「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第253話 ロードマップで現場へ伝えたい2つのこととは?
「現場でたばこを吸うのはどんなものでしょうか?」
ご支援先企業、プロジェクトリーダーの言葉です。
今月から新たなプロジェクトをスタートさせた現場です。
プロジェクトを小さなPDCAで始めることがあります。現場からテーマを上げてもらいました。上がってきたひとつが「現場でたばこを吸ってもイイのかどうか?」です。
「作業者が吸いたいというなら、吸ってもイイのではないですか。」と私は答えました。そのリーダーは何か言いたいという表情をしています。そこで、さらに言葉を重ねました。
「工場にはお客様も足を運びますよね。その視点で考えるとどうでしょう。」
プロジェクトリーダーの表情が「それそれ」という風に変わりました。気にしていたのは工場見学に来てくれるお客様のことです。
こうしたことにも気が付くリーダーです。経営者の右腕役を担っています。自分達で喫煙の問題も解決できないことにいら立ちながら、口にしたのが冒頭の言葉です。そのプロジェクトリーダーは現場の一体感がイマイチだ、とも感じています。
現場でたばこを吸う是非を、道徳や社会的通念で考えても構いません。ただ、もっと大事な論点があります。儲かる工場経営に貢献してくれるかどうかです。
工場見学にきてくれたお客様が製造設備の前で喫煙している作業者の姿を目にしたらどう感じるか?これを議論すれば結論が出ます。
お客様に選ばれなければどうしようもないのが私たちの商売です。このことを知っていれば判断基準は明らかです。
現場は自分たちの問題に自ら結論を出せますか?
経営者がいちいち口を出さないとだめだ・・・これは何かが足りていない証拠です。判断基準がありません。プロジェクトリーダーが苦労します。
先の企業でも、何かが足りないので喫煙の是非さえも、結論を出せずに曖昧なまま、放置されてきました。いわんや他のことにおいておやです。一事が万事かもしれません。
「現場でたばこを吸ってもイイのかどうか?」この問い自体は、それほど大きな問題ではありません。この問いに自ら結論を出せない現場に問題があると言いたいのです。
・課題を解決する時の着眼点が明らかにされていない。
・課題を解決する時の判断基準がはっきりしていない。
これらが欠けています。自ら結論を出せない現場が悪いのではありません。考えるのに必要な手がかりを与えていない経営者に落ち度があります。
「現場はなぜ考えようとしないのだ。」を問う前に、振り返っていただきたいことです。私たち経営者は常に「わが身を振り返れ!」です。
儲かる工場経営の要諦はお客様に選ばれる製品を効率よくつくることです。しかし、簡単なことではありません。工場経営の本質は他人を通じて経営者の想いを実現させることにあるからです。他人が主役になります。
だからと言って、あれこれやるのに、いちいち説明しないと動けない、考えられない現場では問題です。経営者が社長業に専念できません。
貴社チームの価値観を共有する道具が必要です。経営計画、方針書、ロードマップが必要とされる所以です。
技術革新や競合との戦に勝つには一糸乱れぬ体制が必要です。中小製造企業は多くても従業員数300人以下、大手のような数千、数万という大規模編成オーケストラではありません。
100人規模、50規模、30人規模の少数精鋭、室内管弦楽団です。したがって、柔軟性、小回り性、機動性は抜群です。即興性を発揮できれば、大手を凌駕できます。
しかし、少数精鋭なので、揃っていないベクトルがあると合力への影響は大手より大です。ベクトルが揃っていない少数精鋭は悲惨な状況になります。
こうした現場に共通した事実があります。経営計画書や方針書の類がないということです。事業の成長発展を目指すなら、規模の大小にかかわらず「作戦書」がなければだめです。規模が小さいので不要だと考えているようでは、現場は報われません。
これは大手と中小での実務を通じて実感したことです。価値観が共有できない現場を導く辛さは、それを体感した人でないと分かりません。
そうした状況を回避して欲しいとの思いで、日々、挑戦する経営者の後押し精一杯させていただいております。
辛い経験は2種類あります。
・価値の創造につながる辛い経験
・消耗するだけの辛い経験
作業者、特に意欲的な若手にとって、ベクトルの揃っていない現場での経験は後者です。経営者にはそのことを知っていただきたいです。
経営者はこの状況を放置してはいけません。貴社チームの価値観を共有する道具が必要です。経営計画、方針書、ロードマップです。
これらを使っていますか?生かしていますか?生かさないと「現場でたばこを吸ってもイイのかどうか?」ということすら自ら決められない現場になってしまいます。
経営者がいちいち指示をしなければなりません。そうでないと、作業者の勝手な判断基準が放置された状況が続きます。そうして、若手は意欲を消耗していくのです。
