「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第257話 儲かる価格の判断基準があるか?
「儲かるかどうか分らないとダメですね。」
環境設備メーカー経営者の言葉です。
主要なお客様との信頼関係のお陰で安定した受注が確保できています。ただ、それにあぐらをかいているわけにはいきません。
地域には競合も多数なのです。新規受注では価格競争になることもあります。「そんな価格でもうかるのか?」という低価格で受注を狙う競合も出てきたようです。
競合との価格競争だけでは疲弊すると考えた経営者は数年前から自主商品の開発に着手していました。近いうちに上市を計画しています。
ただ、ここで問題に直面しました。儲かる価格をどうやって決めるか?そのやり方がはっきりしないのです。これまでは市場価格をベースに経験的に価格を決めていました。
「儲かる価格」という考え方をしたことがありません。価格競争を回避するために手塩をかけた商品です。儲けをとりにいきます。
儲かる価格を設定するとき、やらなければならないことがあります。コスト(原価)を知ることです。これ抜きに儲かる価格は設定できません。
弊社のセミナーである経営者が「ウチの製品は顧客から価格が指定されているからコストを知ってもあまり役に立たないと思うのですが・・・。」と語っていました。
・価格の決定権をお客様に握られていること。
・自社製品のコスト(原価)を把握すること。
後者は経営判断のためにあります。価格の決定権を握られているからと言って、それがコスト把握不要の理由にはなりません。
価格の決定権を握られているうえに儲からないのであれば、ますます、コスト把握は大切です。下記の経営判断をしなければならないからです。
1)価格アップの交渉に臨む。
2)コストを削減する。
3)その製品(商品)をあきらめて、市場を変える。
どれを選択するにしても判断基準が必要です。
製造業では、経営者自ら設計した付加価値額を確実に積み上げられる事業モデルが理想となります。収益構造は固定費VS付加価値額だからです。
固定費を将来投資と考えます。経営者はその回収に余念がありません。中小製造企業でも「生殺与奪の権を他人に握られない」ことを目指さなければならないとたびたび申し上げる所以です。コスト把握は儲かる価格設定につながります。
一方で、その重要性を知っていても、なかなかできていないのもコスト(原価)評価です。やり方は世の中の解説本に詳しく書いてあります。それでも継続できません。私も自動車部品工場で勤務していたときがそうでした。
そうであるなら継続できるやり方を探るだけです。転職先の現場管理者時代にそれを実践しました。要はコスト(原価)評価の目的です。
私たちはコスト(原価)の専門家になるわけではありません。儲かればいいのです。もっと具体的に言えば、儲かる価格を設定できるようになればいいのです。継続できるやり方を探ります。
製造業では「製造原価報告書」が作成されます。これが製造業のコスト構造を示していることに間違いはありません。
・売上高-総原価=売上高-(製造原価+販管費)=営業利益
・製造原価=製造直接費+製造間接費
これはこれで正しいのですが、このままでは現場で活用できません。使いづらいのでシンプルにやります。
総原価を下記のように考えます。
総原価=製造原価+販管費
ではなく、
総原価=Σ(製品毎の変動費)+固定費
と考えてしまうのです。
製造原価と販管費を一旦シャッフルし、製品毎の変動費だけをピックアップします。変動費もシンプルに材料費と外注費の2つです。ご支援先企業でもこれで十分にやれています。
数値把握の容易性が要点です。あれこれ調べないとだめでは長続きしません。その点、材料費と外注費は特注品であっても規格品であっても簡単に把握できます。
まずは、製品1個当たり材料費や外注費(@材料費、@外注費)を知りたいのです。こうして把握できた変動費以外はすべて固定費に分類します。
したがって総原価の構造は下記です。
総原価=Σ(製品毎の変動費)+固定費
・材料費と外注費だけを製品毎に把握する。
・固定費は全社規模で把握する。
配賦不要です。シンプルさを優先します。配賦の考え方を否定するわけではありませんが、私たちがコスト分析するときの目的はただ一つ、儲かる価格を設定して、将来の見通しを立てることです。
しばしば言われることですが、どんなに精密で精緻な死亡診断書を作成しても死んだ人がよみがえることはありません。配賦不要と考える所以です。
コスト把握では、製品毎の変動費、および全社の固定費の2つを明らかにします。私たちが知りたいのは儲かる価格の構造です。これなら少数精鋭の中小製造企業でもできます。
・製品毎の材料費と外注費
・全社の固定費
製造業のコスト把握はこの2つです。製品の儲けとは単価から@材料費と@外注費を引いたものです。付加価値額の定義によります。
そして、製品1個当たり付加価値額(@付加価値額)を全製品にわたって足し合わせた付加価値額の合計と全社の固定費を比べるのです。
Σ@付加価値額-固定費=営業利益
将来投資の固定費を付加価値額で回収する構造になっています。この式が製造業での収益構造です。儲かる価格かどうかを判断する基準はこの式から導きます。
そして、この式に要素を1つ加えます。
加える要素は「工数」です。
原材料を仕入れたのち、加工をして価値を生み出すのが製造業です。商品そのものを仕入れで粗利を手にする小売業、卸業と違います。
製造業では粗利(付加価値額)を生み出す「加工」のために工数を投入するのです。したがって、投入された工数の多寡も儲けの判断基準に加えなければなりません。
すると工数を加味した2つの判断基準が浮かびます。
・経営者が設定した年間固定費÷直接員の年間総工数
・経営者がもくろむ営業利益を積み上げた年間付加価値額÷直接員の年間総工数
これらは一般的にレート(賃率)と言われます。
・前者がトントンレート
・後者が儲かるレート
儲かるかどうかは、この2つのレートと製品別人時生産性を比べればいいのです。見積もりでの製品別人時生産性なら、見積もりでの儲けの有無、生産後での製品別人時生産性なら、生産後での儲けの有無を判断できます。
製品別人時生産性の各レートとの大小関係は3パターンです。
- トントンレート以下
- トントンレート以上、儲かるレート以上
- 儲かるレート以上
なるほど、これなら客観的に判断できますとは先の経営者の言葉。
期待の自主開発商品です。新たな商品群なので価格設定の指導権を握れるかもしれません。生殺与奪の権を自ら握ります。その目安が見えてきました。
製造業で儲けようとするなら、生産活動前にもっと焦点を当てることです。生産活動前にコストの大部分が決まります。少数精鋭の中小製造現場は、もっともっと、値決めにこだわらないといけません。
ただ、闇雲にコスト分析を進めてダメです。比較対象がなければ数値の妥当性を評価できません。外部の情報に触れる必要があります。外部の力も生かすことです。時間を買えます。
儲かる工場経営を実践する経営者は社長業に専念しています。現場のことは現場に任せないとそうできません。経営者の現場に対する仕事はフォローと評価です。トントンレートや儲かるレートはそのための評価ツールです。
したがって、これからの現場では問題発見能力、課題設定能力が求められます。経営者の評価を機会に自ら現場を変える力です。チームで身に着けたいのは問題解決能力よりも問題発見能力と言えます。
「ウチには問題はありません。」と言っている現場のキーパーソンがいたら指導しなければなりません。トントンレートや儲かるレートによる評価もスルーするからです。
儲かる工場経営の体系は経営者の地道な取り組みの結果できあがるものです。弊社は挑戦する経営者を力一杯支援しております。
次は貴社の番です!
成長する現場は、トントンレートと儲かるレートを知って儲かる値決めを実践できる。
停滞する現場は、価格の決定権がないからとコストも把握せず儲けの有無も分からない。