「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第247話 暇そうに見えなければならない理由とは?

「将来のことを考える時間が増えました。」

40人規模中小製造企業、経営者の言葉です。

 

その経営者は、2年前まで、現場実務に一定時間を割いていました。現場からの問い合わせに対応しなければ仕事が回りません。

ただ、社長業に専念できない状況を変えなければとも考えていた経営者です。

 

昨年、現場体制を大幅に見直しました。現場のことは現場に任せる体制です。その成果が徐々に出てきました。

その前からその企業ならではの種まきをしていた結果でもあります。今や、経営者の期待以上に現場が動いてくれるのです。

もともと外の活動を積極的にやっていた経営者ですが、その仕事ぶりに磨きがかかってきました。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

「いつも“時間がない”あなたに:欠乏の行動経済学」の著者である経済学が専門のセンディル・ムッライナタン氏と心理学が専門のエルダー・シャフィール氏は「欠乏」と「能力」について興味深い指摘をしています。

 

「欠乏」が心を占拠すると「処理能力」が落ちる。

 

処理能力とは認知能力や実行能力のことです。

認知能力は、問題解決、情報保持、論理的推論、実行能力は、計画立案、注意、衝動の抑制を指します。時間やお金が足りない状態は処理能力(認知能力、実行能力)を低下させると言うのです。

 

著者達はインドのサトウキビ農家を対象に、認知能力をはかるテストと実行能力をはかるテストをしました。そのサトウキビ農家では一回の収穫で年収の6割を一度に獲得しています。

収穫直後は多額のお金を手にするわけです。逆に収穫直前は経済的にかなり辛い状況です。一年の中で比較的貧乏な時期と裕福な時期があります。

 

研究チームは農家の人々に知能テストを収穫の前と後に受けてもらいました。

その結果、収穫前の成績は収穫後よりもずっと低いことが明らかになったのです。貧困生活の影響は知能指数が14下がるのと同じ程度であると判明しました。

知能指数が14下がるとは、一晩徹夜した後の状態やアルコール依存と同じです。同著では、お金の欠乏だけでなく、時間の欠乏でも同じ状況に至ると指摘をしています。

 

マルチタスクで時間を節約しようとする行為が危険な状態を招くということです。運転中の携帯電話や運転中の飲食が危険であることを思い浮かべれば腹落ちします。

消防員の死因で多いのが、交通事故でのシートベルト不着用だそうです。はやく目的地に着こうという思いに心が占拠されてしまい、重要なことが抜けてしまいます。

 

 

 

 

 

経営者の仕事は事業を成長発展させ会社を存続させることです。「外」と「将来」が社長業の対象です。成果が出るのに時間がかかります。答えのない問題を解くようなものです。

経験と知識、そして勘をフル回転させてロードマップを描き、儲かる工場経営、会社経営の大きなPDCAを回します。

 

工場経営と現場活動が両立しないのは明らかです。立ち位置と時間軸が全く異なります。連合艦隊司令長官が現場の軍曹と同じことで頭を悩ましているようでは戦いに勝てません。現場のことは現場に任せないと社長業はできないのです。

 

「外」と「将来」・・・・経営者の仕事

「内」と「現在」・・・・現場の仕事

 

経営者が「内」と「現在」の仕事に時間を割かれると、「時間の欠乏」に心が占拠されてしまいます。

「外」と「内」、「将来」と「現在」、両方の仕事を並行してやろうとするマルチタスクに陥ります。これは危険な状況を招くのです。

 

「現在」に引っ張られると、「将来」を忘れます。「内」に気を取られるうちに、「外」が疎かになります。

これがなぜ危険な状況なのか?

当面は問題にならないからです。ただし、問題が認識されると、その時点で挽回は難しくなっています。

「外」と「将来」とはそういう類のテーマです。日々に流されるとそうなってしまします。ゆでガエル状態です。

 

マルチタスクをやろうとして、経営者は処理能力を落とします。時間の欠乏は、経営者が最も避けなければならないことです。

 

 

 

 

 

「外」と「将来」に対して的確な判断ができない企業は生き残れません。一度でも肌感覚で理解すると腹落ちするはすです。

「外」と「将来」に専念し、先手必勝を常としている経営者は「内」と「現在」に引っ張られると不安を感じます。当然のことですが、社長業に専念する環境整備をきちんとやる必要があります。

 

経営者には経営者の仕事、現場には現場の仕事があります。チームを機能させる分担です。そうして、各々がその役割を果たします。

経営者の役割は成長発展のためにあらゆる手を打つこと

現場の役割は「外」と「将来」に向けて仕事をしている経営者を支援すること

 

そして、利益アップと給料アップでいい会社にすることへ貢献する。これはチームの使命です。使命のために役割を果たします。

 

「現場ですったもんだが起きるのは、社長が問題を解決してくれないからだ。」

もし現場からこんな声が聞こえるなら、振り返る必要があります。現場は経営者の鏡です。経営者の仕事を理解している現場からはこんな声は聞こえてきません。環境整備が必要です。

 

 

 

 

 

ただ闇雲に経営者の仕事のやり方を変えようとしても失敗します。社長業に専念するにも、現場が機能しているのが前提だからです。

人時生産性で現状を把握し、プロジェクトで小さなPDCAを回す。社長業に専念する環境整備には手順があります。急ぐところは急ぎ、じっくりやるところは腰を据えます。

 

貧すれば鈍する。

中小製造企業の経営者が最も避けなければならないのは「時間の欠乏」です。処理能力が落ちます。適切な判断ができません。

機会も失うことでしょう。幸運の女神には、前髪しかありません。瞬間、瞬間で判断するのが中小製造経営者の強みです。

したがって、経営者は一見、暇そうに見えなければなりません。現場と一緒になってバタバタしているようでは、将来の話どころではないのは明らかです。

ご自身の姿を現場に問うてはいかがでしょうか?

 

先の企業では経営者が社長業に専念し始めました。現場が素晴らしく機能しているからです。辛かった時期を乗り越え、まさに今、Ⅴ字回復、上昇中です。

プラスのスパイラルに入りました。仕事のステージが高まったのを実感できます。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、経営者の仕事は「外」と「将来」であることを理解して支援する。

停滞する現場は、現場の問題が解決しないのは社長がやってくれないからと考える。