「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第244話 時間とともに成長させようとしているか?

「先生、やるべきことがやっと見えてきました。」

ロードマップに着手した経営幹部の言葉です。

 

収益は水面上を維持しています。が、減少傾向です。このままでは水面下を避けられません。具体項目を挙げ、製販一体の取り組みによる回復のきっかけが必要です

一旦は水面に触れるかもしれません。ただ、その後は成長モードへ戻したいのです。

 

生産性を高めれば利益が増えると考えている幹部です。現場に改善活動を指示しましたが、しっくりきません。

3人でやっていた仕事を2人でできるようになるからと言って利益が生まれるのだろうか?5Sの重要性もわかっているけど、それが利益につながるのだろうか?

そんな疑問を持っています。

 

今年になって、新たな取り組みに着手しました。人時生産性向上プロジェクト。ロードマップ全体構想も設計します。

その幹部は製造業の収益構造を把握しました。構造が理解できると、利益を生み出す具体項目が浮かんできました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

新たな収益源を手にするのは簡単なことではありません。時間を要します。

・現商品、現製品を売れるように改造する。

・売れる新商品、新製品を開発する。

 

改造も開発もやればできますが、売れるかどうかは別の話。一筋縄ではいかないのです。そこで、売れる商品・製品を手にするために、お金と時間を投じることになります。

人と設備で付加価値額を積み上げるのが製造業です。時間をかけて売れる商品・製品を創り上げます。人と設備が新たな付加価値額を生み出すのです。

時間を要するだけに、経営者は先手を打たなければなりません。先の幹部は減衰モードにある現状を知りました。水面上にいるうちに手を打ちます。

 

 

 

人と設備で新たな付加価値額を積み上げるのが製造業です。そして新たな収益源を手にするまでに時間がかかるのです。固定費が価値を生み出す役割を担っています。固定費を将来投資と呼ぶ所以です。

 

減価償却費は当然ですが、人件費も投資の要素を多分に含んでいます。経営者が昇給を決断するのは、実績もさることながら、将来へ向けた活躍に期待をしてのことだからです。

成果がでるまでに時間を要するので、固定費はその効率をチェックする必要があります。それが人時生産性です。そして固定費を決めるのは経営者です。

 

 

 

 

 

人時生産性向上の儲かる工場経営では、製造業の収益構造を理解する必要があります。

利益=売上高-費用 (1)

誰でも知っている王道の式です。しかし、やることが見えにくいです。

 

利益=付加価値額-固定費 (2)

こちらで考えると見えてきます。

 

これには理由があります。経営者は(1)の売上高も費用もコントロールできません。2つとも変化します。一方(2)の固定費は文字通り固定費、経営者が決める数値です。変数は1つの方が考えやすくなります。

 

さらに、(2)式が教えてくれるのは製造業で稼ぐ姿勢です。「固定費を回収するだけの付加価値額を積み上げよ」となります。経営者が意思決定した固定費分を回収し、それを上回った分が利益になるというわけです。

 

 

 

 

 

(2)で考えると利益を生み出す具体項目が浮かべやすくなります。

・まずは固定費の設計

将来投資としての人件費と減価償却費を設定するところからです。イノベーションを起こすのに必要な人員構成と設備を設定します。

・付加価値額を積み上げる具体項目を設定

付加価値額=Σ{(価格―@変動費)×販売数量}というシンプルな構造です。構成項目を増減させます。

 

固定費を設計して、付加価値額を積み上げる具体項目を設定する。

この姿勢が先の幹部の思考回路を刺激したようです。

製販一体なのだ。

それに合わせて現場活動をやるのだ。

人時生産性だ。

分子だ。

 

(2)に基づいて、先の幹部と人時生産性の水準や人件費規模などを議論した際、気になることが浮かびました。それは・・・、

「もっと高く売れませんか?」

 

・もっと高く売る機会を探ってみよう

・既存のお客様へのアプローチを変えてみよう

・今までやったことがなかった新規のお客様へのアプローチをやってみよう

「外」の活動を強化するのは、付加価値額積み上げ具体策のひとつです。それに合わせて、「内」の活動を変えていきます。目的を共有した現場活動が展開されるのです。

3人でやっていた作業をなんとなく2人作業へ改善するのとは全く違います。言われたからやっている他人事の現場活動ではありません。売上高ではなく付加価値額を積み上げます。

 

 

 

 

 

利益=付加価値額-固定費 (2)

この式の本質は固定費にあります。固定費を将来投資と考えることです。考回路の軸に固定費を設定します。固定費で利益アップ、給料アップを実現させるのです。固定費の位置づけがはっきりします。

 

・変動費は生産数量とともに増える。可能な限り削減したい。

・固定費は経営者が決める。時間とともに成長させたい。

 

固定費には経営者の意思が反映されます。現場を動かすメッセージが含まれているのです。将来へ向けた見通しです。

経営者が成長させようと考えない限り、成長させられないのが固定費です。

 

・固定費をコントロールしながら成長していく工場経営

・固定費に振り回されながら水面すれすれでいく工場経営

 

どちらですか?ロードマップの必要性を理解している経営者の方々の姿勢は明らかです。製造業ならではの収益構造を生かして現場へ働き掛けます。

 

 

 

 

 

大手は黒字化のためにリストラをやります。固定費圧縮は大手の手法です。少数精鋭の中小現場ではダメです。

一旦は落ち着くかもしれません。しかし、その後の成長発展を期待するのは難しくなります。固定費は将来投資であることを考えれば明らかです。

 

(2)式で変化を捉え、先手を打つことが求められます。経営者が持つ特有の勘と肌感覚を研ぎ澄ます役割を担っているのが、客観的な判断基準であり(2)式です。例えば、刃物と砥石のような関係と言えます。

 

ただし、闇雲に数値設定だけをやっても失敗します。比較対象がなければ、妥当性を検証できません。他業種や他事例と比べて設定したいのです。

人時生産性の水準がその手掛かりを与えてくれます。考えるとは比べることです。弊社は挑戦する経営者の後押しを精一杯して参ります。

 

 

 

 

 

製造業ならではの収益構造を知ることは大事ですが、もっと重要なものがあります。

何が何でも事業をⅤ字回復させるぞというなりふり構わない経営者の強い思いです。これ抜きでは、単なる数字合わせになります。経験的に言えることです。圧倒的な熱量は時として理屈を超えます。

 

今は売上が低いから現場改革は難しい。

幹部と相談してから改革に取り組もう。

改革に踏み出さない理由はいくらでもつくれます。このような思考回路の経営者に導かれている中小現場の行く末はあきらかです。

数値を生かせる経営者とは、競合を凌駕する熱量を持った経営者です。机上の空論にしないからです。先の幹部もなりふり構わない圧倒的な熱量を持って、現場だけでなく、ご自身の言動も変えようとしています。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、固定費を成長させたい経営者の意図を理解して付加価値額を積み上げる。

停滞する現場は、固定費が削減の対象になっているので、将来へ向けた見通しがない。