「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第242話 将来を知る多元連立方程式があるか?
「先生、シミュレーションができておもしろいですね。」
産業機器メーカー、経営幹部の言葉です。
次世代経営者体制への移行に着手しました。良いところは残しつつ、変えるべきところは変えます。
これからは納期遵守に加えて、人時生産性を高める考え方を現場へ浸透させたいと考えている経営幹部です。
現場の思考回路を変えなければなりません。指示書に示された納期を守ってさえいれば問題はないと考えてきた現場です。納期に合わせて自分のペースで仕事をしています。
しかし、そのやり方ではお客様に選ばれなくなりました。市場は変化しつつあるのです。新たなニーズに対応できる現場に変える必要があります。
話を伺い、議論をしながら、具体方法を組立てているところです。
具体方法のひとつにロードマップ全体構想表があります。固定費VS付加価値額の収益構造推移や人時生産性などを時間軸に沿って設計するものです。
トライアンドエラー、試行錯誤しながら、最適解を見つけにいくと気付きがあります。冒頭の言葉です。
経営者の仕事は将来へ向いています。5年後、10年後の設定です。経営者が今の仕事をしているようでは負けます。技術革新と競合の追い上げに晒されるのが製造業だからです。
勝つには時間軸を設定しなければなりません。時間がかかることばかりです。先手必勝は将来を向いてるからできます。
従来型の下請けモデルでも儲かるなら問題はありません。しかし、もとには戻らないアフターコロナ、ウィズコロナと言われています。
例えば、黙っていてもお客様から電話が掛かってくることは、もはやないのです。生き残りを掛けて新たな下請け型モデルを探求しなければなりません。
激動の時ほど目標をはっきりさせます。先の企業も同じです。収益低迷の問題に直面している中で次世代経営者への移行を成功させなければならないのです。
目標が具体的であればあるほど現場のベクトルは揃いやすくなります。
利益アップと給料アップを目標にします。人時生産性向上。それを数値化するのです。5年後、10年後の数値を設定するために、貴社の「多元連立方程式」を解くことになります。
昨今の製品開発や技術開発でCAE(computer-aided engineering)は欠かせません。コンピュータによって支援された、製品の設計・製造や工程設計の事前検討などといったエンジニアリングの作業のことです(Wikipediaより)。
自動車部品工場に勤務していた頃、CAEを活用していました。技術開発のための熱解析や流れ解析、製品開発のための構造解析です。
工学的な多元連立方程式をコンピューターで解きます。解析用のモデルを作成し、境界条件と各種物性値を設定するのが手順です。モデルの要素単位で計算をして結果を評価します。
CAEの狙いは開発費削減と開発リードタイム短縮です。試作をして確認しなければならないことを机上で検証できます。将来の出来事を見える化できるのです。
また結果をビジュアルに表現できるので、現場にも状況を説明し易かったことを憶えています。数値を使った説明には説得力がありました。シミュレーションの面目躍如です。
儲かる工場経営も同じです。将来の出来事を見える化したくなります。
貴社の多元連立方程式を解けば、5年後、10年後で達成したい利益アップと給料アップの状態を設定できます。見える化できるのです。
・変動費の構成項目
・固定費の構成項目
・固定費VS付加価値額
・人時生産性
これらの多元連立方程式です。CAEの境界条件や各種物性値の設定よろしく、貴社独自の工場経営変数をあれやこれや、なんだかんだと設定するうちに最適化を見つけられます。
このプロセスが貴重なのです。あの数値を高めると、ここまで下がるのか・・・、ここまでやらないと、目標値に辿り着かないのか・・・。
まさしくシミュレーションです。人時生産性5,000円台、6,000円台というのはこんな水準なのですね!簡単にできないことが分かりましたというコメントを経営者や幹部からいただきますが、これは試行錯誤した方にしか分からない感覚です。
そこで「大手とはそうした水準で仕事をしています。仕事ぶりを真似ましょう。」とお伝えしています。最適解が具体策の手がかりを教えてくれるのです。
利益アップと給料アップの具体策は漠然と考えてもでてきません。だからこそ数値でシミュレートするのです。
現場の考え方を変えるにはどうするか?
先の企業でも直面している問題です。現場の考え方を変えるように、その旨の研修をやればいいのだろうか?おそらくダメです。
先にやることがあります。仕組みを整備することであり、仕組み整備の必然性を数値で示すことです。製造現場の意識は仕事を通じてしか変わりません。
この数値にしたいのだ。あなたの力を借りたい。協力して欲しい。ついてはどんな貢献をしてくれるか?という問いかけが正しい姿勢です。数値の力を借りて刺さる問いかけにします。
経営者が設定する5年先、10年先を数値で説明するのです。漠然とした抽象的な言葉ではなく、曖昧さがない具体的な数値なので、明確に伝わります。
・高みを目指して、できないことをできるようにしながら5年先、10年先を迎える。
・時間に追われるようにやれることだけをやって、結果として5年先、10年先を迎える。
貴社の将来はどちらですか?
目指す高みをシミュレーションしながら数値で具体化します。
ただし、闇雲にシミュレーションをしてもダメです。文字通り「机上の計算」に終わります。貴社の多元方程式を解くわけですが、変数設定が現状を踏まえていなければなりません。
さらに人時生産性向上の論点も踏まえなければなりません。ここは議論を要します。ベクトル合わせで時間がかかるところです。
先の企業ではシミュレーションを重ねて最適解を明らかにする予定です。最適解を現場へ示しながら「次世代経営者体制」の考え方を伝えます。これまでにはないアプローチです。
製造現場の意識は仕事を通じてしか変わらないので、仕事で説明します。
次は貴社の番です!
成長する現場は、5年先、10年先を数値化しできないことをできるように努力する。
停滞する現場は、5年先、10年先は先のことだと考え今できる仕事だけをやる。