「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第200話 経営者が長期的に読まなければならないこととは?

「先生、戻るにしても、”元“には戻らないかもしれませんね。」」

組み立て系製造企業経営幹部の言葉です。

 

課題解決の手順をその幹部へ説明していた時、アフターコロナが話題になりました。

今月の売上高は(残念ながら、同業者と同様に)前年度対比で50%以下になる見通しです。帰休も実施しています。

緊急事態宣言が継続されている今の「非常時」から、解除された「平時」に戻ったときに、それに合わせて売上高もいっしょにも戻ってくるだろうか?

気になります。

 

産業機器を扱っている企業です。経済の主役である個人消費からは少々離れた製品を扱っているので経済活動が平時に戻れば・・・という淡い期待があります。

ただ経済とはあらゆることが複雑に関連しあっているものです。アフターコロナに伴う個人の世界観や価値の変化がその製品の需要規模に影響を及ぼさないとも限りません。

 

その幹部は言葉をつづけました。

「時代がこれからどうなるか見極めないといけませんね。」

 

 

 

 

 

経営者や幹部が長期視点で気にするべきは時代のうねりとかベクトルとか方向性、つまり流れです。それも”不可避“の変化です。景気の良し悪しは小さな話になります。

読むべきことを誤ってはなりません。ただ、不可避の変化と言っても何が不可避の変化になるかは簡単にわからないものです。簡単に予測できるものではありません。

 

アフターコロナでは「オンラインでの・・・・」という論調を耳にすることが増えました。テレワークは不可避の変化となり、今後、オンラインでの会議や打ち合わせが増えるかもしれません。

ただテレワークは以前から存在している言葉(仕事のやり方)です。「私は3年前からこうした仕事のやり方をしているので全く違和感ありません。」という人もいます。

新型コロナウィルスがなければ、その有用性は説かれるものの、ここまでオンライン化が強調されることはなかったでしょう。不可避の変化を予測することは難しいです。

 

 

 

 

 

預言者でもない限り不可避の変化を事前に明らかにできません。そうであるなら私たちができることは「起こったこと」の観察です。起こった事実を観察するしかありません。

観察を通じて時代のうねりとか、ベクトルとか、方向性とか、流れを見通して、不可避の変化をつかみます。したがって、時代の流れを見通す観点が重要です。

弊社は2つを気にしています。

 

製造業である私たちは技術の世界で戦っているので、技術革新は観察の対象でしょう。技術は進化するものです。その結果、事業にも製品にもライフサイクルが存在します。自社製品の将来的な強みは必ずしも保証されていません。それと人口の変化。これもはずせません。

貴社の観点はどこにありますか?観点をもっていれば起こった事実が気になり、情報のほうから飛び込んできてくれます。

 

1.技術革新

産業革命が社会へ及ぼした影響は大きいものです。

第一次産業革命では、人類は肉体労働から解放されました。蒸気機関の発明で動力を手にしたからです。

第二次産業革命では、さらなる機械化で大量生産化が進み、資本家が登場する一方、人々の生活水準は向上しました。T型フォードの大量生産は代表例です。

そして、第三次産業革命ではコンピューターによる自動化技術、ロボットが人の作業を代替しました。

 

現在は第四次産業革命にあるといわれています。

データの利活用はキーワードのひとつです。「現場で自律的に処理する」エッジコンピューティングの考え方は今後の中小製造現場が目指すべき方向を示唆してくれます。

貴社では技術革新の流れを実感していますか?

 

 

 

また、世界観や価値観の変化から技術革新の方向性を読み取ることもできるでしょう。新たな考え方がどんどん出ています。

持続可能な開発目標(SDGs)や経済活動の永続を目指す循環型経済(サーキュラーエコノミー)という考え方などが例です。外部環境の変化に応じて技術に求められる課題も変わります。

 

例えば、伊藤が自動車部品の工場で勤務していたときに扱っていた材料も新たな課題が求められているようです。

もう十分に検討しつくされた分野であると考えていましたが、新たな価値観とともに、新たな技術課題が生まれてきました。

 

アルニウム合金は自動車をはじめとする輸送車両の燃費向上で大きな役割を果たしている金属です。

そのアルミニウム合金のリサイクルを拡大させるのは経済的にも環境的にも意義が大きく、重要な技術課題となっています。国内アルミニウムのバージン材は100%輸入に依存しているのでなおさらです。

国内でリサイクルされたアルミニウム合金の二次地金は主に鋳造材に使われています。カバーやケーシング、そして代表的な製品はエンジンのシリンダーブロックです。

しかし、自動車のEV化が進めばエンジンブロックの需要は減ります。したがって、アルミニウム合金のリサイクルを拡大させたいのなら、別の用途を考えなければなりません。

 

その別の用途が展伸材です。ただし、ここに技術課題があります。それは鋳造材をそのまま展伸材に利用できないということです。展伸材として使うには微量元素や介在物のコントロール精度を高める必要があります。

2次合金の市場が鋳造材→展伸材へ変化するのです。時間軸をとらえたロードマップが技術開発で活用される所以です。(出典:日経ものづくり2020年1月号)

 

 

 

 

 

2.人口減少

これは市場規模と人材採用という2つの点で中小製造企業へ影響を及ぼします。

2020年時点で1億2400万人いるとされる日本の人口が2050年には1億人を切るといわれています。20%減です。

高齢者市場が拡大するという考え方もありますが、そもそも国内市場の規模がシュリンクします。

 

生産年齢人口の減少はもっと激しいです。2015年時点で7,600万人であったのが、2035年で6,300万人、そして2055年で3,500万人まで減ると推測されています。

2050年頃、現状対比で人口が20%減に対して生産年齢人口はほとんど半分です(出典:総務省「人口推計」など)。

少子化が背景にあるわけですが、新たな人材を採用することがますます難しくなります。

 

こうした人口減少はすでに起こった事実です。国内の人口は既に減少モードに入っています。したがって、先々、大きな影響を及ぼすことは明らかです。起こった事実をしっかり観察します。

国内市場が小さくなるなら、国内の既存顧客に依存できるのはいつまでか?国内需要に問題があるならグローバルに解決すればいいではないか?こうした考えに至ります。

 

また、人材採用についても同様です。

少ない働き手を求めて大手も中小も動くわけですから人材採用競争率が高まります。そうであるなら、圧倒的に魅力ある会社に変わって、採用候補者に選んでもらえるようにすればいいではないか?いっそうのこと人材採用もグローバルに解決すればいいではないか?

時間を味方につけて、ボーっとしている競合を出し抜きます。時代の流れを読んで先手を打つまでです。

 

 

 

 

 

アフターコロナで世界観や価値観がどう変わるでしょうか?引き続き、観点を持って注視したいです。

起こった事実を観察して時代のうねりとか、ベクトルとか、方向性とか、流れを見通します。不可避の変化をつかむのです。

付加価値額人時生産性を高める手法にはいろいろあることを踏まえれば、変化をとらえて機会とできます。

 

重要だからと言って目の前の事象にだけ囚われていると、顧客から選ばれる企業になれません。お客様からはその他大勢でくくられます。

時代の流れを見通して不可避の変化を読み取る仕事は、重要度は高いですが、緊急性が低いです。したがって経営者がやらなければ誰もやりません。

 

時代の流れを見通し、不可避の変化をつかんで独自性を発揮してください。弊社はロードマップで挑戦する経営者を応援しています。

 

成長する現場は、時代の流れを読み、不可避の変化を先取りして、流れに乗る。

停滞する現場は、目の前の事象にだけ囚われて、業績悪化を景気のせいにする。