「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第212話 経営者が当り前にやっていることで現場を動かす

「社長がそこまでするやらないとダメだよなぁと言いながらやっています。」

中堅素材加工メーカー経営者の言葉です。

 

人時生産性を高める余地が、現場にまだまだあると考えている経営者です。設備の使い方にも一家言あります。現場を見ていると、物足りなさを感じるのです。

NC旋盤やMCを導入したのに機能を使い切っていないじゃないか!!昔ながらのやり方を後生大事に抱え込んで、それ以上の工夫をしようとしない作業者がいます。

 

「どう対応しているのですか?」と尋ねると・・。

「しつこく言うだけです。」工場長以下、現場管理者、作業者を全員集め、伝えています。しばらくして、まだ徹底されていなければ、繰り返し伝えます。

会社のトップである社長がしつこつ繰り返し語るのですから、どんなに反応の鈍い従業員もその重要性を理解します。社長が言うなら、やらないという雰囲気です。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

 

経営者が期待しているほど、現場は経営者のことを理解していません。と言うより理解できません。そもそも現場と経営者の立ち位置が異なります。

 

時間軸の違いです。納期に追われる現場は「今」の仕事をします。今日、明日、長くても1週間単位です。経営者は「将来」の仕事をします。3年、5年、10年単位です。

それと空間軸の違いです。現場は自分の仕事をこなそうと頑張ります。作業者目線の部分最適化です。経営者は工場全体、会社全体を効率良く機能させたいと考えます。顧客目線の全体最適化です。

 

全体を俯瞰している鳥は地上でせっせと作業する蟻を見つめては、「そうではなく、こうしたら近道なのに。」としばしば感じています。だけど、蟻にはその近道が見えていません。

 

これは役割の違いに起因することです。ですから、経営者は、自分の考えを現場に理解させ、行動させるよう導かなければなりません。なにせ、現場は見えないし、知らないのです。

工場経営の本質は他人を介して経営者の想いを実現することにある以上、現場に語り、伝え、見せて、分らせるのが経営者の仕事です。阿吽の呼吸や忖度の時代ではありません。 

 

 

 

 

 

 

経営者と現場はチームです。チーム力は共通の目標があって強化されます。それがなければ単なる集団、人の集まりです。目標を掲げ、伝え、浸透させ、行動させます。まずは、現場に繰り返し、しつこく、言葉を尽くして語ることです。

 

経営者の頭の中を見せなければなりません。阿吽の呼吸、忖度、察してもらう、ではなく、明確に「指示」を語ります。「つぶやき」で人を動かせません。経営者の本気を、手を変え品を変え、現場に伝えることです。

 

圧倒的な圧巻の言葉の連射を放てば、異なる時間軸と空間軸を持つ現場の心を動かせます。現場の一人ひとりが、それまで理解できなかった経営者の本気の考え方を知るからです。

 

そして、経営者の本気を知った現場は、経営者の期待に応えて動き始めます。「社長がそこまで言うのならやらなければ」と考えるのです。従業員にとっては、経営者の想いや意図に従って、共感しながら働くことが、自分のため、ひいては家族のためになるからです。

「安定して生活の糧を獲得する働く場」を提供してくれるのが経営者であると肌感覚で知っています。それが日本的経営です。

 

 

 

 

 

 

日本的経営3種の神器と言われるものがあります。終身雇用、年功序列、企業別組合の3つです。国内製造業は70年代の高度成長期を経て、80年代には自動車、家電などで欧米を凌駕しました。競争力の源泉が日本的経営の3種の神器にあったとも言われています。

人事面における強みを引き出す仕組みです。

 

ただし、時代は変わりました。例えば終身雇用の仕組みは変わりそうです。昨年、日本自動車工業会の会長会見でトヨタ自動車社長の豊田章男会長は「雇用を続ける企業などへのインセンティブがもう少し出てこないと、なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と話しています。

