「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第231話 経営計画が現場一人ひとりに果たしてくれる役割とは?

「年1回、説明するだけです。」

50人規模素材加工企業経営者の言葉です。

経営計画で3年先、5年先の目標を設定しています。部門の方針も明らかです。経営計画書から経営者の想いが伝わってきました。想いが整理されています。

経営改革も加速しそうです。そこで、次のように伺いました。

「現場へはどの程度の頻度で説明していますか?」

冒頭の言葉が返ってきました。

 

 

 

 

 

貴社には経営計画がありますか?

ご支援を開始する時点で、経営者の多くは「それをこれからつくりたいです。」とおっしゃいます。そもそも、それを決断されたのでご相談をいただくわけですが・・・。

 

なかには既に持っている経営者もいらっしゃいます。そうした経営者は計画を毎年更新させながら、立ち位置把握を怠たりません。今、事業がどの水準に達しているのか?競合と比べて優劣はどうなのか?比較できる状態です。

 

「カイゼン」の著者である今井正明氏は次のように語っています。

「標準のないところにカイゼンはない。いかなるカイゼンにおいても、その出発点は、現在の立脚点である。あらゆる作業者、あらゆる機械、あらゆる工程に適用される正確な測定基準が必要である。」

 

これはそのまま工場経営にも当てはまるのです。

経営計画では3年後、5年度、10年後の目標を設定します。測定基準は設定された目標です。現状と比べれば、今、やるべきことが見えてきます。

経営計画は課題認識のきっかけを提供してくれるのです。とくに、日頃スルーしやすい「緊急度は低いけれども重要な課題」について教えてくれます。

 

 

 

 

 

弊社がご指導する経営計画のベースはロードマップです。目標達成で何をすべきか時系列で逆算しながらマイルストンを設定します。この考え方は製造業と相性がいいです。

自動車部品の製造技術開発に携わったとき、度々これを活用しました。

新たなプレス機を開発すると仮定します。まずは新プレス機に適した金型を開発する必要があります。さらにはそれに適した材料開発です。材料→金型→プレス機の順番に開発しなければなりません。

 

技術開発では時系列の逆算で計画を立てます。この考え方を工場経営に当てはめるのです。5年先、10年先に設定した目標を実現させるには何が必要か?と考えます。マイルストンが進捗の判断基準です。経営者があれこれ考える後押しをしてくれます。

 

・時系列の逆算で設定されたマイルストンが「緊急度は低いけれども重要な課題」を教えてくれる。

・時間軸の長短にかかわらず進捗が見えるので今やるべきコトに気付く。

経営者にロードマップを使っていただきたい理由です。そして、これは現場にも欠かせないものなのです。

 

 

 

 

 

経営計画は、経営者の意思や意図、考え方を現場へ伝える道具です。先の経営者も1年に1度全員へそれを伝えていました。経営計画は経営者の魂の叫びです。実現させたいのです。やらなければならないのです。ですから、現場にそれを知ってもらわなければなりません。

先の経営者はそれをやっています。前年対比で●●%アップという目標設定に留まる事例が多い中で、丁寧な経営を実践している経営者です。これで十分だとも言えます。

 

ただ、それだけではモッタイナイのです。経営計画を、現場へ伝える「だけ」の道具で終わらせたくありません。せっかくの経営計画です。もっと活かしたいのです。

 

 

 

 

 

少数精鋭の中小製造現場が生き残るのに必要なのは「チーム力」です。これまでの「個力」だけでは十分な儲けを上げられなくなります。

付加価値額率(粗利率)が高い仕事は複雑で高度だからです。仕事を依頼する側に立てばこのことを理解できます。

利益アップ、給料アップのために人時生産性を6,000円、7,000円、8,000円・・・と上げたいのです。コスト削減だけでは出来ません。付加価値額の積み上げが必要です。

具体手段のなかで最強なのは「単価アップ」であり、付加価値額(粗利)の割が良い仕事をゲットしたくなります。

「人工」で評価される仕事では無理です。複雑で高度な仕事なら付加価値額(粗利)の上乗せが可能となります。そうした仕事をこなせる現場に育成する必要があるのです。

 

 

 

 

 

そこで、必要になるスキルがあります。抽象的なことを考えられる力です。

経営者が考えることのほとんどは抽象的なことと言えます。将来のことは見えません。手がかりもありません。誰も教えてくれません。

しかし、それを考え、設定しなければ事業は行き詰まるのです。(その手順がロードマップということですが。)

一方、現場は基本的に具体的なことを扱います。目で見えることや手で触れられることです。しかし、これからは現場も抽象的なことを扱えるようにならないと苦しいです。

経営者の想いを耳にした現場はそこからやるべきことを具体化できますか?豊かに成長発展するために人時生産性を高めよう!と現場へ号令を掛けたとき、現場が自ら、貢献するためにできることは何か?と具体的に考えられますか?

 

経営者の指示は抽象的です。売上高を3割アップさせる。生産性を20%向上させる。リードタイムを10%短縮する。抽象的なことを具体化できるようにしたいのです。

また、具体的なことから抽象的なことを引き出す力もしかりです。標準化のプロセスが相当します。手順書作成で求められる能力です。

自分達の具体的な仕事ぶりを分析して、そこから望ましいやり方を設定します。望ましいやり方はそれを考える時、見えていません。手がかりもありません。誰も教えてくれません。抽象的です。具体的なことから抽象的なことを引き出さなければなりません。

 

これらは全てスキルです。訓練で高められます。

そして、最適な教材が経営計画、ロードマップです。現場のキーパーソンを講師役として経営計画の勉強会をやります。

抽象的な表現も多いでので分からないことも多いでしょう。しかし、他でもない自分の職場のことが書かれているのです。気にならないわけはありません。

経営者のメッセージを読み解き、現場で出来る具体手段を全員で考えるのです。抽象的なことから具体的なことを考えられるようにします。

 

 

 

 

 

成果を出すには、目標を掲げるだけでは不十分である。しばしば指摘されることです。その目標を実現させる具体手段も示さなければ現場は動かないとされます。

抽象的なことだけでは現場は動かない、動けないという指摘です。したがって、抽象的なことへの対応力を高めれば経営者は楽になります。

 

経営者が方針、方向性を示せば、現場は持ち場立場で自主的に具体行動をとるようになるからです。現場は一を聞いて、十を悟るので、経営者はアウトプットの評価に専念できます。

・抽象的なことから具体的なこと、具体的なことから抽象的なことを考える訓練をする。

・経営者の意図を理解する。

経営計画、ロードマップは従業員のためにもあります。

経営計画を伝えるだけの道具にしてはモッタイナイという所以です。

これ以上の現場教育の教材はありません。せっかく作成した経営計画、ロードマップです。使い倒しましょう。経営計画、ロードマップは現場を動かすリーサルウェポンです。人時生産性をまずは150%目指します。

 

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、経営計画を教材として使い倒し抽象的思考を鍛え、人時生産性を高める。

停滞する現場は、経営計画に興味を示さず見えることだけを見て言いたいことを言うだけ。