「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第211話 売上減に直面している現場が挑戦すべきことは?

「少しずつ戻ってきましたが、まだ、足りていません。」

50人規模、板金機械加工系中小製造企業経営者の言葉です。

 

1年前から売上高が減少傾向にあります。そこにコロナ禍が加わりました。先月の売上高は前年度同月対比で3分の2です。

手元資金は確保しているので半年は問題ないと見通しを立てています。ただ、それ以降は分りません。

 

意地でも状況を好転させる必要があります。底を打って上昇に転じさせなければなりません。が、経営者は自ら生産計画や売上計画を立てられないことにストレスを感じています。

それは仕方の無いことです。そもそも、経営者ご自身がそうした事業モデルを選択しました。下請け型、受注形態の事業モデルです。

それなら、そのモデルにおいて、状況を好転させるためにやれることをやるのみ・・・。

 

中小製造現場を取り巻く外部環境が大きく変わっています。削減の時代から積み上げの時代へ。もはや、黙っていても受注が舞い込むことはありません。

自らQCDの決定権を持てる事業へ転換するのが、その企業の経営課題です。現場のベクトルが揃ったので、これから取り組みます。が、これは、あくまで将来へ向けた取り組みです。

一方で緊急度が高い経営課題があります。今日の収益を上げることです。当然のことですが、今日の収益無くして将来の収益はありません。

先の企業の優先順位一番の経営課題は冒頭の言葉から明らかです。

 

 

 

 

 

儲ける力は付加価値額人時生産性で計ります。儲けの観点で最も重要なのは付加価値額の規模、ボリュームです。ただし、製造現場における工数の制約も見逃せません。働き方改革が叫ばれている昨今、なおさらです。

残業や休出で付加価値額を積み上げるやり方では若い人材に職場として選ばれません。したがって、工数も人月、人日ではなく、人時となるわけです。

付加価値額人時生産性を高める具体策は下記です。

1)分子を積み上げる。

2)分母をコントロールする。

 

留意したいのは2)です。「分母を削減する」ではありません。

売上高が時代の流れで右肩上がりであるなら、分子の削減は正しい戦略です。現場にはドンドン仕事が舞い込んできます。こなしきれない受注をどうさばくかが論点です。場合によっては、お客様に断りの回答をしなければなりません。

そうした環境であるなら、経営者の仕事は徹底して「内」です。手離れのイイ生産をするために、工数を削減し、人時生産性を高めます。分母を減らして、人時生産性は高め、こなしきれない受注をさばくのです。

 

しかし、中小製造現場を取り巻く環境は変わりました。削減の時代から積み上げの時代に仕事のやり方が転換しています。つまり、黙っていても受注はもはや舞い込んできません。経営者の仕事は「外」です。

儲かる工場経営の要諦は「顧客に選ばれる商品(製品、サービス)を効率良くつくること」です。効率良くつくる前に、顧客に選ばれなければなりません。

 

(名目)GDPは90年代以降500兆から600兆のゾーンで横ばいです。成熟市場では顧客に選ばれる商品(製品、サービス)が無い限り分子の積み上げはあり得ません。需要は供給を下回っています。貴社の業界でも、業界の再編が進んでいるのではないでしょうか?

 

したがって、コロナ禍で売上高減に直面している現場の論点は「分子の積み上げ方」です。現場活動のターゲットはここになります。

〇受注が見込める場合。

1.詰めて、空ける。

2.そして、取り込む。

 

〇受注が見込めない場合

1.とにもかくにも、取り込むために「外」へ働き掛ける。

 

 

 

 

 

分子を積み上げるために、現場も「外」へ働き掛けるのです。全員商売人。コロナ禍で売上高減に直面し、直近の受注が見込めないなら、これです。

「納期遵守しているから問題はない」という思考回路した持っていない現場があったら、どんなに効率良くつくる術を知っていても、そもそも、付加価値額を積み上げる機会がなければ儲からないことを教える必要があります。

