「生産性ロードマップ戦略」—儲かる工場経営を目指して—第267話 売上高至上主義ではなぜ儲からないのか?

「先生、ウチは売上高だけを気にする仕事のやり方でしたね。」

ご相談をいただいた中堅製造企業経営者の言葉です。

 

ご相談のなかで課題を検討していたとき、現場の仕事ぶりが話題となりました。

 

自主的な改善活動はやっていません。さらには、工程間連携どころか工程内連携もほとんど見られないというのです。

従業員1人ひとりが自分に回ってきた作業指示書をこなすだけのやり方になっています。

 

まずはこのやり方を変えなければなりません。プロジェクトを通じて「変える」を成功させたいのです。設定する数値目標が大切な役割を果たします。

これまで、どんな数値を気にしながら仕事をやってきたのか振り返ったときに出てきたのが冒頭の言葉です。

 

 

 

 

 

経営者の願いは自社を儲かる体質に変えることです。

経営改革や構造改革。そのために現場を変え、意識を変えます。そうして事業を持続的に成長させるのです。ここで重要なことがあります。

正しい数値目標を設定することです。

 

儲かる体質に変えるために何をどうすればいいのかという唯一絶対的な正解はありません。企業はその一つひとつが生命体です。

個性もあります。創業者が現場へ埋め込むDNAは千差万別です。現在に至るまで積み重ねてきた歴史や経験はその企業にしかありません。二つと無いものです。

 

したがって、儲かる体質に変えるプロセスもその企業独自で二つとないものになります。正解の無い問題を解くようなものです。

学生時代のテストとは違って、企業活動にはそもそも正解は用意されていません。用意されていなければ創るしかないのです。

 

 

 

 

 

経営者の仕事は正解を自ら描くことです。

このあたり、誤解をしている経営者が、たまにいらっしゃいます。儲かる体質に変える「正解」が存在していて、弊社のような外部の指導機関が「正解」を教えてくれるはずだと。

 

弊社のような外部の指導機関が経営者へ提示できるのは手がかりです。事例や考え方、数式や数値をお伝えしています。そこから貴社の過去を踏まえて、適切なやり方を導くのです。

弊社が独自に構築した「お作法」があります。それに従って仕事を進めれば正しい方向へ軌道修正できます。

 

しかし、企業には個性があるのです。子育てと同様、その企業に適した当てはめ方をしなければなりません。個性を生かすために、経営者の皆様にも知恵を絞っていただかないと最適解に至らないのです。

 

そこでは、演繹的思考よりも帰納的思考が求められます。

帰納的な思考では事例が重要です。多くの事例を知っている外部機関に指導を仰ぐことが時間を買うことになると言われる理由がここにあります。

弊社は経営者の皆様にとっての最適解を設計するご支援をしているところです。

 

 

 

 

 

経営改革や構造改革とは正解のない問題を解くことです。経営者が正解を自ら創ります。それだけにプロジェクトの数値目標は正しく設定しなければなりません。現場へ正しいメッセージを伝えるためです。

 

売上高が経営の重要な指標であることに間違いはないですが、モノづくりが複雑化、高度化している昨今、売上高至上主義では儲からなくなっています。

 

・判断基準が売上高にあると製品毎の「儲け」を気にする機会がない。

・「儲け」を気にする機会がないと値決めのときに値引きを容易にやってしまう。

・「儲け」を気にする機会がないと納期を守っていれば問題ないと考えがちになる。

・納期を守っていれば問題ないという現場に「固定費回収」の考え方は浸透しにくい。

・その結果「生産性」と言う概念が生まれにくく・・・・・・。

 

経営者の思いもむなしく、従業員は銀行口座に毎月お金が振り込まれるのはあたりまえと思い込んでしまうのです。

これは従業員が悪いわけでもなんでもありません。原因は「お客様から給料の原資をいただいている」という至極当然のことを理解する環境がないことにあります。

 

多品種少量生産が前提の昨今、人時生産性向上に焦点を当てて、中小製造現場の強みである柔軟性、小回り性、機動性を生かすのが生き残る道です。

お客様の納期に合わせて仕事をやっていても儲かりません。面白くもありません。

 

 

 

 

