「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第245話 技能に精通することより大事なことは?
「粗利と作業時間を比べれば現場の仕事ぶりを評価できますね。」
30人規模精密鈑金加工企業、経営者の言葉です。
現場生え抜きではなく技能に明るくありません。そのことに不安を抱いていた経営者です。幸いご相談を通じで、技能に精通することよりも大切なことがあると気付きました。
現場を掌握することです。
具体的には人時生産性。こちらが本質です。課題設定のため、人時生産性の数値化構造を明らかにする中で、掌握する具体方法もみえてきました。
冒頭の言葉です。
経営者の仕事は「外」にあります。利益アップと給料アップの源泉である付加価値額を支払ってくれるのはお客様だからです。
経営者が「内」に時間を割いていると市場やお客様の変化に気付きません。競合に出し抜かれます。だから「内」の仕事は現場に任せるのです。
「内」の方針を示して、仕事ぶりをフォローし評価します。「外」にいても「内」を掌握できればいいのです。
掌握する具体手段が人時生産性です。人時生産性は2つの階層で構成されます。
上段が全社人時生産性、下段が製品別人時生産性、お客様別人時生産性、工程別人時生産性など各種人時生産性。下段はご支援先企業の業種業態を踏まえて決めます。
全社人時生産性で明らかになるのは、貴社が持っている利益アップと給料アップの水準です。経営者は現状の3,000円、4,000円、5,000円台を6,000円、7,000円、8,0000円台へ伸ばそうとします。
成長発展の先に利益アップと給料アップがあるからです。各種人時生産性はその全社人時生産性の土台を形成しています。全社人時生産性向上は各種人時生産性向上の結果です。
各種人時生産性が「外」で社長業に専念しながら「内」を掌握する具体手段になります。
各種人時生産性の構成は下記です。
分母:作業者一人ひとりの所要工数の組み合わせ
分子:製品別付加価値額の組み合わせ
製品別、お客様別、工程別となっているのは、業種業態で活用目的が違うからです。それに沿って数値化しています。もとを正せば全て上記の構成です。
経営者はこの数値を把握します。そうすれば判断基準も多様に設定できるのです。
・レーバーレート VS 製品別付加価値額÷作業者一人ひとりの所要工数
・見積もり粗利 VS レーバーレート×作業者一人ひとりの所要工数
等々。「内」を掌握するとは、作業者一人ひとりの所要工数を把握することなのです。目標値と実績を比べます。
特別な指示がない限り、現場は納期に「合わせて」仕事をします。納期遵守が現場の使命と考えるからです。この考え方に問題はありません。
しかし、この思考回路しか持たない現場は人時生産性を高められません。判断基準が納期だからです。判断基準を工数に変えなければなりません。
そこで経営者は、作業者一人ひとりの所要工数を把握するのです。そうすれば、現場に期待したいこと、貢献して欲しいことを具体的に伝えられようになります。
逆に、これを把握できないと、作業者一人ひとりの仕事ぶりを叱咤激励できません。先の経営者も、そのことに触れていました。
「ただ頑張れと言われても、現場も頑張りようがないですよね。」
全くその通りです。儲かる工場の経営者はロジックで人を動かします。
黙っても受注が舞い込む時代なら、ドタバタしながらも受注をこなせばいいのです。そのやり方に問題はありません。利益は付いてきました。一定規模の受注見通しが立つ時代なら、従来の下請けモデルでも儲けられます。
しかし、時代は変わりました。削減の時代から積み上げの時代へ。経営者は時代の流れを読み、付加価値額を自ら積み上げなければ、人時生産性を高められなくなったのです。
「外」が変化したからです。大手も生き残りに必死になっています。あの企業が!という優良企業でさえリストラに余念がありません。
そんな時代に変わりました。「内」が従来どおりで問題がないはずはないのです。
納期に加えて、人時生産性向上の論点にしたがった現場作業のスケジュールを設定する必要があります。
人時生産性を高める具体項目を作業者に示さないと現場も何をすべきか分かりません。分からなければ、自分勝手になります。
現場が悪いのではなく、人時生産性を高める具体項目を指示しないことが悪いのです。
小売業にはLSP(Labor Scheduling Program)がります。作業割当計画です。誰が、いつからいつまで、どんな作業をどれくらい行うかを明らかにします。
店員の適材適所、最適配置を図り、人件費を増加させないで顧客サービスを高める小売業の具体策です。
小売業の現場は多様な業務の組み合わせです。店員はレジ打ち、品出し、商品受け入れ、伝票処理、等々各種業務をこなしています。
各自が好き勝手にやりたい業務をやっているようでは、顧客満足度を高められないのは明らかです。
チーム力が必要なのは製造業も小売業も同じです。チームで成果を出す仕事を作業者一人ひとりにきちんとやるよう求めます。判断基準は工数です。
こうした環境を整備して、「内」を現場に任せます。「外」に仕事場がある経営者はこうして現場を掌握すればいいのです。
・人時生産性を高める具体作業を現場へ明示
・作業者一人ひとりの仕事ぶりを把握
この2つで現場を回します。儲かる工場の経営者はロジックで人を動かすのです。これが仕組みで儲ける現場での正しい姿勢になります。この思考回路を現場へも植え付けたいのです。
モノづくりが高度化、複雑化している昨今、現場に求められるのは人時生産性を高める仕事のやり方であり、その仕組みづくりであるということです。
短時間でたくさん作れる技能の重要性は変わりませんが、それ以上に、生産性を高められる仕組みづくりはもっと大切なのです。「外」が変化しているので一層、そうなります。
個人の持つ技能は「×1」でしか成果を波及させられません。仕組みは「×メンバー数」で成果を波及させられるのです。
仕組みの重要性を理解している現場が生き残る所以がここにあります。
したがって、技能に明るいか否かは経営者に求められることの本質ではないのです。
当然、技能にも熟知していることにこしたことはありません。しかし、それ以上に重要なのは人時生産性を高める具体作業を示して、仕事ぶりを把握することなのです。
熱量を持って、ロジックで語れば現場は動きます。
そもそも、現場は経営者に技能の精通を期待していません。
求めているのは利益アップと給料アップ、特に後者です。大手と中小の現場で体感したことです。当り前と言えば、当たり前です。
先の経営者は現場に人時生産性のことを説き始めました。ただ闇雲にやってはダメです。いきなりでは現場も面食らいます。そのためのプロジェクトです。
新たなことは行動から入ります。ですからプロジェクトを継続し、やり切るお作法が欠かせません。貴社も同じではないですか?
次、成功するのは貴社です!
成長する現場は、人時生産性向上の具体作業に知恵を絞り成果を波及させて伸びていく。
停滞する現場は、似非職人が自分の作業に固執するので仕組みが定着せずに行き詰まる。