「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第226話 少数精鋭の中小現場が手を広げる前にやることは?
「技術力を伝えようとしているのですが、これでいいでしょうか?」
20人規模、部品加工企業経営者の言葉です。
先月から人時生産性向上の全社活動を開始しました。一方でロードマップの作成にも挑戦です。売上高がここ2年余り減少しています。
従来の下請けモデルを継続しても先が見通せません。ここを見直さなければ!と決意をした経営者です。事業を豊かに成長させるには人時生産性を高める必要があります。
下請けモデルを続けるなら、それなりに「儲かる下請けモデル」が必要なのです。
自社製品はお客様に選ばれているのか?と自問自答しながら、取引先へ足繁く通い始めました。自社製品の良さを伝えようと必死です。お客様は耳を傾けてくれます。
しかし、なかなか受注につながりません。経営者の頭に疑問が浮かんできました。冒頭の言葉です。
お客様が望んでいる水準はもっと高いのかもしれません。そもそも、望んでいるのはそれではなく、別のものなのかもしれません。
市場優位性は「低価格」か「差別化」のどちらかで構築します。規模の経済を追いかけない中小製造企業の戦略が差別化であるのは明らかです。
さらに標的顧客も事業形態によります。絞りすぎては機会損失のリスクが高まり、一方、広すぎても取り組みがぼやけてダメです。
先の企業は地元企業にターゲットを当てています。差別化集中戦略です。
何で差別化を計るかは強み次第です。まずは今の強みを明らかにします。
・お客様の曖昧な要求を図面化して製品にできる
・製造ノウハウを積み上げているのでお客様の困り事には概ね対応できる
・この材質でこの加工精度を実現できるところは業界でも少ない
・この機構はウチならではのアイデアだ
・この価格でこの味はウチしか出せない
などなど。
製造業は技術の世界で戦っています。進化する技術に負けない固有技術があるからこそモノづくりで事業ができているわけです。
中小製造企業には規模には関係なく必ずコア技術があります。
ただし、製造業も高度化、複雑化してきました。従来の固有技術でだけでは差別化パワーが弱ってきたと感じることもしばしばです。
「今までなら上手くいっていたのに・・・。」
差別化パワーを充填しなければなりません。ではどうするか?
固有技術の強化です。
少数精鋭の中小製造企業は「コア技術の強化・専門化」戦略です。むやみやたらと手を広げません。まずは手の内にある固有技術のQCDを強化します。
Qの強化:固有技術の技術水準をさらに高める。
Cの強化:変動費半減、工数半減を実現する。
Dの強化:業界トップクラスのリードタイムを実現する。
競争戦略の要諦は戦うことではなく、戦わないことです。「百選百勝は、善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。」とは孫子の言葉です。
圧倒的なQCDは商売になります。圧倒的ならお客様は選んでくれるからです。競合も戦うのを諦めます。圧倒的なQCDで差別化パワーを呼び戻すのです。
中小製造現場は手を広げる前に、固有技術をしゃぶりつくさなければなりません。工場や設備を使い切っているだろうか?と考えます。
・特殊治具で多様性を拡張できませんか?
・段取りを極めて稼動率を高められませんか?
・夜中も稼動させられませんか?
・工学的な観点からプロセスを変革できませんか?
前職の自動車部品工場では既存の部品加工技術(当時、世界トップ水準と自負しながらやっていました!)をブラシュアップして、圧倒的な技術力を目指しました。
そうして競合凌駕の軽量化を実現しようとしたのです。固有技術のしゃぶりつくしです。
なぜ、これに熱中していたのか?お客様である自動車メーカーから要望されていたからです。お客様から求められた圧倒的なQCDは儲けにつながります。
今や納期遵守は当り前です。競合も同じようなことをやっています。「短納期」も言い尽くされた感があります。そうした状況で、「短納期」を差別化パワーにつなげるとしたらどうするか?
圧倒的な水準を実現することです。業界で10日かかるところを「ウチは2日でやれます」とお客様へ宣言したらどうなるでしょうか?
中小企業白書2020年版に「短納期サービスを安定的に実現する体制を構築し、差別化に成功した企業」の事例が掲載されています。
従業員90名規模の空調設備に付属する特定部品を製造・販売する企業です。
90年前半の平成バブル崩壊後、空調設備業界の低価格競争のあおりを受けて、同社の母体である設備工事会社が倒産。同社は取引先の出資により再出発を果たしましたが、低価格化の業界における収益力向上が課題です。
競合との差別化をどう実現するか?そこで目を付けたのが”超”短納期です。
扱う製品は案件に応じてサイズや形状が異なり、少品種多量生産なので生産管理が難しいのが業界の常識でした。受注から納品までのリードタイムが通常2週間程度でした。
現在の代表が97年に社長へ就任すると「中2日の短納期」を掲げたのです。
取り組み当初は生産性が上がらず、従業員の長時間労働で乗り切ったようです。社長は人の頑張りではなく、システムで安定的に実現できる生産体制を構築しようと時間をかけて手を打っていきました。
・生産技術部門の設置
・生産状況を見えるようにする生産管理ボードの現場設置
・生産システムの導入
・生産状況の全社共有化
・新設備の導入
・多能工化教育
・従業員からの改善提案
こうして短納期サービスを安定的に実現する体制を構築したのです。
その結果、98年に3億程度であった売上高が20年後には18億円へ飛躍的な成長を遂げました。「中2日」の圧倒的な短納期のお陰でその企業はお客様に選ばれるようになったのです。
競争戦略の要諦は戦うことではなく、戦わないことです。競合と同じ事をやっていても儲かりません。だから圧倒的なQCDです。
中小現場が本来持っている機動性、小回り性、柔軟性を活かし、貴社独自のチーム力でPDCAを回せば、圧巻の仕組みができます。
仕組みは見えません。見えないものとは戦えないので競合も諦めます。圧倒的なQCDなのでお客様も貴社を選んでくれます。中途半端な水準だから戦いになって、疲弊するのです。
中小製造企業成長発展のカギは人時生産性向上です。4,000円水準を6,000円、7,000円、8,000円・・・・へ高めます。
限られた工数で付加価値額を積み上げた結果が、利益アップ、給料アップにつながるのです。独自の競争戦略で人時生産性を高めます。戦わない競争戦略です。
・まずは固有技術の強化で、圧倒的なQCDを目指します。
・その後、同業者がやらない新たな事業領域や事業分野への進出を考えます。
手を広げる前に固有技術をしゃぶりつくします。工場や設備を使い切っているだろうか?と考えるのです。気が付くことが必ずあります。
とは言え、焦点を絞らないと気付が付きにくいのも事実です。
鳥の目と蟻の目の両方が求められます。森を俯瞰しながら、木を観察して問題を見つけるのです。ロードマップで俯瞰しながら、生産管理3本柱のお作法を使います。
冒頭の企業様では両者を平行して進めようとしているところです。
次は、貴社が成功する番です!
成長する現場は、手を広げる前に固有技術をしゃぶりつくし、圧巻のQCDを実現する。
停滞する現場は、今のやり方とイイと考えるので、そもそもしゃぶりつくそうとしない。