「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第256話 意思や意図の言語化、数値化をしているか?

「現場の係長が若手へ配慮してくれるようになりました。」

中堅製造企業、プロジェクトリーダーの言葉です。

 

各職場の若手がプロジェクトメンバーに抜擢されました。若手は定期的に現場を離れることになります。打ち合わせのためです。

今まで、こうしたことをやったことがありません。当初、若手の上司にあたる係長からの反応は「現場を離れて何をやっているのだ?」というものでした。

目的は伝えられているけど、なんとも納得できないという感じを多くの係長が持っていたようです。その係長の姿勢が変わってきました。

 

 

 

 

 

ご支援している企業の現場に共通して言えることがあります。どんな現場にも納期遵守の意識はあるということです。

新人でもこれを理解しています。会社規模の大小、仕組みの有無、当事者意識の高低に関わりません。

 

時間を守れないビジネスマンは・・・と一般的に言われます。したがって、納期遵守は特別に教えなくても身につく思考回路なのかもしれません。

商売に携わるのなら、社会通念上、当然であるということです。

 

ただ、納期遵守の思考回路しか持てない製造現場は要注意です。納期を守ることが仕事だと考えるようになるからです。

この考え方は「納期さえ守っていれば問題ない」という思考へ至ります。このままでは多くの問題に直面することになるのです。生き残りをかけた競合との戦いに勝てません。

 

 

 

 

 

私達、中小製造企業は第4次産業革命と言われる技術進化の真っ只中にいます。時代の流れが大きく変わりつつある昨今です。

競合も生き残りに必死です。競合も納期遵守はやっています。今や納期遵守だけを訴えてもお客様に選ばれることはありません。

 

競合と同じことをやっていても儲からないのは商売の基本です。「納期さえ守っていれば問題ない」と思い込んでいる現場の思考回路を変える必要があります。

 

付加価値額積み上げの意識を共有する必要があります。削減から積み上げの時代です。納期遵守だけでは生き残れません。経営者はそのことを現場へ伝える必要があります。

納期遵守以外に、やらなければならないことがあるのです。生産性向上、具体的にはリードタイム短縮活動。人時生産性を高めます。利益アップと給料アップを実現させる数値です。

 

 

 

納期を守る仕事振りは、概ね見て分ります。

・手を一生懸命に動かす。

・設備の稼働状況を監視する。

・段取りに取りかかる。

・フォークリフトで製品を運搬する。

・原材料を取りに行く。

 

全て、いわゆる緊急度が高い仕事です。(その動作自体、価値を生んでいるかどうかはべつとして)それをやらないと納期に遅れます。

したがって、納期遵守が自分達の仕事だと思い込んでいる現場では「作業をしていない=仕事をしていない」となりがちです。先の現場でもそうでした。

 

プロジェクトメンバーに選ばれた若手が打ち合わせのために現場から1時間程、抜けることがあります。これまでこうした取り組みをしていなかった現場です。

現場の係長は「仕事を止めてまでやる必要があるのか?」という気持ちになります。頭でわかっていても、肌感覚的には致し方がないことです。

 

それだけに、プロジェクトメンバーに選ばれた若手の上司には成果や今後の計画をしっかり伝えなければなりません(若手にはそうしてもらっています)。納期遵守以外にもやらなければならないことがあります。全員にこのことを理解してもらうのです。

ここはじっくりやらなければいけません。

 

一方、リードタイムを短くして、人時生産性を高めるという生産業務”以外“の仕事振りは、見ても分りません。

・う~ん、と唸りながら知恵を出す。

・新たなプログラミングを検討する。

・アイデア出しのため現場を離れてワイガヤをやる。

・現場で状況を調査する。

・データを分析する。

 

「パソコンの前に座って何をさぼっているのだ。」現場のベテラン作業者から、こんな声を実際に聴いたことがあります。

いわゆる緊急度は低い仕事です。一見するとさぼっているよう見えます。上司の理解がなければできません。

納期遵守以外の論点を伝えるのは経営者の仕事です。

 

 

 

 

 

弊社のご支援はプロジェクト形式をとります。プロジェクトには目的、ゴールの設定が必要です。共通の目標や目的がないとチームは機能しません。

そして、経営者の意思や意図が目標や目的に込められます。つまり、経営課題です。重要度は高いけれども緊急度が低いテーマばかりです。

 

今やらないからと言って、すぐに困ることはありません。しかし、問題として認識されたら、その時点でジエンドになることが多いのもこの類いの課題です。

先手必勝、事が起きる前の行動、危機管理。リードタイム短縮活動、人時生産性を高める活動はそうしたテーマなのです。経営者が伝えない限り、現場は知る由もありません。

 

リードタイム短縮による人時生産性向上は納期遵守と本質的に違う点があります。力尽くではできないということです。仕組みで達成します。将来の人時生産を高める活動です。

 

重要度が高いのが分っていても、緊急度が低い仕事は継続しがたいものです。だからこそプロジェクトでやるのです。

こうした仕事が、現場丸投げで進んだことを見たことはありません。経営者が先頭に立たなければならない所以です。

 

納期遵守

重要度も緊急度も高い仕事→力尽くでもできる→現場もすぐにやる

 

人時生産性向上

重要度は高いが緊急度は低い仕事→力尽くではできない→経営者が主導する

 

 

 

 

 

先の現場では自主的な現場活動をやったことがありません。納期遵守以外の論点に触れたことがない現場です。多くの人達、特にキーパーソンに、納期遵守以外の論点を知ってもらわなければなりません。

 

プロジェクトでは、従来と異なる観点が求められます。新たな観点を共有できないとベクトルが揃いません。環境整備が必要な所以です。

そこで絶対にやらなければならないことがあります。

 

経営者の意思や意図の言語化、数値化です。

貴社ではこれができていますか?納期遵守以外の論点とはそういうことです。納期遵守以外の取り組みと経営者の意思や意図の言語化、数値化はセットになっています。

 

経営者の意思や意図の言語化、数値化は簡単にできないかもしれません。競合との対応軸を立てることは容易ではないからです。

外部の知見を取り入れることも具体策のひとつです。弊社では挑戦する経営者の支援をさせていただいています。

 

先の企業では、プロジェクトリーダーやメンバーにあえて若手を起用しています。若手が上司である係長に働き掛ける構図です。これは経営者の意向です。

将来投資に焦点を当てたユニークなプロジェクトになりそうです。現場のキーパーソンである係長の協力を引き出しやすい雰囲気に変わりつつあります。

ベクトルが揃えば取り組みは加速します。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、緊急度が低い現場活動を自ら継続させ将来の人時生産性を高める。

停滞する現場は、緊急度が高い納期遵守しか知らないので人時生産性が高まらない。