「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第243話 「点と線」の見極めができているか?
「先生、クリティカルパスをコントロールできていなかったようです。」
生産性向上プロジェクトを主導している経営幹部の言葉です。
人時生産向上の論点を明らかにして具体活動へ着手しました。論点で手法が決まるからです。そして生産活動の見える化です。生産の流れを分析します。
分析結果を整理しているとき、その幹部があることに気付きました。冒頭の言葉です。
人時生産性向上の論点のひとつに「詰めて、空けて、取り込む」があります。「詰めて、空ける」にしても、どこを詰めるのか?人時生産性向上活動はここからはじめます。
まずは生産の流れ分析です。初手はプロセスフローの見える化になります。
分析に当たって、「ずっとこの作り方でやってきたので、わざわざまとめなくてもわかっています。」という現場は少なくありません。ベテランにとってはそうでしょう。
ただ、この分析はベテランのためにやるものではないのです。若手や新人もベテランと同じように理解しているのか?これを明らかにするのです。
生産の流れは作業手順だけではなく、安全動作と品質意識からも構成されています。ベテランはそれらを暗黙知として持っているわけです。では、若手や新人は・・・・・。
若手や新人もベテランと同じ暗黙知を持っているか?ということです。暗黙知の獲得には時間を要します。若手や新人がベテランと同じ水準の暗黙知を持っていないのは明らかです。
このギャップは埋めなければなりません。安全や品質、納期の問題はこのギャップが原因になっていることが多いからです。
貴社には既に、長年積み重ねた技術やノウハウがあります。それはベテランの仕事ぶりに現れます。しかし、それが共有されていないのです。まずはプロセスフローの見える化です。
分析が難しい生産形態があります。組立工程を含む特注生産です。
組立作業の見える化は一筋縄ではいきません。
この工程が自動化、機械化されているなら問題はないです。そもそも分析して見える化したので、自動化、機械化ができました。
しかし、組立工程の主役が人の場合、状況は異なります。ベテランのノウハウに依存しているところが多いからです。暗黙知を手順化しなければなりません。
また、組立工程を含む特注生産では対象製品が変わるので製品群のグルーピングも重要です。一見異なる製品を作業の流れでグルーピングします。実はここが特注品分析のキモです。
さらにプロセスフローの形態で重要な観点があります。単純な形態と合流する形態の見定めです。
①工程が時系列に並ぶ単純な形態
②流れと流れが合流する形態
例えば、アルミ合金鋳造を熱処理後、NC旋盤で加工してから塗装する製品を仮定します。
この場合、プロセスフローは鋳造→熱処理→加工→塗装です。工程が時系列に並ぶ単純な形態になっています。この製品のリードタイムは各工程の単純合計です。
ここで、加工後、ある部品を取付けることとします。その部品は内製です。部品の材料は鋼薄板、工程は切断→プレス→曲げです。この部品を溶接で取り付けます。その後、塗装です。
この場合、製品のリードタイムはどうなるでしょうか?
アルミ合金鋳物をNC旋盤で加工するまでのリードタイムと鋼薄板をベンダーで曲げるまでのリードタイムとの競争です。遅い方が律速段階となります。それまでは塗装できないのです。
この製品のリードタイムは各工程の単純合計にはなりません。
組立工程を含む生産の流れでは②になる場合があります。暗黙知のままで把握できないのはココです。ベテランは経験と勘で対応します。プロセスフローで②を見える化するのです。
「詰めて、空けて、取り込む」現場の使命はリードタイム短縮です。ボトルネック解消と言い換えられます。そして、①と②ではボトルネックの捉え方が異なることに注意です。
①のボトルネックは点になる
②のボトルネックは線になる(クリティカルパス)
①ではボトルネックが「点」になります。点とは工程です。それに対して②では複数工程のひとまとまり、つまり流れがボトルネックになります。
アルミ合金鋳物をNC旋盤で加工するまでの流れと鋼薄板をベンダーで曲げるまでの流れのうちリードタイムの遅い方がボトルネックです。ボトルネックが「線」になります。
これをクリティカルパスと言います。
人時生産性向上の論点とは付加価値額の積み上げ方を探ることに他なりません。経営者が設定した固定費を投資して、付加価値額(粗利)を獲得します。
そこでは、付加価値額積み上げにつながるロジックが必要なのです。
製造業は工学です、技術です、科学です。付加価値額の積み上げに貢献するやり方のロジックを現場に示せなければ、固定費を投資したことになりません。
投資とは収益を事前に計算できなければならないからです。できなければ投機です。一か八かはダメです。
ベテランの経験と勘は素晴らしいものです。伊藤も現場でしばしば助けられました。ベテランの持つ暗黙知が重要な役割を果たすのは今後も変わりません。
変わらなければならないのは暗黙知を活かす経営者の姿勢です。暗黙知を明文化、数値化して人時生産性向上のロジック(論点)を構築します。
IOTやAI、DXで扱うデータはデジタルです。暗黙知のままでは活かせないのです。
例えば、ボトルネックは点か?線か?というロジックを提示するのが経営者です。論点がなければ現場はリードタイムを短縮するための具体項目を考えられません。そもそも目線の高さが異なります。
ロジックを現場へ提示していますか?
先の経営幹部の現場は②です。ベテランの暗黙知に依存していたため問題点を共有できていませんでした。これで見える化できました。
ここまでくれば黙っていても取り組みは前進します。意欲的な現場です。
次は貴社の番です!
成長する現場は、線のボトルネックを見える化して特注生産のリードタイムを短縮する。
停滞する現場は、暗黙知のままなので特注生産は難しいものだと思い込んで何もしない。