはそうならざるを得ません。

 

3歩進んでは2歩下がり、徹夜もしばしば、土日関係なく、なんとか成功させようと踏ん張るわけです。働き方改革だとか、勤務規則云々を持ち出せは、こうした仕事のやり方がいいとは言えないかもしれません。

 

しかし、今振り返ると、当時、部下や同僚も含めて、やらされ感や強制感は全くなかったと感じます。あったのは使命感です。

結果が出なくて大変でしたが、一体感を感じる仲間と仕事に熱中する心地良さみたいなものも感じました。

 

これは、経験した人でないとわからない肌感覚です。そうした環境で仕事をした仲間とは強い絆で結ばれます。

伊藤はその会社を去りましたが、今でも定期的に会って近状報告しながら、将来の夢を語り合う仲間です。

 

現場の作業者一人ひとりに「ウチの会社感覚」をもってもらうことを重視しています。こうした感覚こそが、非常時やここ一番の火事場の馬鹿力につながるからです。

四の五の理屈をこねる従業員には理解できない、いわゆるワン・チームの迫力です。

 

皆さんの現場はどうでしょうか?梅原氏のように「自慢じゃありませんが・・・」と誇らしげに語れるでしょうか?意欲的な従業員がいたら、その心意気を大切にしたいです。

 

 

 

 

 

生産性向上は改革です。現在の仕事の延長線上には答えはありません。したがって活動を進めるうえで欠かせないのは現場のベクトル合わせです。

 

生産性向上というそもそも正解のない問題に挑戦するときに、「俺はそんことはやらない」「今までの仕事のやり方でいいじゃないか」という作業者がひとりでもいたらどうでしょう?

取り組みがとん挫するのは火を見るよりも明らかです。

 

ですから、弊社はこのベクトル合わせ、一体化を重視します。変わることに抵抗を示す勢力は意欲的な従業員のモチベーションを削ぐからです。

抵抗するほうが、正解のない問題に挑戦するよりもはるかに楽なので、組織は楽な方へ向いてしまいます。

いろいろな現場でそうした事例を目にして断言できことです。経営者はこの点に留意して欲しいです。

 

 

 

 

 

中小製造企業は同好会でもなければ、クラブでもありません。経営者の想いに共感した仲間が集まり、理念に従って利益を生み続け、豊かな成長を実現させる場です。

 

したがって、「ウチの会社感覚」を持てない人、経営者の想いに共感できず自分のやりたいようにしかやらない人に仲間になってもらう必要は全くないのです。

経営者の想いに共感して、頑張ろうとしている従業員の足を引っ張るだけだからです。

 

誤った正義感を振りかざされても困ってしまいます。振りかざしたかったら、振りかざせる職場へ移ることを促さなければなりません。

そうでないと使命感を持って「ウチの会社感覚」で頑張ろうとしている従業員に失礼です。場合によっては、厳しい、毅然とした意思表示も必要になります。

 

今は変化の時代です。加えて、昨今、新型コロナウィルスの影響であらゆる業種で需要が激減しています。この非常時に四の五の言っている暇はありません。一日も早く「ウチの会社感覚」を共有したチームをつくってベクトルを揃えなければ生き残れないのです。

 

 

 

 

 

まずは、使命感を持ってこの難局を乗り越えようとしている意欲的な従業員の足を引っ張る抵抗勢力がないかチェックする必要があります。

従業員満足度を高めるために、こうした抵抗勢力を放置しないことです。ベクトル合わせの障害となっています。

従業員満足度を高める判断基準は、使命感を持ってこの難局を乗り越えようとしている意欲的な従業員です。こうした従業員が力一杯働ける環境を整備するには?と考えます。

抵抗勢力を判断基準委してはいけません。できるか、できないか?やるか、やらないか?という不毛の議論に陥ります。社長がやると決めたらやるのです。

 

未体験の危機に直面している現在、作業者の本質が見えやすい状況にあるのではないでしょうか?

誤解をしている従業員がいるら考えを正し、危機感がなく当事者意識に欠ける従業員がいたら現状を理解させ、それでも考えを改めない従業員がいたなら、他の選択を与えなければ、まとまるものもまとまらないのです。

 

 

 

 

 

現場の一体化、ベクトル合わせとは、「ウチの会社感覚」を持って頑張ろうとしている従業員の満足度を高めることに他なりません。

時間はどんどん過ぎていきます。経営者は取り組みを加速させたかったら、ベクトル合わせに着手することです。ベクトルがそろわない状態を放置してはなりません。

そうした状態を放置していると、使命感を持った意欲的な従業員のモチベーションが遠からず雲散霧消します。

 

「当社を好きになってくれるお客様」というコンセプトを打ち出した先の企業のリーダーや現場のキーパーソンたちのモチベーションは高いです。

ここの経営者は「2種類の顧客」の満足度を高めようとしています。CSとESの両者のアップです。特に後者がいい感じです。

早速、取り組みをスタートさせられます。

 

ベクトルが揃っていると時間を無駄にすることなく次のステージへ、即、進めるのです。

次は貴社の番です!!

 

・成長する現場は、ベクトルが揃っているので時間を無駄にすることなく次へ進む。

・停滞する現場は、抵抗勢力のために変われず、市場から置いてけぼりを食う。