現場が自立して考え、行動できる環境を整備するために経営計画、方針書、ロードマップを使い倒します。
経営計画、方針書、ロードマップを使い、現場に伝えたい2つのことがあります。体系と流れです。
・体系
・流れ
儲かる工場経営は工学であり科学です。儲かるにも因果関係があります。
固定費VS付加価値額。
付加価値額規模と付加価値額率。
人時生産性の分母と分子。
リードタイム短縮等など。
やみくもに現場活動をやってもダメです。
「体系の話」
まずは森と木の設定です。森を設計してから、木を植えます。木ばかり指示しても現場は動けません。
例えば、生産管理3本柱のひとつは品質管理です。品質管理は2つから構成されます。品質つくり込み体制と品質原価。いわゆる危機管理体制です。リスク管理から一歩前進させた少数精鋭向きの体制です。こが森の構造になります。現場にはこの構造を教えます。
さらに、前者の品質つくり込み体制を構成する木々はDRや工程能力指数、試作などいろいろです。これらを連携、連動させます。単独で個別にしこしこやっても成果は限定的です。
森の構造を明らかにして木を植えます。この構造を明らかにすることです。成果を出す現場活動に欠かせません。この構造を「体系」と言います。論点を提供してくれるものです。
森と木の構造、つまり体系を示して、人時生産性を高める具体項目を現場へ伝えます。そして、その体系を設計できるのは社長しかいません。社長の意図や意思、そのものだからです。
人時生産性向上の論点をロードマップで説明します。ここが体系の核です。儲かるための体系が作戦書、設計図に書かれています。
お客様に選ばれなければ儲かりません。そのためにどうするのか?具体項目のひとつが工場見学など、お客様への働きかけです。
付加価値額を支払ってくれるのはお客様であり、そのお客様に選ばれるにはどうしなければならないか?木々からの問いかけがあります。体系があれば論点が明らかになるのです。
経営者がいちいち言わなくても、体系を知っている現場は自ら考えられます。
「流れの話」
体系に基づき、流れをつくります。私たちは現場で流れづくりに汗をかいているのです。生産の流れ、情報の流れ、モノの流れ等。現場にはいろいろな流れがあります。
儲かるためには、あらゆる流れをコントロールできるようにしなければなりません。多品種少量生産、変種変量生産で求められるのはリードタイム短縮だからです。
突発・特急など、お客様からのわがままとも言える要望へ応えます。一糸乱れぬ体制でこなしていくのです。規律にしたがって仕事をするチームです。
ルールを作り、それを守れる仲間です。判断基準が明らかなので安心して仕事ができます。若手も意欲やエネルギーを消耗しません。
価値観を共有することになるので、現場では、信頼関係が自ずと醸成されます。流れをつくるとは判断基準を明らかにして価値観を共有することに他ならないのです。
流れを遮るものがあっては儲かりません。
現場でたばこを吸ってもイイのかどうか?
「安全衛生の観点で考えることも大事だけれども、我々の判断基準はお客様に選ばれることだ。そうであるなら・・」という思考回路を現場に持ってもらいたいわけです。
規律や判断基準、価値観がキーワードになります。流れづくりは仕組みづくりです。手順書が成果物です。
貴社の体系と流れをつくって、経営者の考えを現場へ伝えます。ロードマップとは儲かる工場経営の体系と流れを示すものです。
体系と流れがあるので具体→抽象→具体の思考ができます。そして、具体→抽象→具体の思考が現場の意思決定を後押ししてくれるのです。
ロードマップで示された体系と流れで抽象的な思考の訓練を促せます。体系で論点が明らかになり、流れで判断基準がはっきりするから決断できるのです。
体系と流れがなければ、論点も判断基準も持たないことになります。具体→抽象→具体ではなく、具体→具体の思考回路です。見たままを見たまま判断します。判断基準が自分です。
現場でたばこを吸ってもイイのかどうか?を考える際、安全衛生上よければかまわないだろう、人に迷惑さえかけなければ問題ないという、表面上のことしか頭に浮かびません。
お客様に選ばれるには?という判断基準が抜けます。成長したい気持ちを持った若手には物足りない職場です。意欲的な若手は挑戦したいと考えています。
意欲的な若手の気持ちを知っているので、ここは強調したいです。
ただ、やみくもに体系と流れをつくろうとしても失敗します。緊急性が低いテーマだからです。多忙な経営者が一人で作ろうとしてもできません。
チームでつくります。だからプロジェクトです。ベテランの力を借りるのも手です。若手を抜擢してもいいでしょう。外部の力を借りるという選択もあります。
「そうしたことを現場へ伝えていなかったです。」とは先のリーダーの言葉。現場にお客様視点を入れようとしています。経営者の方針書にしたがって、現場での体系と流れをつくる予定です。
次は貴社の番です!
成長する現場は、体系で論点を、流れで判断基準を設定し、具体→抽象→具体で儲ける。
停滞する現場は、判断基準がないので、自分勝手な具体→具体の思考に留まり儲からない。