「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第265話 工場長や管理者が育たない理由とは?

「工場長や管理者が育っていません。」

100人規模鋼材加工メーカー幹部の言葉です。加工メーカーと言うよりは原材料サプライヤーのポジションで事業を展開しています。

お客様の要求に応じた寸法切断が中心です。溶接や表面処理なども実施していますが、単価当たりの付加価値額は大きくありません。安定した受注と数量規模で稼ぐ事業モデルです。

 

主要なお客様とがっちりスクラムを組むことが求められます。これまで、そうしたやり方で事業を成長させてきました。コロナ禍にあっても、過去に築いてきた信頼関係のおかげで受注減も限定的です。

 

これはこれで素晴らしいことなのですが、幹部はあることに気付きました。特定のお客様に依存するリスクです。今回、乗り越えられたのは、たまたまだったかもしれない?もし、その主要なお客様の事業に変化があったら・・・現場は外部環境に翻弄されるに違いない。

 

兄弟である経営者と相談して経営改革を決断しました。

しかし、早速、問題に直面です。プロジェクトを立ち上げようにも、現場を主導するプロジェクトメンバーを選定できないのです。

職制上、工場長、課長、リーダーはいます。しかし、改革を主導できる人材はいないとのこと。冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

貴社には工場長や管理者を指名する際の判断基準がありますか?

先の企業ではそこがあいまいでした。原則、年功序列型人事で現場のベテランを順次、昇格させています。

年功序列型人事が悪いのではありません。昇格させても作業者視点でしか仕事をさせてこなかったやり方に問題あると言いたいのです。

 

生え抜きのベテランですから作業スキルはあります。納期遵守の大切も知っています。ただし、工場長や管理者になっても作業スキルと納期遵守の観点でしか仕事ができないとなると問題です。経営改革の本質は「変えること」だからです。

 

先の企業が工場長以下、やってきたことは個々の作業スキルに依存した納期遵守です。ベテランのやり方を踏襲することになります。つまり「変えないこと」です。真逆です。

それまでやったことのない仕事のやり方を急にやれと言われても工場長や管理者は困ってしまいます。やったことがありません。

経営改革を推進できる人材が育っていないことに気付いたのです。

 

 

 

 

 

工場長や管理者が育たない理由は明らかです。

1)本来やるべき工場長や管理者の仕事をやらせていなかったから。

2)工場長と管理者の役割と分担を定義していなかったから。

 

 

先の企業では、ベテランの仕事ぶりに合わせ納期を守るやり方で長年やってきました。とにかく物量をこなすのです。

技能に依存した力づくになっても納期さえ遵守できていればよしとされていました。工場長も現場と一緒になって納期を追いかけています。

経営方針が「現状維持」なら問題ありません。しかし、事業を成長発展させようとしたいならこれではダメです。納期遵守だけでは儲かりません。

 

人時生産性を高める観点を加える必要があります。リードタイム短縮のお作法も知らなければなりません。現場を「変える」必要があるのです。

工場長や管理者の仕事は経営者層の考え方に沿って現場を変えることであり、そうした仕事をやらせないと管理者は育ちません。

 

「工場長や管理者が育たない!」と嘆く前に、そもそも、幹部の視点で仕事をやらせていたかを振り返る必要があります。やらせていないのに育っていない!は当たり前と言えばあたり前です。

 

 

 

 

 

さらに大切なことがあります。経営者が工場長と管理者の役割と分担を明確に伝えているか?ということです。端的に言えば、貴社の工場長と管理者の定義です。

ポジションだけ与えて、具体項目は丸投げになっていませんか?ここは経営戦略や経営方針に従います。

経営者の右腕になって経営者に代わって現場を相手に仕事をするのが工場長や管理者です。定義を明らかにして、役割と分担をしっかり伝えなければなりません。

 

製造現場はチームです。

チームである以上、役割と分担があります。分担は下記の4つです。

 

1)経営する人

2)管理する人

3)判断する人

4)作業する人

 

