「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第201話 今日の事業で成果を上げる2つの製品群とは?
「先生、これからは価格交渉も考えなければならないですね。」
ある素材加工企業幹部の言葉です。
手間暇と儲けの相関図から、その現場の収益を上げるやり方が分かります。収益力は「率」と「量」の両方から評価しなければなりません。現場が投入できる工数には制約がある一方、結局、儲けに貢献するのはボリュームだからです。
先の現場でも、まずは製品別の付加価値額人時生産性を整理しました。率で整理すると、ある金額の人時以上と別の金額の人時以下の2つのゾーンにわかれます。特定金額帯の人時ゾーンを挟んで高い金額ゾーンと低い金額ゾーンを構成する特徴的な分布です。
創業時からの主力製品は低い金額ゾーンに属しています。そして、その主力製品の製品ライフサイクルは衰退期です。
手間暇の割には儲けが薄い上に、今後、市場もシュリンクするとなれば・・・・。その製品の生産体制を縮小しなければならないのでは?との議論が起きていました。
ただし、簡単に縮小させられない事情もあります。現在、積み上げる付加価値額の半分以上が創業当時からの製品群からです。今後、創業当時から扱っている製品群の事業戦略をどうしたらいいか?議論を通して、その企業の強みから、進むべき方向が見えてきました。
市場自体はシュリンクしているので、同業他社は市場から撤退する状況が続いています。中には廃業ということもしばしばです。
一方、その企業は、その設備規模もあって、撤退・廃業する同業者の顧客を引き続くことを依頼されたりしています。その結果、その製品群の受注量が一定量維持されているのです。
今さら、新規参入する競合先が現れる分野ではありません。残存者利益を狙えそうです。したがって、需要と供給の関係に変化が期待できます。
付加価値額の人時生産性を高める最良の手段は単価アップです。加工に対応できるところが減り、「この加工はあそこしかできない」となれば、価格交渉の余地が生まれてきます。
冒頭の幹部の言葉です。
「経営者は事業の未来について、もっと時間と思索を割かなければならない」
ドラッガーの言葉です。
経営者が現場と一緒になって「今」のことに時間を割いているようでは「将来」が危うくなります。ただ、当然のことですが、「今」もしっかり稼がないと「将来」がないのもこれまた事実です。
肝要な論点は「今」と「将来」のバランス。ドラッガーはこうも言っています。今日行うべき仕事は3つある。
①今日の事業で成果を上げる。
②潜在的な機会を発見する。
③明日のために新しい事業を開拓する。
①があってこその②と③です。営業、設計、開発、製造の各活動をバランスよく配分します。経営資源の再配分は社長の仕事です。
そして、今日の事業で成果を上げる観点は2つあります。
1)固定費を安定して回収できる製品群を確保すること。
2)高い率、大きな量を実現できる製品群を見つけること。
収益構造を固定費VS付加価値額からみればそうなります。前者を「守り」とすれば、後者は「攻め」です。
経営者としては、まず①で足場固めをしたいと考えるのではないでしょうか?「守り」がしっかりしていてこそお城も安泰です。
したがって、リピーターほどありがたい顧客はありません。「計画」できるからです。安定した付加価値額の積み上げを可能としてくれます。
ただ、リピートされる製品には「率」が低いのがあるものです。量を安定して出す代わりに値引き要求があります。
安価な価格が商習慣となって引き継がれていることもあるでしょう。その価格は、供給者が多数存在していた従来の需要と供給の関係から形成されたものです。
いわゆる「成熟」業界で多く見られます。先の企業がそうです。以前にご指導をした、特定の金属加工分野の企業でも同様な状況に直面をしていました。
こうした分野に属している製品群で残存者利益を狙えそうな場合。やることは明らかです。圧倒的な付加価値額の人時生産性向上です。競合先を凌駕する人時生産性を狙います。
徹底的にリードタイム短縮および投入工数削減をやります。不必要な時間をこの製品群へ投入するあまり、新たな付加価値額の積み上げ機会を失うことは避けなければなりません。機会損失の回避です。先の企業での現場活動の焦点はそうなります。
全体最適化の観点で現場活動を設計すると、先の現場では高い金額の製品群ではなく、まずは低い金額の製品群から着手です。
手動設備と自動設備が混在していて、従来の仕事のやり方基準で人員も配置されています。それを少数精鋭に再編です。そうして、余力を高い金額の製品群へ回します。早速、段取り分析からはじめました。
従来の仕事のやり方を変えるには大きなエネルギーがいります。現場としては従来のやり方を継続している方が楽です。変わらない現場は居心地イイものです。
しかし、製造業の場合、「変わらない」は相対的な衰退を意味します。固有技術も管理技術も日進月歩、競合先も生き残りに必死だからです。居心地の良さに引っ張られると、改革が遅れるか、あるいは進みません。
ですから「変わる」ことを普通にできる現場にしておく必要があります。そのために鍛えておきたいのが基礎体力と思考回路です。
現場活動のスキルを習得し、その現場活動を自主的に継続する基礎体力は欠かせません。
それと思考回路。「変わる」ことを厭わない、「変わる」ことを普通のことと考える現場に育成しなければなりません。付加価値額人時生産性を高め続けることが生き残る道であり、現場活動の実践と継続が使命であることを現場の作業者ひとり一人に理解させることです。
先の現場でも付加価値額積み上げの重要性を説明しました。
市場がシュリンクする製品群であっても、残存者利益戦略を適用できるなら、ベクトルが揃った現場パワーで圧巻の生産性向上と地道な価格交渉を実践します。そうすれば、固定費を安定して回収できるようになるのです。お城の守りは強固になります。
先の企業では、「固定費を安定して回収できる製品群」と「高い率、大きな量を実現できる製品群」のバランスを考えることが儲かる工場経営の論点であることが分かりました。
「全体の人時生産性を6,000円、7,000円、いやもっと、高めたいですね」とは別の幹部の言葉。儲かる工場経営でやるべきことが明らかになると現場活動の必然性が高まります。そして、関係者全員の心に火が付き、発言も勇ましくなります。プラスのスパイラルです。
次は貴社の番です!
成長する現場は、変えることを厭わず人時生産性を高め、縮小市場でも生き残る。
停滞する現場は、居心地の良さを優先させて、変わらず、結局、撤退・廃業に至る。