「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第234話 モノづくりの経営計画書に書かれていることは?

「経営計画を作ろうと思ってはいるのですが・・・」

個別相談をいただいた産業機械メーカー経営者の言葉です。

 

ここ数年、赤字が続き収益が振いません。これまで複数の手を打ってきましたが、成果に結びついていないと感じています。

突破口を探るべくご相談をいただきました。そこで、次のようにお尋ねしました。3年後、5年後、中長期の姿を現場へ教えていますか?冒頭の言葉が返ってきました。

 

 

 

 

 

赤字を脱却し、黒字化させるために、現場、意識、構造、全てを変えます。儲かる体質に変えるためです。「変える」以上、ビフォーアフターを設定しなければ、やることが見えてきません。例えば下記です。

 

・ベテランを中心に、一人ひとりの能力に頼る仕事のやり方をしてきたが、これからは、チーム力を活かしてスキルのボトムアップをはかり、より複雑で高度な仕事をこなせる現場に変えたい。

・自分の役割分担をこなして納期さえ守っていれば問題ないと考えるのではなく、期待されている役割を理解し全体最適化の視点で少しでもリードタイム短縮!という思考回路を共有するように変えたい。

・これまで固定費を圧縮することばかり考えてきたが、投資の発想で固定費を計画的かつ健全に成長させ、固定費の効率を高める構造に変えたい。

 

まずはビフォーです。現状把握。経営者が言語化、数値化しない限り、現場は実体を知り得ません。目で認識できる問題を扱う現場活動と根本的に違います。

「貴方たちは、お客様から〇〇〇のように見えている。これではお客様の要望に応えられない。」これを伝えて現場に気付かせるところからです。

 

そして、アフターを設定します。「したがって、〇〇〇を●●●に変える。」経営者が決めることです。これまでの仕事のやり方を手放して、新たなやり方を取り込むためです。

ビフォーアフターを設定し、現場へ提示しなければ、現場も動けません。儲かる体質への変革は「なんとなく頑張れ」という水準ではないのです。時間を味方につけた経営計画が欠かせない所以です。

 

 

 

 

 

アフターを目指して、儲かる体質に変えます。人時生産性を高め続ける構造です。分母と分子のバランスから決まります。

・工数(分母)を現状維持のまま、付加価値額(分子)を積み上げる

・工数(分母)を増やしながら、付加価値額(分子)をそれ以上に積み上げる

目標達成の具体策となる人時生産性向上の論点を現場へ示すことが大切です。

富士山にも静岡県側から登るルートと山梨県側から登るルートがあるように人時生産向上の目指すルートも複数あります。

富士山のてっぺんを目指せ!ではなく、静岡県側から目指そう!とルートを示した方が現場は迷いません。しばしばお伝えしている「詰めて、空けて、取り込む」は人時生産性向上論点のひとつです。

 

 

 

構造を変える取り組みに、設計図や作戦指令書は欠かせません。時間を味方に付けた取り組みだからです。3年先、5年先の見えていないものを現場に見せます。

現場活動は見えているものが対象です。ここにあるゴミ箱をもっと加工機のそばへ移動させたほうが楽になる・・こうした目に見える取り組みの積み重ねが重要なのは今後も同じです。

しかし、今までの仕事のやり方では利益確保が困難になりつつある昨今、市場の変化に合わせて、「目に見えない」構造を変える取り組みもやらなければなりません。

生き残るためです。そもそも、ゴミ箱を移動させるのも何のためなのか?という問いを現場へ発したいのです。「目に見えない」目指すべき状態を見せて、現場に気付かせます。

 

 

 

 

 

自動車部品工場に勤務していた時代、圧倒的な差別化を目指して製造技術開発、製品開発に取り組んだことがあります。

貴社の業界と同様、自動車部品業界も「製造業は技術の世界で戦っている」を地で行く世界です。無理を承知で目標を掲げて取り組みました。

 

1割、2割程度の機能向上では「圧倒的」にはならないことが分かっていたからです。課題を共有しながら十数人のメンバーと知恵を絞り続けやり切った経験があります。

お客様からの軽量化要求へ応えるための3年以上を要するプロジェクトでした。できるとか、できないは関係ありません。

お客様がそれを要求している以上、やらねば生き残れないのです。だから必死でした。競合の動向も気にしながら取り組みを進めた記憶があります。技術開発はそのようなものであることを経営者はご存じです。

 

リスクを取らなければ飛躍は望めません。製造業は「技術革新」と「競合の追い上げ」に晒されています。自社でできる範囲で・・・と考えるようではやる前から負けです。

「内」の状況や要望とは全く関係なく、「外」に合わせて「内」を変えます。変わらなければ生き残れないからです。

簡単にできないからこそ、無理を承知であるからこそ、やる意義があります。そうでなければ、わざわざ経営計画、ロードマップを作りません。3年先、5年先の姿を見せて現場を鼓舞します。

経営計画、ロードマップとはそう言うものです。

 

儲かる体質に変えるには土台からです。現場改革、意識改革、構造改革。時間を味方につけた取り組みになります。

・ビフォーとアフターを設定する。

・人時生産性向上の論点を提示する。

現場にビフォーとアフターを見せなければ、変わりません。経営者が言語化、数値化しない限り、現場は動きようがないのです。

 

貴社もルートを定めて富士山の頂上を目指してください。そのための設計図、作戦書が経営計画、ロードマップです。

貴社が生き残るためにやらなければならないことがそこに書かれます。「生き残るため」の経営計画、ロードマップです。小売業、サービス業とは異なる製造業の競争構造を知れば、腹落ちするのではないでしょうか?

それを現場へ知らせるのです。見えるモノを対象にした現場活動と異なります。

 

先の経営者には、ロードマップ全体構想の考え方をお伝えしました。儲かる体質づくりへ向けての一歩目です。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、生き残るため、できないことにも経営計画でベクトル揃え挑戦する。

停滞する現場は、できる範囲のことしかやらないので知らないうちに競合に追い抜かれる。