「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第263話 経営者が放置したら絶対にダメなこととは?
「ベテランが協力してくれないのですがどうしたらいいでしょうか?」
先日、ある講習会の講師の仕事を終えて、帰り支度をしていたときのことです。20代後半と思われる方に「ちょっとお話を伺ってもいいでしょうか?」と声を掛けられました。
現場で新しい仕事のやり方に挑戦しようとしているのだけれど、ベテランが協力してくれなくて困っているとのこと。表情を見ると、本当に困った顔しています。
こうした意欲的な若手を見ると、なんとかしてあげたいとの気持ちが止められなくなるものです。状況を知るためにいくつか質問をしました。その中のひとつが次です。
「社長はそのことについてどう言っていますか?」
意欲的な若手から、このようなSOSが届いたら皆さんはどうしますか?
どんな現場にも意欲的な人材がいる。生かすも殺すも経営者次第。
これは大手と中小の現場に、長年、身を置いて感じることです。
意欲的な人材がすでに現場で活躍している一方で、そうした思いを内に秘めた従業員もいます。現場に埋もれたダイヤの原石のような従業員もいるということです。
どちらの人材にせよ、こうした人材は現場の「宝」であることに間違いはありません。心意気があります。志があります。当事者意識が強く、使命感があるのです。
経営者は常に従業員とコミュニケーションを重ね、「宝」を発掘しなければなりません。埋もれている原石は掘り出さされない限り光り輝く機会を得ることはできないからです。
あるご支援先で、新たなプロジェクトきっかけにキラリと光る意欲的な姿勢を示してくれた従業員がいます。その女性従業員はその職場でのプロジェクト推進担当に抜擢されました。
当事者意識が強く使命感を抱いてくれる従業員は「宝」です。経営改革で現場を引っ張る経営者の頼もしい右腕役になります。そうした従業員を見極めることです。
当事者意識が高く、使命感を持った従業員を見極めるやり方を持っていますか?
まずはここからです。
意欲的な人材は自ら挑戦しようとします。「いい職場に変えたい。」と普通に考えるからです。この「普通に」考えるというところが貴重なのです。
経営者はこうした思考回路や意識を持った人材を大切にしなければなりません。当事者意識や使命感を持った人を「直接に」育てることはできないからです。
現場作業のスキルやノウハウ、仕事の進め方などは、知識や情報を通じて、直接に習得させることはできます。弊社が現場活動のご支援をするときのやり方です。
しかし、当事者意識や使命感はそう簡単ではありません。その人の生きざまにかかわるからです。これらは教えたからと言って「はいそうですか」とはなりません。
これを目的に人を育てようと考えるなら戦略が必要です。直接的に教えられないので間接的にアプローチします。時間を味方につけながら仕向けるしかありません。
当事者意識や使命感とはそうした類です。
したがって、そもそもそうした姿勢を持った人材は「宝」と言えます。
変えることを「普通に」考えられるのが意欲的な人材です。「これまで個々バラバラで仕事をしていたけど、新しいルールを使ってチームでやれば効率が高まる」と普通に考えます。
そして、職場の仲間も協力してくれるはずだと信じて行動をし始めます。成長する現場と停滞する現場の違いがここで如実に表れるのです。
成長する現場では意欲的な人材を支援するベテランが登場します。長年勤務して影響力を持つ人材が率先して変えることに挑戦するのです。職位の有無は関係ありません。変わるよう周囲にも促します。
ご支援先のひとつにこうした雰囲気の現場があります。そこではプロジェクトに着手してから3ケ月間でリードタイムを半減させました。こうした現場は成果を出すのも早いです。
変わる具体策を体得している現場は生き残る可能性も高まります。こうした現場では、意欲的な人材が力一杯仕事をやれる環境が整備されているのです。
意欲的な人材は、いい影響を周囲に波及させながら自らも成長し、将来、幹部になります。こうした環境整備は経営者の仕事です。
一方で真逆の現場もあります。先の若手の現場がそうです。ベテランが変わることを周囲に促すどころか、変化に対するボトルネックになっています。仕事のやり方を変えようとする意欲的な人材の足を引っ張るのです。
具体策を打たなければなりません。先の企業では、経営者から「これまでいろいろと頑張ってくれたベテランだから、なんとかうまくやっていこう」との言葉があったようです。
しかし、これはボトルネックをどうかしたいと考える若手のための解決策でもなんでもありません。答えになっていないのです。
収益に貢献してくれた実績と改革のボトルネックになっている事実とは、何も関係はありません。先の経営者に欠けている視点はここです。
そもそも、若手の困りごとに応えていません。ボトルネックを即刻排除しなければならないのは火をみるより明らかです。放置したらダメです。なぜか?