 

国内GDPが右肩上がりで伸びていた90年代までなら売上高に利益がついてきました。現場ではコスト削減さえしていれば儲かったのです。

しかし、00年代になり時代の流れは大きく変わりました。削減だけではもはや儲かりません。積み上げなければ儲からなくなったのです。「儲け」を積み上げます。

 

お客様から積極的にいただく・・・こうした思考回路を現場も持たなければなりません。儲けや人時生産性の考え方が必要とされる所以です。

そもそも、それらが増えないと給料はアップしません。これも至極当然のことです。

 

では、何をどうすれば人時生産性が向上するのか、その具体項目がリードタイム短縮や手離れのイイ生産体制です。

経営者は正しい数値目標といっしょに目標を達成する手順(方針)も設定します。

 

改革が初めての現場は課題を目の前にして徒手空拳です。数対目標と共に、数値目標を達成する手順や方針を示す必要があります。

富士山の山頂を目指すにも、山梨県側から登るのか、静岡県側から登るのか、経営者が決めるのです。

 

数学の難問を解くにも解答方針を立ててから・・・。闇雲に計算しても無駄になる。答えにたどり着くルートが見えてくるまでは計算しないように。

中高学生時代にこんなことを教わった記憶はありませんか?それと同じです。

私達はそれ以上に難しい問題を解こうとしているのです。正解のない問題を解かなければなりません。

 

・正しい数値目標(人時生産性)を設定する。

・目標を達成する手順(方針)を設定する。

 

 

 

 

 

人時生産性は論点で定義が変わります。生産性=アウトプット÷インプット。アウトプットは付加価値額です。分母のインプットを論点に応じて変えます。

 

会社全体の儲ける力を知りたかったら、分母は全従業員を対象にした総工数です。この総工数に経営者層は含みません。

現場における直接的な生産活動の儲ける力を知りたかったら、分母は直接員総工数です。

また、設計・開発部門や営業部門、総務部門などの間接部門の儲ける力を知りたかったら、分母は間接員総工数です。

 

例えば、下記を仮定します。

付加価値額180百万円/年、全社総工数40,400人時/年(直接員総工数35,000人時/年、間接員総工数5,400人時/年)。

 

・付加価値額人時生産性(全従業員)

180百万円/年÷40,400人時/年=4,455円/人時

 

・付加価値額人時生産性(直接員)

180百万円/年÷35,000人時/年=5,143円/人時

 

・付加価値額人時生産性(間接員)

180百万円/年÷5,400人時/年=33,333円/人時

 

1つめは全社の人時生産性です。企業全体の儲ける力と言えます。弊社で中小が3,000円台、大手が6,000円台としばしばお伝えしているそれです。

 

2つめは直接員の人時生産性です。製品別で必要となります。製品毎付加価値額を生み出した手間暇は直接員分です。生産活動、そのものを設ける力を評価します。

 

3つめが間接員の人時生産性です。間接員は製品を製造するのに直接かかわっていませんが、直接員が生み出した付加価値額に貢献していると考えます。

減少傾向にある場合が要注意です。年々じりじり減少しているということは、積み上げた付加価値額に対する間接部門の貢献度が少なくなっていることを意味しています。間接業務の見直しが必要です。

 

 

 

 

 

経営改革や構造改革とは正解のない問題を解くことです。

経営者が正解を自ら描く必要がある以上、数値目標を正しく設定しなければなりません。そこで人時生産性を掲げます。

 

プロジェクト成功の可否は正しい数値目標と手順次第です。正解が存在していないだけに羅針盤が必要となります。人時生産性です。分母を変えれば評価したいことを変えられます。

 

「儲け」と「工数」。両者のバランスが要点です。

 

分母を増やす以上に分子を増やすという投資の考え方は生産性から導かれます。売上高至上主義では気が付きません。貴社も独自に人時生産性を定義すればいいのです。

先の企業では全社と製品別を考えることにしました。分母は総工数と直接員分です。

次は貴社の番です!

 

成長する現場は、目標人時生産性とその具体手順を羅針盤として正解の無い問題を解く。

停滞する現場は、売上高至上主義なので納期遵守オンリーさんで儲けを知る機会が無い。