「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第198話 「低コスト」の王道に挑戦していますか?

「あの時、あえて動き始めてよかったです。今はこれに専念します。」

50人規模の金属製品企業経営者の言葉です。

 

経営資源に制約のある中小製造企業で付加価値額を積み上げたかったら「詰めて、空けて、取り込む」です。それも、”あえて”です。先の経営者はそれを実践しました。

付加価値額人時生産性を高めない限り成長はないと考え、新規案件の開拓に挑戦してきました。既存顧客に依存しているとジリ貧になるとの”肌感覚的な危機感”がきっかけです。

 

並行して、リーダーや作業者へ現場活動の実践を働き掛けてきました。いつ何時、新たな案件を取り込んでも、対応するためです。機会は逃せません。”詰められる”現場でなければならないのです。

その現場にとって、新たな取り組みでしたが、感度の良い現場なので、経営者の想いを理解した従業員たちは試行錯誤しながら活動を始めました。おととしのことです。

 

仕事に人をつけるやり方に変えました。経営者が狙う新規案件を実現させるに、何をやらなければならないのか?これが現場活動のスタートです。

論点は「どうすればできるか?」です。ベクトルを揃え、現場活動を進めました。「できない、やらない」はありません。地道な活動が進みました。一歩、一歩・・・。

 

そして、外での活動、内での活動、それぞれが連動した結果、とある新たな受注が決定したのです。そして、生産の準備を進めていました。

年明け、いよいよ新たな案件の生産がスタート!というところに、新型コロナウィルスという危機が起こったのです。新規案件の受注量が減ってしまうのだろうか・・・・。

 

地道な活動は必ず報われます。既存顧客の受注が軒並み減少する中、その案件は幸いにして計画通り、さらには今後増える可能性も有りとのこと。

従来の仕事をぐっと、詰めてでもやらなければと準備を進めてきた当該案件がこのような形で収益の下支えとなって貢献してくれるとは・・・。

従来の仕事に甘んじることなく、”あえて”無理にでも現場へ詰め込んで付加価値額を積み上げようと、おととし考えていなかったら・・・。

 

新たな付加価値額を積み上げていたので、既存顧客の受注が減っても、やることがあります。この危機を最小限のダメージで乗り切れそうです。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

 

「コスト削減」は今も、これからも、欠かせない観点です。しかし、これは、あくまで付加価値額を積み上げる手段のひとつです。目的ではありません。

21世紀型の現場活動は「積み上げる」に焦点を当てます。付加価値額を一層積み上げるために、ムダを取るのです。

 

ムダを取るためにムダ取りをするのと、付加価値額を積み上げるために詰めて、空ける(ムダを取る)のは似て非なる活動です。

現場のベクトルを揃えたいとき、どちらが従業員の一人ひとりに刺さりやすいでしょうか?許攸したいのは、新たなことをやるためにムダを見つけて、ムダを除去するのだというストーリーです。

付加価値額を積み上げる新たなやり方に合うように、現場の仕事のやり方を変えます。仕事へ人を当てます。人に仕事を当てるので、自分勝手な判断基準が生まれるのです。

コスト削減だけでは儲かりません。付加価値額を積み上げる観点を加えます。内の活動は外の活動を実現させるためにあるということです。

 

 

 

 

 

国内中小製造企業が稼ぐ付加価値額総計は32兆円です。これは大手を含んだ国内製造企業全体が稼ぐ付加価値額の47.5%に相当します。

つまり、中小は大手とほぼ同じ規模の付加価値額を稼いでいるということです(ちなみに国内全体で稼いでいる付加価値額、名目GDPは550兆円です)。

したがって、中小製造企業の存在感は小さくない・・・・・・・・とは、しばしば耳にする論調です。業界が稼ぐ総額で評価すれば、そうかもしれません。

 

しかしながら、ここに企業数と従業者数を加えると、違って見えてきます。

中小製造企業の企業数は38万社です。国内製造企業数の99.5%を占めています。また、中小製造企業の従業者数は620万人です。国内製造企業の従業者数の65.3%を占めています。(出典:中小企業白書2019年)

 

・従業者数で評価すると、中小製造業界は国内製造業人材の65%を使って、大手製造業界と同じ規模の付加価値額を稼いでいる。

・企業数、つまり「箱」単位で評価すると、中小製造業界は国内製造業「箱」の99%を使って、大手製造業界と同じ規模の付加価値額を稼いでいる。

 

付加価値額を積み上げる、そのやり方、生産性を問いたくなるのです。成長、発展を目指すなら、付加価値額積み上げの種を外から持ってくることと内での活動がセットとなります。下請け型ビジネスモデルで成長したかったら、コスト削減だけではダメです。

 

 

 

 

 

現場活動の目的は付加価値額を積み上げること、それもできるだけ効率よく積み上げること、つまり付加価値人時生産性を高めることです。ムダを取るだけでは儲かりません。削減のための削減では現場も疲弊します。

経営者がもくろむ付加価値額を積み上げるには、通常、新たな仕事のやり方が必要です。それに合わせて現場を変えます。生産性向上活動というのは、従来の延長線上にはない息の長い大きな仕事です。

仕事へ人をつけるように現場を設計しなければなりません。組織的、計画的に取り組む必要があります。現場力が問われるのです。

 

固定費の半分以上が人件費であることを踏まえると、固定費は費用と言うより投資です。変動費とは異なり、量で評価するのではなく、効率で評価ます。

そして、その効率は「やる気」の引き出し方でも決まるのです。経営者が気にするべきは固定費の効率が高いか低いかです。固定費が効率的に回っていないと判断したら、阻害要因を除去しなけれななりません。

 

一人ひとりが生き生きと仕事に励み、議論の場では建設的で前向きの意見が出てくる現場の固定費は効率よく回っています。

新たなことを指示するたびに文句たらたら、議論の場では、できないとか、やらないとか、自分の言いたいことしか言わない現場の固定費は・・・・。

変動費のように目には見えませんが、これ以上のムダはないです。新たな付加価値額の積み上げに挑戦をしようとする仲間の足を引っ張っています。もったいないことです。機会を損失します。

 

 

 

 

 

顧客に選ばれる製品があって、初めて儲かります。したがって、成長したかったら、付加価値額を積み上げる新しいやり方に挑戦できる現場に変えなければなりません。

 

「機会の最大限の開拓こそ、コスト当たりの業績比を上げ、コスト管理と低コストを実現する王道である。機会の最大限の開拓が中心でなければならない。他のあらゆるコスト管理が、中心的ではなく付加的な課題にすぎない。」

ドラッガーの言葉です。

 

削減も大切ですが、儲かる本質は積み上げです。「低コスト」の王道は「新たな付加価値額を積み上げる」努力の先にあります。固定費の効率を高めるのです。積み上げる機会を外の活動で探ります。

王道だけに楽な道ではありません。しかし、全社一丸となってチャレンジすれば手にできるものが必ずあります。付加価値額人時生産性向上活動とはそういうものです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、付加価値額を積み上げるためにムダを取ると考えて効率よく前進する。

停滞する現場は、言われたから、しょうがなくムダを取るつもりになって疲弊する。