「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第202話 標準書が引き出しの中で眠っていませんか?

「先生、ハンダゴテの当て方もはっきりさせないとダメですね。」

現場から上がってきたストレスフリー項目に目を通した製造現場管理者の言葉です。

 

ストレスフリー項目は新たな現場活動のきっかけとなります。先日、ある工程の現場活動を強化しようと、作業者に集まってもらい議論をしました。

10数名でのワイガヤです。中堅の作業者が「ハンダ付け作業」に言及しました。「ハンダゴテの当て方でハンダの入り方がかなり変わるけど、やり方が一人ひとりバラバラだよね。

 

基板へ各種部品をハンダ付けする工程です。多様な形の部品を基板へ取付けています。標準書には「ハンダがしっかり入るように注意すること」と表記されているだけです。

標準書が作成されたのは今から5年程前。当時、ハンダ付けをする箇所の形状は数種類でした。ハンダ付けのやり方を細かく規定していなくても問題は発生しません。常識範囲内の判断で概ねOKだったのです。

 

しかし、その後、部品も多様化し、コツやワザを要する場面が増えました。こうなると、作業のやり方に「創造性や個性」が出てきます。

創造性や個性の発揮は付加価値額を積み上げるのに欠かせませんが、現場作業で都度、「創造性や個性」が発揮されるようでは問題です。

 

品質に個人差が生まれます。過去トラを見ると、ハンダ付け不良クレームもありました。作業の属人性は排除しなければなりません。

先の管理者は、仕事が複雑化・高度化したのに合わせて、作業手順を細かく明記する必要がると気付きました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

付加価値額人時生産性を向上させるには、「詰めて、空ける」だけではダメです。その後「取り込む」ことをやらないと儲かりません。

人時生産性向上の取り組みを設計したことのある経営者ならお分かりです。製造業は削減の時代から積み上げの時代へ変わったからです。

黙っていても、受注のメールや電話が届く時代は終わりました。意思や意図を持って受注を開拓しない限り、儲けは積み上がらないのです。

 

新たな顧客を創出するには、まずは「詰めて、空ける」活動を定着させる必要があります。経営者が決断した新規の受注に、いつでも即刻、着手できるようになりたいからです。

速さを軸にした機動性の高さは顧客に選ばれる要点のひとつです。

もっとリードタイムを短くする方法はないか?もっと生産性が高くなる手段はないか?新たな仕事のやり方を考え続ける現場になってもらいたい・・・。多くの経営者の願望です。

 

 

 

 

 

新たな仕事のやり方に挑戦することが「普通に」できる現場とそうでない現場の違いは何か?仕組みの有無です。具体的に言えば標準書、マニュアル、手順書が現場に定着しているかどうかです。

現場での仕事のやり方が属人的であるかぎり、その現場は新たな仕事のやり方に挑戦することはありません。

 

「カイゼン」の著者である今井正明氏は「標準のないところにカイゼンはない」と喝破しています。あらゆる現場活動の出発点は現在の立ち位置です。

仕事のやり方が属人的だと、チームで共有したい出発点がはっきりしません。そんな状況で新たな仕事に挑戦することを期待しても無理というものです。

 

「挑戦」とは困難を乗り換えてステージを高めることです。したがって、現在の立ち位置がはっきりしていないと、挑戦するもしないも、乗り越える基準がはっきりしないのです。

「納期遵守できているので問題はない。今のままでもいいだろう。」というお決まりの言葉が聞こえてきます。共有された出発点がないので、「変わること」に抵抗を感じている従業員の言い分がまかり通ります。

その結果、意欲的な作業者が手を上げて新たなやり方に挑戦しても長続きしません。現場が混乱し、意欲的な作業者のストレスを増やすだけです。

 

 

 

 

 

先の現場では幸いにも「もっとイイやり方を共有できたら・・・」と考える作業者が多数を占めています。ただ、仕事のやり方に関する現在の立ち位置が曖昧だったので、「仕事のやり方を変えたい」という思いをチームの「仕事」にできなかったのです。

標準書、マニュアル、手順書があって初めて仕事のやり方を変えることが普通にできるようになります。仕組みが欠かせないのです。

 

先の管理者へは「工程のトリセツと考えて下さい。全てを表現しましょう」とアドバイスしました。既存の標準書を大幅に見直します。ハンダゴテの当て方を分類し、部品形状と紐付けることからです。

作業者の知見を反映させようということになり、意見を出してもらうと・・・・出てくる、出てくる、それまで個別に抱えていたノウハウが言語化されました。

ハンダの持ち方、フラックスの盛り方や仕上げのやり方・・・。これまで文書化されていないことが多数、加わりました。

 

さらには、トラブったときの対応方法も追記です。現場作業は順調なときばかりではありません。手順を誤ったなど問題が発生したときにどう対応すべきかも明らかにするのです。「トリセツ」ですから「困ったときには・・・」がなければなりません。

標準書、マニュアル、手順書は引き出しの中で眠らせておくものではなく、使い倒すものです。常時、非常時、現場で直面する事象、全てが対象となります。

丁寧な表記、詳細な表記が増えます。使い倒したいからです。ですから、引き出しに眠っている標準書は即刻、捨てましょう。

 

事象全てが対象になっているので、結局それは会社の考え方を示すもの、いわゆる〇〇ウェイになるのです。判断基準も明らかになります。「トリセツ」とはそういうものです。

詰めて、空ける新たな仕事のやり方に挑戦する動機付けもしてくれます。「トリセツ」にそう書いてあるからです。

 

 

 

 

 

「トリセツ」が出来上がると仕事のやり方がどんどんイイ方向へ行きそうですとは管理者の言葉です。手順が共有できれば、「仕事のやり方を変える」意見を出しやすくなります。

もともとチーム力が高い現場です。これから本格的に進めるリードタイム短縮活動が進むことでしょう。

 

もっとリードタイムを短くする方法はないか?もっと生産性が高くなる手段はないか?

新たな仕事のやり方を考え続け、行動する現場は新規受注へ果敢に挑戦します。

 

「詰めて、空ける」ことが普通にできる現場が新たな顧客を生み出す所以です。「トリセツ」が貴社の顧客を創出する原動力になります。ですから、「トリセツ」を自ら作成し、改訂し続けるスキルを弊社は重視するのです。

今や現場も、事業の目的は顧客の創造であることを理解していなければ生き残れません。

次は貴社の番です!!

 

成長する現場は、工程のトリセツで詰めて空けることに挑戦し、新たな顧客を創出する。

停滞する現場は、トリセツがないので変わることに抵抗する作業者の言葉がまかり通る。