さらに、経団連の中西宏明会長も「企業からみると(従業員を)一生雇い続ける保証書を持っているわけではない」と話しています。

先が見通しにくい昨今、大手であっても終身雇用を前提とした人材採用は難しくなっているようです。欧米企業で重視される「契約」関係が前面にでてくるのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

大手の日本的経営は変わるのかもしれません。一方、中小はどうでしょうか?弊社は、中小製造企業における年功序列や終身雇用の仕組みは今後も重要な役割を果たすと考えています。

 

中小製造企業で重視したいのはノウハウの積み重ねです。現場やチームへの蓄積です。そのために、経営者は従業員に腰を据えて仕事をやってもらいと考えます。現場のベクトルを揃えることが欠かせません。日本的経営はそれに貢献できます。

 

定着率を高め、人材育成をしっかりやって、願望の実現に前進です。そのなかで、多くの中小製造企業経営者が当り前のようにやっている日本的経営は作業者に安心感を与えます。誰ににとってもそうですが、安心感の獲得は人生設計での大きな論点です。

加えて、経営者が全ての人事権を握っています。現場にしてみれば「私の生殺与奪の権は社長に握られている!!」状態です。当然のように、現場は経営者の言動を気にします。これはチームに所属している大人のお作法のようなものです。

 

したがって、経営者は自身の考え方、将来構想を現場へ繰り返し伝えます。そうすることで、現場は経営者の意図を理解して、自分に期待されていることを知ることができるのです。

経営者が期待しているほど、現場は経営者のことを理解していません。明確な“指示”を現場へ示します。経営者からの言葉であっても、単なる“つぶやき”には、現場は反応しません。

 

 

 

 

 

 

年功序列や終身雇用が万全と言っているのではありません。年功序列や終身雇用の仕組みの上にあぐらをかいているベテランがいませんか?日本的経営を誤解しています。

「将来への不安を取り除くよ!力一杯働ける仕事場を提供するよ!だから、安心して仕事に打ち込んでイイよ!」

こうしたメッセージを現場へ、特に若手へ、伝えるのが日本的経営の本質です。そうであるなら、ベテランの役割も自ずと分ります。

 

 

 

 

 

 

現場に動いてもらいたいのなら、経営者は、考え方、将来構想を現場へドンドン伝えることです。繰り返し語ります。文書で示します。図表や数値で見せることです。

そうすれば、現場は必ず経営者の想いを理解して動き始めます。日本的経営を実践している多くの中傷製造経営者は現場一体化の手を既に打っているのです。

現場にとって、人生を掛けて働いている会社の大将の言葉は大きく、安心感を提供してくれている経営者の期待に応えたいと考えています。

・中小製造経営者が当り前のようにやっている日本的経営は現場に安心感を与えています。

・現場は安心感を与えてくれる経営者の期待に応えようとしています。

・経営者は考え方、将来構想を現場へドンドン伝えて、頭の中を見せることです。

・そうすれば、現場は経営者の意図を知って、必ず動き出します。

 

 

 

 

 

 

先の企業には、「社長が言うならやらないと!」いう至極当然の雰囲気があります。自分たちの大将が、自分たちに期待を込めて語っていることです。それを実現したら互いに幸せになることを知っています。

ですから、ロードマップで将来構想を示せば、「社長は本気だ!」という反応を示してくれるのです。これまにはない経営者のやり方に本気を感じるからです。来月からスタートです。

 

明確な指示を本気で示せば現場は必ず動いてくれます。日本的経営をやっている中小現場ならそうです。経営者は楽に仕事ができます。(繰り返し申し上げていますが)フォローと評価も欠かせません。ロードマップを使い倒して下さい。

次は貴社の番です!!

 

成長する現場は、安心感を与えているくれる経営者の期待に応えようと動き出す。

停滞する現場は、年功序列や終身雇用の仕組みを誤解しているので動き出さない。