経営者を先頭に現場も「外」に挑戦です。顧客のところへ足を運びます。

 

セミナーやご支援の場で、伊藤が中小製造現場の管理者時代に実践したことをお伝えすることがあります。人時生産性を高めるため、現場と一緒に顧客へ働きかけた活動です。

リーマンショック後、受注量が減った頃です。当時、固定費は削減の対象ではないとの思いで現場を率いていましたから、売上の回復は喫緊の課題でした。

 

そこで、まずやったのが、現場の若手を連れて既存顧客への「御用聞き」。追加の受注がありそうな既存顧客リストをつくり、そこへ1週間に一度訪問し続けます。慣れたら若手だけでの訪問です。

顧客との関係性強化です。地味ながらこうした効果は小さくありません。日頃、外に触れる機会がなかった若手は初めて「顧客」を知ります。

また、足繁く通ってくれる業者がいれば、顧客も気にしてくれるものです。(全てとは言いませんが、)返報性を期待できます。こうした地道な活動から新たな受注を発掘できました。

また、「外」を知ることは最良の従業員教育になります。足を運んだ顧客先は若手にとって学ぶ場にもなるのです。

 

また、あるベテランには顧客の現場に入り込んでもらいました。設備のメンテナンス業務を強化したのです。

顧客である大手メーカーの製造設備では、消耗劣化のため、定期的に交換しなければならない部品があります。その面倒を見る業務です。

 

設備への知見が深いそのベテランが顧客との関係性を構築する中で、その業務は生まれました。それを強化しようと考えたわけです。

これも現場活動として顧客に働き掛けることを地道に継続していた成果と言えます。全員商売人の考え方がその現場にはありました。

 

また、「外」に出向くのが苦手でも「私は多能工化で外へ出向くメンバーを現場で支援したい。」という心意気を示してくれる作業者もいたのです。この姿勢も立派な全員商売人です。

・売上高を確保するために製販一体の総力戦に挑む。

 

 

 

 

 

直接作業ではない工数も投入されるので「分母をコントロールする」です。投入された工数と積み上げた付加価値額のバランスを見ます。

少々、生産性が悪化しても構いません。そもそも受注がなければどうしようもないのです。受注獲得のための営業活動で生産性を問うてはなりません。ここは将来投資です。

 

中小製造業はお客様、競合、技術革新という3つのフィールで戦っています。

お客様に選ばれなければなりません。競合に先んじて有利なポジションに立たなければなりません。そして技術革新で代替技術に飲み込まれないよう独自性を磨かなければなりません。

勝ち抜いて生き残ります。生き残るための原資が売上高であり、そこから積み上げられる付加価値額です。したがって、固定費VS付加価値額で釣り合いが取れなくなったら、やるべきことは決まっています。

売上高を確保するための総力戦です。全員商売人。やるべきことに知恵を絞ります。闘志を燃やして挑戦です。人時生産性を高めます。

 

工場が非常事態であるのに「営業は自分の担当ではない」という現場があったら、それは役割分担制度の弊害と言わざるを得ません。そんな次元の低い話ではありません。絶望的に当事者意識が欠落しています。何か大きなことが間違っています。

貴社ではどうでしょうか?

 

先の企業では現場リーダー以上も計画を立てて顧客へ訪問することにしました。初めての挑戦です。慣れなくて、無理があることは分っています。無理でもやります。やらなければならないのです。生き残るためです。経営者の覚悟や必死さは現場に伝わります。

 

現場の言動は経営者の言動の鏡です。

伊藤も中小製造現場の管理者時代、痛感しました。

 

「成せば成る。成さねばならぬ何事も。成さぬは人の成さぬなりけり。」

米沢藩主、上杉鷹山の言葉をかみしめたいです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、全員商売人の総力戦と製販一体で新規受注を取ろうと行動する。

停滞する現場は、顧客対応は他人の仕事と考え、売上減にも関心を示さない。