「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第262話 固変収益推移の初手、全てはここから
「他にも変動費がありました。」
50人規模板金加工メーカー、経営者の言葉です。
ここ数年で売り上げを倍増させました。従業員数も20人から30人、40人と拡大させた経営者です。事業規模を拡大させながらも営業利益は確保しています。
しかし、ぬぐい切れない疑問があるのです。今の従業員規模でどこまで工場を稼働させるのが正しいのか?「我々は、今、どこまでやれるのか?」ということです。
意欲的な経営者はこうした疑問を抱きます。常に上のステージを狙っているからです。
そこで、固変収益推移を明らかにします。知りたいのは固定費vs付加価値額の構造と人時性生産性です。これらがわかれば疑問が氷解します。
固変収益推移の初手は変動費の定義です。
変動費は原則2つ、材料費と外注費で計算します。しかし、場合によっては、それ以外の費目を取り上げることもあります。先の企業がそうです。
付加価値額の定義は2通りあります。
1)付加価値額=労務費+減価償却費(以上製造原価より)+人件費+地代家賃+減価償却費+従業員教育費+租税公課(以上販管費)+支払利息割引率+経常利益
2)付加価値額=売上高-変動費
前者は積上法(加算法)、後者は控除法と言われています。どちらも意味することは実質的に同じです。「儲け」を計算しています。計算ルートが異なるだけです。
「儲け」で固定費を回収し、利益を生み出します。
弊社は後者を使っています。したがって変動費の定義が大切です。変動費は原則、材料費と外注費の2つに絞っています。なぜか?現場でもすぐに計算できるからです。
会計の専門家にいわせると厳密性に欠けると言われるかもしれませんが、問題はありません。私たちが知りたいのは「変化」だからです。精度の高い絶対値ではありません。
自社に適した定義を決め、それに基づいて変化を把握します。
変動費は生産数量に比例して増える費用です。生産すれば生産するほどに増える費用になります。生産活動と紐づいた費用です。
すぐに材料費と外注費が浮かびと思います。これらの数値把握は難しくはないでしょう。最終的には製品1個当たりの費用を把握しなければなりませんが、これもすぐに計算できます。
材料費なら下記です。
・原単位×レート
原単位:製品1個当たりの材料、部品使用量
レート:材料、部品の単位量当たりの価格
機械的に算出できます。要点は原単位とレートの2つのデータから構成されていることです。したがって、@材料費(@は製品1個あたりという意味)を計算するには原単位表とレート表の2つの表が必要になります。
一方、外注費は構造が単純です。多くの場合、外注費は1個当たり〇〇円で契約します。そのものずばりです。
このように、材料費と外注費の2つがわかれば、売上高ベースの付加価値額と単価ベースの付加価値額を計算できます。
ただし、これは原則です。業種業態に応じて考慮すべき項目があればそれを追加しなければなりません。変動費の本質を理解していることが大切です。
変動費とは生産数量に比例して増える費用、生産すれば生産するほどに増える費用です。厳密に定義すれば、これに当てはまる項目はまだまだあります。補材のなかにもそうした費目があるはずです。あるいは販管費やその他経費の中にもあるかもしれません。
それらを変動費として認識すべきかどうかの判断基準は2つです。
・生産活動との紐づき方の度合いと規模。
・経営者がコントロールできるどうかの度合い
生産数量に比例しているが、変動費全体に占める規模が小さければ、それらは全て固定費に含めても構いません。規模が小さければ、大勢に影響はないからです。
私たちが知りたいのは付加価値額の変化推移です。精度の高い絶対値ではありません。
変動費はあくまで「生産数量」に比例します。経営者が規模の多寡を決められません。経営者の意志や意図を反映させられる人件費や減価償却費と異なります。
生産活動との紐づき度合いが強く、規模も無視できず、その多寡を経営者がコントロールできないのであれば3つめの変動費として認識します。
先の企業は板金加工の他に生産した製品をお客様のところに据え付けることもやっています。製造部門の他に据付部門があるのです。
全国展開しているので、お客様は全国各地にいます。その結果、据付のための出張費がかさみます。宿泊費も無視できません。
生産数量が増えれば、自ずと据付業務も比例して増えます。据付業務が増えれば出張費が増える傾向にあるのは当然です。
したがって、先の企業では出張費も変動費に加えました。
これらのことは、固定費を検証したときに気付いたことです。
不自然に固定費が増えていました。
固定費は経営者がコントロールできる数値です。したがって、本来、不自然に増えることはありません。先の経営者も「なんだろう?」と首をかしげていました。
それが出張費だったのです。定義しなおして、改めて付加価値額の変化をみると、ここ数年の動きが自然に見えてきました。
事業の将来を見通すなら固定費VS付加価値額です。売上高や利益はあくまで2次的に把握する数値になります。このあたり誤った意思決定をしないための大切な論点です。
私が中小現場の管理者を担っていたとき、残業費は変動費に入れていました。黒字化プロジェクトの中でそう判断しました。残業なしで仕事をこなし、別の形で報酬をゲットしようと伝えたかったからです。
このように付加価値額の定義は恣意的でいいのです。経営者の目論見に沿って表現します。変化を知って的確な手を打つためです。
経営者の仕事は時代の流れや傾向を読んで儲かる事業モデルを作り続けることです。スクラップアンドビルド。判断基準は固定費vs付加価値額です。
製造業は固定費を先行投資して稼ぎます。付加価値額の積み上げが全てであると現場にも教えなければなりません。付加価値額や粗利の本質を理解させます。
具体的には変動費の定義からです。
儲けの本質を知らずして儲けようと思っても儲かるわけがありません。
儲けを定義して、儲けの規模を把握することが儲かる工場経営の初手です。儲かる工場経営を標榜するなら「儲け」を知らなければなりません。
貴社独自の付加価値額の定義です。全てはここからです。具体的には変動費の定義です。固変収益推移で変化を見える化します。
あらゆる業務には手順があるのです。
手順を意識して仕事を進めていますか?
貴社の付加価値額の定義はそれでいいですか?
人時生産性4,000円、5,000円、6,000円を目指して一緒に事業を成長させていきましょう。
次は貴社の番です!
成長する現場は、業種業態に沿った変動費を定義して付加価値額の変化を把握できている。
停滞する現場は、売上高しか把握できていないので儲かっているどうかを理解していない。