工場長と管理者は2)と3)を担います。工場の規模によっては工場長が2)と3)を担う場合があります。特に重要な分担は3)「判断する。」です。

 

製造業の現場ではいろいろなことが起きます。原則、手順書に沿って納期遵守の生産活動です。その中では突発や特急もあります。

そして、人時生産性向上の論点も実践しなければなりません。成長の原資を稼ぎます。さらには品質や原価への配慮も求められ、安全確保は絶対です。

現場は常に動き、変化しています。異常と非常時も特別なことではなく頻繁です。製造業の現場では「判断する」の連続であると言えます。

 

工場長や管理者は「判断できる人」でなければなりません。したがって重要になるのは判断基準です。何に従って判断しているのか?です。

経営者の決めた判断基準に従います。

 

 

 

「わが社は常にお客様の立場を貫く。品質優先だ。非常時は全員で力づくでも乗り切るぞ。」こうした方針が示された現場を仮定します。

ある製品の納期が明日のあさイチです。夕方5時に出来上がった製品をチェックしたら、品質上の不具合がありました。

こうした場面で貴社の工場長やリーダーや職長はどんな行動に出ますか?

 

お客様の立場で考えるなら作り直しです。もう夕方ですが、これから全員で徹夜してでもこの非常時を乗り切らなければなりません。

判断する人がそう決めて現場を導くのです。

経営者の判断基準に従えばそう行動することになります。ここには他人事の考え方はありません。やならければならないので、やるのです。

 

判断する人はそういう分担を担います。経営者の意図を理解していなければできません。貴社では4つの分担、特に「判断する人」へ判断基準を示していますか?

 

「問題は社長が解決するものだ。」

「自分のやり方でないとやらない。」

「自分には関係ないからやらない。」

「自分は・・・・・」

判断基準がないとこんな言葉が現場から聞こえてきます。他人事です。分担を担わせる判断基準の設定は経営者の仕事です。

 

 

4つの分担があるのは役割を果たすためです。

工場長以下、管理者、作業者の役割はただ1つです。

 

儲かる仕組み(儲かる工場経営)を機能させるために、上司の支援をすること。

・作業者の上司とは部門長やリーダー

・リーダーや部門長の上司とは工場長

・工場長の上司とは経営者

 

全員が上を向いて仕事をします。下は向きません。

利益アップと給料アップは人時生産を高めるしかないのです。これはチームでしか、なし得ない仕事です。

チームに所属している以上、従業員1人ひとりに役割があります。それを果たさなければなりません。これはサッカーでも野球でも同じです。

 

 

 

 

 

役割と分担は行動変容を求める精神論ではありません。

儲かる仕組み(儲かる工場経営)を機能させるためにあなたはどんな貢献をしてくれるのか?という具体的な問いかけです。

それを、一人ではなく上司と相談して決めて欲しいと伝えています。

 

工場長や管理者の仕事は現場を導くことです。

作業スキルも大事ですが、こちらも大事です。そうした仕事をさせることで、工場長や管理者が育ち、そうした上司の姿を見て若手も育つのです。

これが仕事を通じた人材再生産体制です。仕事でしか、人は育ちません。

 

先の問題は事業のステージを高めようと考える経営者や幹部が必ず直面する問題です。だからと言って、これまでのやり方を悲観することはありません。

 

これまではそれでよかったのです。だから貴社はこれまで競合に勝ってきました。

ただし、削減の時代から積み上げの時代へ、外部環境は変わっています。成長発展しようとするならやり方を変えなければなりません。

競合に先んじてそのことに気が付いたのです。これを成長の機会と言います。せっかく、ここに至ったのです。

 

「そうですね。」と腹落ちした先の幹部はメンバーの選定に入りました。幹部育成も合わせた挑戦をスタートさせます。

今度は貴社の番です!

 

成長する現場は、役割と分担を定義して管理者に管理者の仕事をさせて生産性を高める。

停滞する現場は、管理者も現場と一緒に納期を追いかける仕事だけで現状維持に留まる。