「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第248話 具体成果を短時間で出したいときの留意点は?

「時間をかけて現場を少しずつ変えていきます。」

130人規模産業装置メーカー経営者の言葉です。

 

社長業に専念するための環境整備についてご相談をいただきました。その企業では、経営者が自ら実務の指示も出しています。そして、このやり方では問題があると感じていました。

現場で発生するトラブルにも経営者が対応しなければなりません。将来投資を考える時間が食われます。このままでは成長も頭打ちです。現場を変えなければなりません。

冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

しばしば言われることですが、大手は仕組みで現場を動かしています。一方、中小は経営者や幹部が現場を動かします。

どちらがイイとか悪いとかということではありません。組織の規模に従うと自然にそうなります。大手はその規模故、そもそも仕組みがないと回らないのです。

 

中小で100人前後の規模までなら、経営者や幹部が声を大にすれば意図を伝えられます。柔軟性や機動性、小回り性は少数精鋭だからこその強みです。

しかし、この強みは両刃の剣。現場がモノをつくるだけの組織やチームになってしまう恐れもあります。経営者や幹部が指示を出さない限り動きません。納期遵守だけの現場です。

 

経営者や幹部が声を出さないと人時生産性が高まりません。経営者は社長業に専念できない状況が続きます。先の経営者がそうです。

中小の規模で事業のステージを高めたいと考えるが故に直面する問題です。

 

 

 

 

 

先の経営者は、現場の自発性を促すのにボトムアップが必要だと考えています。現場が自ら動き出すよう、トップダウンを改め、口出しを控えた方がいいとも考えているようです。

そこで次のようにお伝えしました。

「トップダウンを変えてはダメです。方針や計画、目的をこれまで以上にドンドン伝えないといけません。フォローと評価も強化する必要がありそうです。」

 

言わないとやらない指示待ちの姿勢を変えなければなりません。だからと言ってボトムアップに期待してはダメです。現場改革はトップダウンしかありません。

 

工場経営は経営者の想いを、他人を通じて実現させるものです。経営者が全てです。その経営者が黙って、現場が動き出すのを待っていては、いつまでたってもチームは機能しません。

監督のいない野球チーム、ヘッドコーチのいないバスケットボールチームのようなものです。現場改革の取り組みにおいて、経営者は口出しをやめてはなりません。

 

口出しする対象を変えます。トップダウンを再定義するのです。

・業務の指示はやめる。

・方針や計画、目的をドンドン伝える。

・フォローと評価を強化する。

経営者は、新たに定義したトップダウンを実践します。現場改革でトップダウンは絶対です。ボトムアップに期待するなどと言う甘えはありません。正しいトップダウンが現場を動かします。

 

 

 

現場改革にはいくつかの論点があります。この論点を現場へ伝える手段がプロジェクトです。プロジェクトを実践しながら現場を変え、人時生産性を6,000円、7,000円へ高められる体制をつくります。

論点の一つが「時間軸の共有」です。経営者と現場が持つ時間軸は異なっているからです。このギャップを埋めないまま、プロジェクトに着手しても頓挫します。

 

繰り返し申し上げていますが、経営者と現場の時間軸は違って当然なのです。

経営者の仕事は将来を対象にしています。一方、作業者の業務は現在を対象にしています。経営者は5年後、10年後を目指して先手を打ち、現場は今のために手を打つのです。

 

また、現場活動の進め方に関して、経営者の時間感覚と現場のそれが異なったりもします。

例えば、管理者育成の時間軸で食い違いがあったことがあります。具体的には、次世代工場長を担う人材の育成プログラムについてです。

経営者は1年あればできると期待していたのですが、当事者は経営者と違う反応を示しました。「それは難しい。やったことはないし、2年くらい試行錯誤しないと・・・」。

 

経営者は具体成果を求めます。せっかちになることもあるようです。それが生き残りに必要な条件であるなら、そのように現場へ伝えなければなりません。時間軸を自分に合わせるよう指示します。

必要なのは「なぜできないのだ?」という問いかけではなく、「これはその時間軸でやらなければならないのだ。力を貸して欲しい。」という説明です。

現場が自分と同じ時間軸を持っていると思い込んではいけません。その時間軸が必要なら、その理由を語る必要があります。

短時間で具体成果を出したいのなら、その”せっかちな”時間軸の必要性を現場へ説くのです。現場をロジックで動かします。

 

 

 

 

 

先の経営者は時間をかけながら現場を変えたいと考えました。今までいろいろやって上手くいかなかった事実を踏まえることにしたのです。

経営者として近視眼的だったことを反省した結果です。これまではやればすぐできるだろうという姿勢で現場に指示をしていました。

 

その結果、現場はできないことをできないと、正直に意思表示しなくなったのです。自らの言動が遠因であると気付いたようです。そこで、時間軸を変えました。

・一気呵成に進めること。

・じっくり腰を据えて進めること。

これらを見極めることも大事です。経営者が焦っても、できないことはできません。現場の状況を見極めて、時間軸の共有をきちんとやります。

 

生き残りのために”せっかちな”時間軸が必要な場合があるかもしれません。それならそれで、現場に腹落ちさせてから、火事場の馬鹿力に期待するのです。

最適な時間軸の選択は現場改革をやり切る論点のひとつです。

 

 

 

 

 

年齢を重ねるほどに1年間がアッという間に過ぎる感じがしませんか?ジャネーの法則で説明できます。「主観的に記憶される年月の長さは年少者にはより長く、年長者にはより短く感じられる」という現象を心理学的に説明したものです。

 

例えば、60歳のベテランにとって一年の長さは人生の60分の1ほどですが、20歳の若手にとっては20分の1に相当します。つまり、60歳の人の3年経過の感覚は、20歳の人の1年経過の感覚に当たるというのです。

 

ジャネーの法則に従うと、ベテランに「3ヶ月程度でできるよな」と言われた若手は1ヶ月程度でやれと言われた感覚になりそうです。ベテランと若手では経験値に差があります。

 

人は新しいことをやっているとき、それが強く意識に残ります。その結果、時間が長く感じます。反対に、慣れてしまうと時間の長さが気にならなくなります。それで、あっという間に時が過ぎたように感じるのです。

 

あらゆることを経験している経営者とこれから新たなことに挑戦する若手との時間軸の違いはジャネーの法則の要点とダブります。

現場が経営者と同じ時間軸を持てないのは、経験の有無に起因した時間感覚単位の違いにあるのかもしれません。

 

だからこそ、経営者はその時間軸が必要な理由をきちんと説明する必要があります。

そして時間軸を共有する道具がロードマップです。プロジェクトは計画次第であるとお伝えしている所以がここにあります。

 

 

 

 

 

現場改革はトップダウンです。方針や計画、目的をしっかり伝え、フォローと評価で口出しします。そして、時間軸の共有です。

ロードマップで時間軸を共有します。経営者と現場の時間軸には差異があることを忘れてはいけません。

間違ってもボトムアップで時間軸を決めようとしないことです。プロジェクトの判断基準が「できるか?できないか?」になってしまいます。生き残るための条件になっていません。

 

現場改革では取り組みの成果を計る人時生産性の設定も大切です。フィードバック抜きの現場改革は頓挫します。闇雲にプロジェクトを進めても長続きしないのです。

先の企業では時間軸を共有するためのローダーマップづくりから始めることにしました。人時生産性の設定からです。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、経営者のトップダウンに応え時間軸を共有してできないことに挑戦する。

停滞する現場は、言わないとやらない指示待ち姿勢なので納期遵守以外の成果が出ない。