「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第199話 他人を介して成果を上げるために必要なことは?
「先生、パートさんから“手順を統一しましょう”という提案が出てきました。早速やります。」
電気機器中小製造企業の製造管理者が現場活動の報告をしてくれました。
現場活動を定着させるやり方は企業によって千差万別です。製造現場には、客観的な診断、つまり「外」から観察しなければ見えないものがあります。
仕組みとはそうしたことも踏まえてつくるものです。「内」だけで仕組みを作ろうとしてもなかなか進まないのにはこうした理由があります。
その現場では、PDCAを回す各種道具の他に上司チームの定期ミーティングを新たに設定しました。製造管理者と2名のリーダーによる定例会議です。
製品別人時生産性の確認、フィードバックミーティングの振り返り、現場活動進捗の確認などをやり上司チームでのベクトルを揃えます。
その上司チームの定期ミーティングで、先日行われたフィードバックミーティングが取り上げられました。あるパートさんから部品の取り付け方についての問題が提起されたのです。人によって取り付け手順が異なるという指摘です。
「業務をリレー(その現場では業務の引継ぎをこのように表現しています)するとき、小さな問題がいろいろと発生して、一人ひとりが各自で対応しています。仕事を分担すると能率が悪くなっています。手順を決めて、やり方を統一したいです。」
フルタイムのパートさんからの提案です。仕事熱心で、意欲的に技能を習得しています。(頼もしいことには)人時生産性も気にするような人です。仕事が早く、有能な現場技能者と言えます。
仕事ができる人なので、自分一人でできることだけをやっていても十分に評価されるところですが、あえて職場全体での仕事のやり方に言及してくれたのです。
その現場生え抜きの製造管理者も気づかないことでした。パートさんの言葉に現場の仲間も頷いていたようです。
「そうしてくれると助かります」。現場の声を代弁した提案でした。自分が所属している「チーム」の質を高めようという心意気から出た言葉です。
工場経営の本質は他人を介して経営者の想いを実現することにあります。
したがって、経営者は、人を採用し、チームをつくって事業を展開するのです。一人では成しえないことをチームで実現させます。これが本質です。
チームは経営者の分身です。したがって、従業員は「自分ができること」とチームが「自分に期待していること」を理解しなければなりません。チームに所属しているからです。
「自分ができること」だけをやればいいと考えている人の判断基準は「自分」です。そうした人が一人でもいれば、チームはその役割を果たせません。当然のことですが、ベクトルが揃わない限り、チームはチームとしての機能を発揮できないからです。
他人を介して成果を上げたかったら、従業員一人ひとりへ、
(1)「あなたができること」・・・個人の能力を最大限に発揮する。
(2)「あなたに期待していること」・・・チームの能力を最大化する。
この2つを伝える必要があります。
個人の能力はチームの能力を最大化するために使うのです。連動することで成果が2倍にも3倍にもなります。したがって、「期待されていること」に合わせ、「できること」のやり方も変えなければなりません。
チームに所属しているなら当然のことです。「できること」だけやっている集団はもはやチームとは言えません。判断基準が「自分」になっています。
一人では成しえないことをやるためにチームがあります。したがってチームには目的があり、それを実現させるために、やるべきことや期待されることもあるのです。個人でできることだけを好き勝手にやっている集団を「烏合の衆」と言います。
チーム内を連動させます。結局、その方が個人としての成果も出やすくなるのです。先のパートさんもそのことに気づいたので提案をしてくれました。部分最適と全体最適の観点とも言えます。
判断基準が「自分」になっているチームは孤島の集団です。チームで仕事をしている意味がありません。現場改革は絵に描いた餅に終わります。
現場活動へ着手する前にやるべきことがあります。「あなたに期待していること」の口頭による伝達です。作業者一人ひとりへ「あなたには〇〇をして欲しい。」とフェイス ツゥ フェイス(時節柄、3密は避けなければなりませんが・・・)で具体的に伝えます。
経営者の「熱量」を伝えるにはこうしたやり方が一番です。仕事熱心なフルタイムのパートさんが職場のことを考えて意見を出したのにはこうした背景があります。
チーム能力を最大化する工夫を考えてほしい・・・と上司から言葉をかけられたので、心意気を示し、その期待に応えたのです。
経営者の想いを実現させるためにチームがあります。チームは経営者の分身です。だから経営者は作業者一人ひとりへ「期待していること」も伝えなければなりません。それを知らない現場は勝手な判断基準をつくります。
「あなたができること」と「あなたに期待していること」。この2つを言葉で現場へ伝えれば、現場改革は進むのです。ここで手を抜くと現場活動は続きません。
One for all, All for one。「一人はみんなのために、みんなは一つの目的のために」。あなたができること→あなたに期待していること→会社の目的。この連動で現場改革を進めます。
個人をチームと連動させて付加価値額人時生産性を高めます。一人で仕事をしていてもたかが知れているのです。
成長する現場は、「できること」と「期待されていること」をやるので現場改革が進む。
停滞する現場は、「できること」だけをやるので、そもそもベクトルが揃わない。