あることが起きる懸念が高くなるからです。先の現場がそうでした。
これまでも意欲的な若手がたびたび登場したようです(これだけでもスゴイことですが)。そうした人材が新しい仕事のやり方に変えようと現場へ働きかけてきました。
しかし、残念ながら、ボトルネックに疲弊する若手が続出したとのこと。会社を辞めた若手もいます。
経営者は状況を知っているのだろうか?自らの言動で「宝」を失っていることに気付いていないのか?質問をくれた若手の言葉を耳にしながらそう感じずにはいられませんでした。
経営者の皆様にお願いしたいことがあります。
意欲的な人材の後ろ盾となることです。それも意図的にやって欲しいのです。意図的とは、意欲的な人材が応援をしてもらっていると感じられるようにということです。
意欲的な人材はいい会社をつくりたいとの一念で、新しいことに挑戦しようとします。変えることを普通にできる貴社の「宝」です。
そうした「宝」が力一杯仕事できる環境を整備して欲しいのです。
まずは意欲的な人材の行動に気付いて下さい。そしてボトルネックがないか気にかけて下さい。ベテランがボトルネックになっていたら放置しないでください。
ただし、ここで留意すべきことがあります。ベテランも実は事情を知らなくて、今までのやり方でいいと思い込んでいるだけかもしれません。
こうした場合、経営者がベテランと膝を詰めて語ることです。現場は経営者が考えるほど経営者のことを理解していません。経営者が言ったつもりになっているだけの状況もあります。
だったらそれを解消します。
過去の収益に貢献してくれたことを労いつつ、今後は、生き残るために変わらなければならない現状を教えるのです。意欲的な若手のサポート役で貢献して欲しいことも伝えます。
経営者の語りに共感してくれるはずです。そうしてボトルネックを解消します。これは経営者にしかできないことです。若手が疲弊しないうちにやらなければなりません。
・意欲的な人材を見極める
・意欲的な人材にとってのボトルネックを認識する。
・ボトルネックがベテランなら経営者が語り状況を理解させる。
ボトルネックへの働きかけは即刻です。「宝」を失ってはなりません。
ただし、闇雲にやってはダメです。一撃必殺でなければならないからです。
めったにないことですが、経営者の意志や意図に反するベテランがいたら、それへの対応策を考える必要があるからです。そして、その状況を放置しないことです。
ボトルネックが解消されない状態を放置していると、現場へ誤ったメッセージを送ることになります。
「いやだったら、変わらなくてもいい。」
ボトルネックを放置することと、経営者が上記のメッセージを従業員へ発信していることは同じです。経営者が膝を詰めても状況が好転しない場合、貴社ではどうしますか?
ここまで一気通貫に考えなければダメです。そして、経営の手順を考えれば、ボトルネックへの具体対応は明確です。
貴社では不振事業があったらどうしますか?答えはそれと同じです。
・切り離す、分離する。(別会社、子会社化)
・なくする。(撤退、売却)
これと同じことをやればいいのです。経営者は言葉と行動で示します。言葉と行動で伝えることが大事です。それが全てです。
私は大手と転職先の中小の現場で、両方とも経験しました。振り返るとタイミングも重要でした。一撃必殺という所以です。
ある産業設備メーカーの経営者は「誤解をしているベテラン」に理解させ、喝を入れ、ボトルネックを解消しました。
半年かかりましたが、経営者の言動に信頼感を抱いた3名の中堅、若手チームが機能し始めています。プロジェクトの実務が少しずつですが進み始めました。
人時生産性向上の具体策はこれからです。
人時生産性向上活動で成果を出そうとするなら、手順があるということです。我流はやめた方がいいです。
そして、放置したらダメなことは、絶対に放置してはダメです。宝を生かすも失うも全ては経営者の言動次第であることを忘れはなりません。
現場は経営者の鏡です。
「あなたが悩む問題ではありませんよ。社長や部門長に状況を知ってもらってください。」
先の意欲的な若手にはこのように伝えました。この企業の経営者には気が付いてもらいたいものです。また「宝」を失いますよと。
今度は貴社の番です!!
成長する現場は、意欲的な若手をベテランがサポートしながら全員で変わり宝が光輝く。
停滞する現場は、ベテランが若手のボトルネックになりそれが放置されるので宝を失う。